第28回 短篇小説の部 受賞者インタビュー
最優秀賞 『あるく桜前線』
東京都立三鷹中等教育学校 黒須 さくらさん 作品はこちらからご覧いただけます

―受賞した感想を教えてください。
まさか賞を頂くとは思ってもいなかったので、結果を聞いた時はとても驚きました。私自身、小説のコンテストに挑戦することも、受賞することも初めてで実感が湧かないのですが、私の作品がどなたかの目に留まり、最後までお付き合いいただいたこと、とても嬉しく思います。この場をお借りして感謝申し上げます。
―このコンテストに応募しようと思った理由を教えてください。
作品を読んでくれた友人がコンテストの存在を教えてくれました。彼女の薦めで応募いたしました。
―受賞作品が生まれたきっかけ、作品に込めた思いを教えてください。
大学受験を控えた身として、文学の道に進みたいという志に決着をつけようと思い筆を執りました。勉強の息抜きの一面もあったと思います。
春、最後のクラス替えで、桜が一番綺麗に見える教室に当たりました。英文法問題集にあった「彼は言わば歩く辞書だ」という例文と桜の景色から、表題「あるく桜前線」を思いつきました。
―受賞作品の創作にあたって、工夫したこと、苦労したこと、楽しかったことをそれぞれ教えてください。
工夫としては、人物の細かな設定を丁寧に作り、彼らが勝手に喋り出すような環境を整えることに注力しました。先生が生物教師である理由、三島の名前について、それぞれの過去と交友関係や、それについて本人が思っていることなど、作中では触れなかった部分も作り込むことで、自然に台詞が回せたと思います。一方苦労したことは、上述の工夫を受けて、かえって二人がお喋りになってしまったことです。出品を決めた段階で文字数は規定内に収まったのですが、指定枚数をはみ出してしまいました。先生は花の話を始めると止まりませんし、三島は心内文となると水を得た魚のように語り出すので、結果パンケーキのトッピングを減らし、先生の歯を何本か削って解決に至りました。ラナンキュラスとピンポンマムを抜歯しました。また、たくさんの友人に作品を読んでもらい、感想をもらったことがとても楽しく嬉しかったです。好きな言い回しや表現を教えてくれたり、新しい視点から感想をくれたりといずれも自力では気付けないことばかりで面白いです。
―受賞作品の創作を通して、得たことや成長したことを教えてください。
この物語は、人ならざる二人が、少しずつ互いの距離を計りながらそっと寄り添いあう作品です。相手に踏み込まれたくない心の奥底と、それでも誰かを理解したい、されたいと思う気持ちは、私にとって向き合うべき永遠のテーマであり、多くの中高生が抱える悩みだと思います。今回作品を書くにあたって、等身大の自分を言語化することができたと思います。
―創作活動は日頃から行っていますか?
はい。
―創作活動の魅力はどんなところですか?
創作活動の魅力は、解釈が読み手の数だけ存在するところです。前述しましたが、多くの友人に作品を読んでもらった時、十人十色の感想が返ってきました。読者によって創作世界の広げ方、自分なりの補い方が違い、人を介して物語がどんどんカラフルになっていく感じがしました。
―創作のこだわりやポイントを教えてください。
響きがきれいな言葉選びや、続きを読んでもらえるような一文目を心がけています。また、何かを思いついたら、何としてでもすぐにメモを取り、アイディアが風化しないように気をつけています。
―創作活動に興味がある人、始めようとしている人へアドバイスをお願いします。
沢山本を読むことはもちろん、そのほか身の回りにある楽しいこと、心躍ることに目を向けるとよいのではと思います。今日の月の光り具合についてメモを取る、薔薇園に行って品種の説明を読む、隣の家の猫と会話を試みる、良い形の雲を写真に収める、美味しいお茶を飲む、新しいコスメを探しに行く、美術展に足を運ぶ、楽器を吹く、何でも大丈夫だと思います。作品のモチーフそのものに繋がらずとも、創作意欲を刺激するトリガーになり得ると私は信じています。
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