春日部共栄高校(埼玉)吹奏楽部は、今年の「全日本吹奏楽コンクール」(全日本吹奏楽連盟など主催)高校の部で、13年ぶり6度目の金賞に輝いた。演奏曲の表現力を高めるために重ねた、部の取り組みを聞いた。(中田宗孝)

丁寧な「基礎練」がカギ

「共栄サウンド」の源は、基礎練習の徹底にある。朝練での個人練習、放課後からの楽器別のパート練習や複数の楽器によるグループ練習。どんな時でも、まず「基礎」からだ。

前部長の河井瑞季さん(3年、サックス)は、「音づくりの基本中の基本となる基礎練を私たちは大事にしています。基礎錬を丁寧に行うことが、合奏をする際の『力』になるんです」と話す。

9月に開催した部主催の「オータムコンサート」(写真・学校提供)

基礎合奏の一つに、音域ごとにグループ分けをして行っている「バランス練習」がある。低音域(チューバなど)、中低音域(トロンボーンなど)、木管楽器(オーボエなど)、高音域(フルートなど)の4つの音域グループに分かれ、低音域グループがドを4拍、次に中音域グループがドを4拍……と同じ音を重ねていく。

「バランス練習で、音程や音色、ブレスのタイミングなどを合わせていきます。もし誰かが違う吹き方をしていたら音はばらけてしまう。奏者全員が良い音で同じ吹き方になるようにそろえます」(河井さん)

一音ごとに試行錯誤

部長の渡部陽菜さん(2年、ユーフォニアム)は「基礎練のときでも奏者一人一人の意識のあり方が大切」だという。

「何も考えずにただ吹くのと、明確な目的やイメージを抱いて吹くのでは、音が全然違ってきます。私自身、一つの音を奏でたり伸ばしたりするたびに、『音色を変えていこう』『別の手法も試してみよう』と考えるようにしています」

バランス練習のほかにも、「スケール(音階)」や「ハーモニー(和声)」といった基礎合奏に根気よく取り組む。その日々の積み重ねが、個々の演奏技術の向上や一体感のある合奏へとつながっていく。

「全日本吹奏楽コンクール」金賞のトロフィーを手にする前部長の河井さん(右)と現部長の渡部さん(写真・中田宗孝)

コンクールメンバーでオペラ鑑賞

「全日本吹奏楽コンクール」では、課題曲とあわせて演奏する自由曲に「楽劇『サロメ』より 7つのヴェールの踊り」を選んだ。楽曲のイメージをふくらませるために、コンクール選抜メンバーで実際にオペラ公演「サロメ」を観劇した。

「楽譜どおりに『サロメ』を演奏するだけでは何も伝わらないと悩みました。部員たちの気持ちを一つにして、表現力がついたときにパッと花が咲く楽曲だと考えたんです」(河井さん)。ヒロイン・サロメの狂気に満ちた愛の物語を肌で感じたことで、合奏時の音色の変化があったという。

先輩もニックネームで呼ぶ

部は100人を超える大所帯。先輩後輩の垣根のない雰囲気の中、上級生部員たちを「○○先輩」ではなく「○○さん」やニックネームで呼ぶのも部の習わしだ。「入部したばかりの1年生部員には、2・3年生部員の仲の良さを見てもらえればなと思っています。私たちは音楽や演奏以上に人間関係を大切にしています」(渡部さん)

意見交換の場では、学年関係なく意見が飛び交う(写真・中田宗孝)

トランペットのパート練習をのぞくと、パートリーダーが会話の中心になりつつも、学年関係なく自由に発言していた。「アクセントが強くなる箇所は歯切れよくはっきり吹いていきましょう」「私は演奏中にリズムが分からなくなることがある」「細かいリズムの変化は頭の中でカウントするといいんじゃないかな」

同部では、「打ち合わせ」と称する部員同士の積極的な意見交換は、アンサンブル編成時や全体合奏など、あらゆる場面で行われるそうだ。「演奏面で気になることを部員たちでアドバイスし合いながら、みんなで高め合っています」(渡部さん)

金賞よりも「心が通じる演奏」を

織戸祥子先生は9年前、26歳のときから顧問を務める。全国レベルの吹奏楽部では若手の指導者で、数少ない女性指揮者だ。「生徒同士の心が通っていて何でも言い合える環境づくりは意識しています。それが、より良い音楽につながっていくと考えています」(織戸先生)

コミュニケーション重視の姿勢は、部員間だけでなく、顧問と部員との関係性でも同じだ。「日ごろから、『相談はして』と伝えています」(織戸先生)

指揮をする織戸先生(学校提供)

河井さんによると、部活での悩みごと以外にも進路相談など織戸先生を頼る部員は多い。そんな、人と人との心温まるコミュニケーションが音楽を豊かに育んでいく。「技術力の高い演奏をすればいい、大会で金賞が取れればいいという指導はしていません。目指しているのは、聞いている人に訴えかけるような、気持ちのこもった演奏、心が通じる音楽です」(織戸先生)

1980年創部。部員111人(3年生36人、2年生37人、1年生38人)。週6日活動。部内のオーディションを経て、毎年初夏ごろから「翔(つばさ)」、翔のサポートも担う「希(のぞみ)」の2つの合奏グループを編成し、それぞれ大会に臨むのが伝統。「全日本吹奏楽コンクール」に18回出場し、金賞を6度受賞。