3~8人の少人数編成で演奏を披露するアンサンブルの全国大会「第44回全日本アンサンブルコンテスト」(全日本吹奏楽連盟、朝日新聞社主催)で金賞を受賞した埼玉・伊奈学園総合高校吹奏楽部。同大会で同部通算8度目の金賞に輝き、強豪校の実力を発揮した。今大会に出場した「金管八重奏」のメンバーに、全国大会までのエピソードを交えつつ演奏力を磨いた練習法を語ってもらった。(文・写真 中田宗孝)

昨年9月、学年や実績関係なく響かせる音色だけで選考する部内オーディションを2回実施し、アンサンブル大会に出場する「金管八重奏」のメンバー8人が決定した。

コロナに負けずに金賞を勝ち取った

トランペット、ホルン、トロンボーン、チューバによる編成で取り組んだ楽曲は、同部に書き下ろされた新曲「金管八重奏のためのコンポジションII」(福島弘和作曲)だ。3rdトロンボーンを担当したメンバーの紺野愛華さん(3年)は、「金管楽器のサウンドをしっかり聞かせる曲。

ミュート(ベルから出る音を弱める器具)を使用して音の変化をつける箇所も曲中にあり、さまざまな金管楽器の音色が楽しめるんです」と、同曲の魅力を語る。

金管特有の響きを聞いて!

大会に向けた練習は、大人数編成による普段の合奏練習に参加しながら、隙間時間を見つけて行った。アンサンブルの練習にあてられるのは、平日30分~1時間、休日は1時間弱と限られる。

真剣なまなざしで音色を披露

メンバーの一人、2ndトランペットの鏡堅心君(3年)は、「全体合奏の練習と同時進行なので大変でしたが、少人数編成のアンサンブルならではの楽しさがある」と話す。

「自分が受け持つパートは自分一人なので責任が大きくなる。アンサンブルは指揮者もいません。でもそれが面白さ、やりがいでもあります。全体合奏のサウンドとは違った、奏者一人一人による(金管)楽器特有の響きを聞かせられるんです」

テンポと音量のバランスが肝心

大会用の楽曲を仕上げるために、練習では「音程」「音の強弱」「抑揚の付け方」を意識したという。

「複数人で音色を作るトランペット、トロンボーンのメンバーは、特にその3点を意識しながら、全員が同じ吹き方でそろえられるようにパート練習を重ねました」(鏡君)

鏡君(左)と紺野さん

8人そろっての演奏では、「テンポ」や「音量バランス」に気を配った。「各楽器でテンポが速くなったり遅くなったりしないように一定のテンポを刻む演奏を心掛けました。また、例えばトランペットの音量が大きくて他楽器の音が聞こえない。そうならないよう、音量バランスを整えました」

演奏中に気になった所は、部で学生指揮者を務める鏡君が主に指摘。「部の全体合奏でも各楽器の音を聞いています。その経験が活きました」

アンサンブルのメンバーは以前から気心知れた仲間たち。「頑張ろうね!」と鼓舞しあいながらモチベーションを高めたという。

仲良しのメンバーたち
 

「練習中、日めくりカレンダーのようなもので『大会まであと〇日』とカウントダウンしてたんです。『めくりまーす』『みんな、見てー』。そしてワ―ってなる、みたいな(笑)」(鏡君)

アンサンブルメンバーたちのレベルアップを図るには意外にも、「曲の練習だけではなく基礎練習を大事にします」(紺野さん)。

基礎を重視する意図を鏡君は、「アンサンブルは『音のハーモニー』が曲の完成度を高めます。ロングトーン、リップスラーといった音出しの段階から『ハーモニー』を意識した基礎練習をすることで、みんなで合わせるときに一番良い状態にもっていけるようにするためです」と話す。

基礎練習が大事

基礎練習の時間は、「どんな音色がアンサンブルに必要か」と、個々の奏者が考える機会も作っていた。

磨き上げた表現力で金賞に

3月、宮崎県で開催された「全日本アンサンブルコンテスト」全国大会で、同部「金管八重奏」の演奏は高く評価され、金賞に輝いた。

本番の時の写真(学校提供)

紺野さんは「アンサンブル曲の練習を始めた当初は譜面どおりに演奏するのが精一杯。ですが、顧問の先生の指導や私たち一人一人が考えて音を出すことで、自分たちの演奏に音の強弱やニュアンスといった表現力が加わりました」と振り返る。

大会結果はインターネット上で発表され、金賞の吉報は帰路の空港で届いた。メンバーたちは抱き合ったり、泣いたりと喜びを分かち合った。

コロナに負けない

新型コロナウイルスの感染拡大を受け、昨年度は「全日本吹奏楽コンクール」はじめ主要大会の中止、活動日の制限など、吹奏楽部にとって試練の1年だった。

同部顧問の宇畑知樹先生は、「今まで以上に体調管理を徹底したり、練習法の創意工夫だったりと、コロナ禍での練習はこれまでにない経験ばかりでした」と振り返る。

密を避けるためにより多くの教室に部員を分散しての楽器練習、歌練はマスクを付けたまま小声で歌うといった細やかなコロナ対策を行った。

金管八重奏にチャレンジした8人。切磋琢磨できる仲間と出会った(学校提供)

そして、練習の効率化にも着手。部活の時間が始まってから合奏の準備をしていた以前までの慣習を変えて、開始前に楽器の準備を終えておき、ミーティング後にすぐに練習に移れるようにした。

「(コロナ禍で)短時間しかできない練習の中でムダな時間を作らない工夫をしながら楽器演奏に励みました」(鏡君)

部活データ

1984年創部。部員数156人(3年生77人、2年生79人、3月30日時点の数)。週6日活動。「全日本吹奏楽コンクール」21回出場(金賞15回)、「全日本マーチングコンテスト」13回出場(金賞8回)、「全日本アンサンブルコンテスト」16回出場(金賞8回)。