アニメや映画などでキャラクターたちに命を吹き込む声優の仕事に憧れる高校生も多いだろう。数々の作品で主役を演じるなど大人気声優の花江夏樹さんが、「将来、声優になりたい!」と夢見る高校生たちに真摯に向き合い、アドバイスを送ってくれた。(取材=高校生記者・川元優輝)

 

高校時代は小説や漫画を音読 日常の自分の声も録音

―声優に憧れる高校生から花江さんに質問が届いています。「私は花江さんのように声優になりたいという夢を持っていますが、何をすればよいのか分かりません。声優を目指してどのような練習をしていましたか?」とのことなのですが、いかがでしょうか?

そうですね。僕は、高校2年生の時に声優になる決意をしました。高校時代は、早口言葉や文章を音読して、自分の滑舌を良くするトレーニングをしていましたよ。好きな小説の文章や漫画のセリフを声に出して読んでいました。

高校生のころは、1日の生活の中で活字にふれて、音読の時間をどれだけ長く作れるかを意識しながら過ごしていましたよ。

―個人練習に励む日々を過ごす中で、発声の上達や成長を自ら実感できるのでしょうか?

自分の声を録音して聞き返していました。音読の時だけでなく、普段の生活で何気なく発する自分の声を録音することもありました。

そして、自分自身の声を客観的に評価する視点をどれだけ持てるかにも気をつけていました。自分の声を何度も聞くうちに、練習を始めたばかりの時と比べて成長を感じられて、自信にもなっていきましたね。

あとは、アニメが好きな友人などに自分の声を聞いてもらって、意見をもらったりしていました。第三者の意見を参考にしてみるのも良いと思います!

―他にはどんな声の特訓をしていましたか?

僕はアニメ作品のキャラクターを演じる声優として活動したいなと思っていたので、好きなアニメ作品の登場キャラクターの中から、自分が演じるキャラを決めてセリフを書き出して、アニメの映像を無音で流しながら声をあてて練習していました。

みなさんも、もし声優になったらどんなジャンルで仕事をしたいのか具体的に思い描いて、練習内容を考えてみてください。自分1人でもできる練習方法はたくさんありますよ。

映画「泣きたい私は猫をかぶる」に出演中

高校生活で湧いてくる感情を忘れないで

―同じく声優を目指す高校生から「声優になるために高校生のうちにやるべきこと、意識しておいたほうが良いことはありますか?」と質問が来ています。

声優の仕事は、自分自身のこれまでの経験がお芝居の「引き出し」になります。日常生活の中で湧いてくる喜怒哀楽の感情、高校生として過ごす時間や経験は絶対に覚えておいてほしいです。僕自身、今でも高校生役を演じる時、あのころの自分はこんな気持ちだったな、こんなシチュエーションの時どんな声を出していたかな、このぐらい声がかすれていたなとか、自分の学校生活の記憶を思い返しながら芝居に取り入れています。

人がやらないことをする力が声優としての個性になる

―声優を目指す人はたくさんいますが、花江さんのように成功する人は限られています。ふと疑問に思ったのですが、成功する声優さんは何が違うと思いますか?

うーん、そうですね……。まず自分の時間を、声優として力を磨くためにどれだけ使えるか、あとは周りを見ていると、発想が豊かな人が多いように思います。人がやっていないことをやろうとする力も大切かなと思いますね。目指す人が多い中で、個性を出すには、それらが必要なことじゃないかな。

僕自身、自分をプロデュースできる部分は自分でやろうとしています。きっと高校生のみなさんのほうが考え方が柔軟ですし、現代の技術で個人でもできることが増えているので、それらを生かしていろいろな角度から自分をプロデュースするアプローチをためしてみると面白いかもしれませんね。

―声優はとても華やかで、憧れてしまう職業ですが、声優になって後悔したことはあるものなのでしょうか?

後悔したことはあまりないですが、もともと声だけで仕事をしたいと思っていたので、顔が出る映像の仕事をするイメージはありませんでした。実は今も顔出しの仕事には苦手意識があるんですよ……。

―え! テレビにも出演されているので意外です! どうやって克服したんですか?

いやあ…あまり克服できてないですよ。だから、「別の自分」を演じているイメージでやっています。そうすると楽しめるんですよね。

何度も青春を過ごせるのが醍醐味

―声優になって良かったことはありますか?

たくさんありますよ! 例えば、大人になっても「青春」を何度も繰り返すことができるところです。ファンタジーの世界の中に行けたり必殺技を使えたりと、子供のころに憧れていたことを体験できるのもうれしいです(笑)

なにより、参加したアニメ作品や、僕の演じるキャラクターを見て、誰かの心を動かせた時は、特に声優になって良かったと思います。

―最後に、声優を志す高校生にメッセージをください。

「声優業界は間口が狭い」「ひと握りの人しかプロの声優になれない」なんて、よく耳にしますが、僕は実はそんなことはないと思っています。誰よりも情熱を持って、誰よりも声の研究や練習に時間を費やせば、それが自信につながって、必ず声優になれると思っています!

なれるか不安な気持ちが湧いたらとにかく特訓。不安が100%なくなることはありませんが、練習は技術として身についていきます。練習は嘘をつかないんです。(構成=中田宗孝)

はなえ・なつき

1991年6月26日、神奈川県生まれ。2011年、声優デビュー。声の出演作は、「鬼滅の刃」(竈門炭治郎役)、「東京喰種トーキョーグール」シリーズ(金木研役・佐々木琲世役)、アニメ「四月は君の嘘」(有馬公生役)など多数。子供向けテレビ番組「おはスタ」(テレビ東京系)ではメインMCを務めている。

花江さんが出演中のアニメ映画「泣きたい私は猫を被る」をチェック

「泣きたい私は猫をかぶる」

 

自由奔放な言動を繰り返す笹木美代(声:志田未来)は、友人たちから「ムゲ(無限大謎人間)」というあだ名で呼ばれる中学2年生。ムゲは、一方的に好意を寄せるクラスメートの日之出賢人(声:花江夏樹)に猛アタックするが相手にされずにいた。そんなある日、猫に変身できる不思議なお面を手に入れたムゲは、猫の姿で日之出に接近を試みる。

6月18日より「Netflix」にて全世界独占配信。

(C) 2020 「泣きたい私は猫をかぶる」製作委員会