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優秀賞 
 「俳句を見られた」 髙橋 尚暉(群馬・東京農業大学第二高等学校3年)
 「空蟬」 板東 ななみ(愛知県立大府東高等学校3年)

 

優秀賞 「俳句を見られた」 髙橋 尚暉(群馬・東京農業大学第二高等学校3年)


カルキの抜かれた夢に溺れかけていた
海色の空に浮かぶ訃報
漆喰で汚れたクジラの骨
箱に押し込めた嘘が山積みになっていく

何か見えないものを信じている
自意識と美意識がまじわる交差点
言葉に轢かれて干からびた少女
また目を閉じて消失点を探す

しまった
恋人に俳句を見られた
宇宙の運命に殺されてしまいそう

しまった
隣人に俳句を見られた
流行りの病に殺されてしまいそう

気圧のせいで体調を崩した
持て余した表現の自由を手のひらで転がす
湿度のせいで彼に嫌われた
いつもカラオケで歌うのはオクターブ下の幸せ

心療内科の受付横からサラブレッドを見た
上野の飼い葉はとても美味しいみたい
乾いた言葉は可燃性の紙屑だったから
ひとたび燃えるとすぐ灰に変わった

こまった
警察に俳句を読まれた
銃で撃たれて死んでしまいそう

こまった
少女に俳句を詠まれた
涙に溺れて死んでしまいそう

きっと彼らは頭の中で
ほんとは誰もそこにはいない
寒い日に「寒い」と言うように
僕が僕でいられますように

今日も誰かに俳句を見られる

受賞者コメント

 自分の作ったものが評価されたということで、純粋に嬉しいです。日頃から趣味で小説や詩などを書くことが多いので、自分の活動を形に残せたらと思い応募させていただきました。
 日常で抱く自意識を取り払いたいという願いを元に書きました。教室でクラスメイトから隠れるようにして小説を書いていた時期があったのですが、題名の『俳句を見られた』はそこから名付けました。「自意識なんて消えてしまえ」という無茶な願いと、「けれどやはりどうにもならない」という諦観的な悟りを乖離させず、あくまで理想と現実に折り合いをつけさせようと意識したつもりです。
 文章の緩急を意識し、ややショッキングなフレーズを所々に挟むなどして読み手に飽きられないような工夫をしました。表現したい内容は定まっているのに適した言葉が見当たらず、頭の中の引き出しを何度も開けたり閉めたりしているような場面に何度か遭遇しました。しかし相応しい言葉はパズルのピースみたいにピッタリと文章にはまるので、苦労に見合う達成感もありました。最も楽しいと感じたのは出来上がった作品を数日後に見返し、それらに修正を重ねていくことでした。何度も推敲を重ねるうちに、昨日までの自分では気づかなかった価値観や考え方を発見できると、物を書いていてよかったなと思えます。物事の先入観や固定観念に囚われず、むしろそれらの裏側に目を向けられるような視点を持つことができるようになったと思います。
 その時の感性をありのまま映し出せるところが創作活動の魅力だと思います。例えば、自分が以前に書いた作品を読み返せば、過去の価値観や考え方に触れることができます。今と過去の感性を比較し、そこに成長、あるいは変化を見出せるのは大きな魅力だと思います。
 創作するにあたり、自分の価値観や感性に嘘をつかないよう心がけています。読み手に媚びるような作品だけは作りたくないと思っています。
 他人の評価など気にせず、まずは自分の表現したいことを決めて自由に書いてみるのが良いと思います。 

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優秀賞 「空蟬」 板東 ななみ(愛知県立大府東高等学校3年)


急に空から降るものが
私の制服に染みをつくりはじめる
木の下闇に 駆けた
太陽は顔をのぞかせるのに 天気雨
雨音と蟬声が 陰を境にして
雨宿りする私と雨浴びる日常を隔てる
ふと視野のすみの木肌に 空蟬

なあ 空蟬よ
あなたもきっと
日常という地のなかに囚われて
価値の大きさを知ることがなかっただろう
あなたもきっと
殻にこもるのが退屈で
空の悠悠さを夢みただろう

なあ 空蟬よ
あなたはきっと
心地よい青春をまとい
羽化をひたすらに恐れたでしょう
あなたはきっと
陳腐した常識という殻をやぶり
めいっぱいに羽をひろげたのでしょう

地が雨をつよくはじく
ケラケラと笑う ゆれた青葉
あなたはきっと 自分を追っているのね
雨音と蟬声の殻をやぶり
足をまえに走らせた
ひすいいろの羽をまとって
晴れた雨のなかに 私

受賞者コメント

 この度は輝かしい賞を頂き、感謝の気持ちでいっぱいです。ありがとうございます。ホームページでこのコンテストを見つけて、最初で最後のチャンスだと思い、応募させて頂きました。
 古典の授業の時、教科書に載っていた「源氏物語」のなかで「空蝉」という文字を見つけたことがこの詩のきっかけでした。作中では登場人物の通称でしたが、辞書で調べ、「蝉の抜け殻」「この世に生きている人」という意味を持つことを知りました。コロナ禍で学校行事はほとんど中止になり、改めて日常の価値の大きさを痛感している日々のなかで18歳という節目に立つ私自身、自身の進路や未来への希望を空蝉と重ね合わせて創作しました。羽化直後の蝉の羽色であるひすいいろの羽を纏って雨の中を走っている私の描写もそのためです。「天気雨」「晴れた雨のなか」という言葉で矛盾している複雑に絡み合った私の気持ちを表現しています。
 工夫したところは作文にならないように文字のまとまりを意識した点です。連ごとにすべての行数を7行に合わせています。頭の中にこの景色を思い浮かべてパズルを組み立てるようにことばを構成したり、削ったりしていくのがとても楽しかったです。ことばひとつひとつの意味を調べてながら創作したので知らなかったことをたくさん知ることができました。
 詩は、小説や作文とは違って一瞬やその時を表現できるのが詩の面白さだと思っています。行数やことばの構成、間のとり方などたくさんの表現の方法がある詩はとても奥が深いものだと思います。日常から気になったことばは辞書で調べるようにしています。思いついたことはメモしておくようにしています。
 私はあらゆる物事に対して深く考え込んでしまうので、内に秘めた自分の考えや思ったこと感じたことを文字にするのは難しいことですが自分を見つめ直すきっかけになると思っています。私自身、今回が最初で最後のチャンスだったので失敗を恐れずに何事にも挑戦する気持ちを大切にしてください。私も微力ながらますます尽力していきます。

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