気象庁が「過去30年の気候に対して著しい偏りを示した天候」と定義している異常気象。近年は世界各地で頻発し、今夏は猛暑や豪雨などが日本列島を襲い、多くの人たちに甚大な被害をもたらした。その原因は? 今後、異常気象はどれほど起きるのか? 国立環境研究所で地球温暖化について研究している塩竈秀夫さんに、高校生記者が取材した。(聞き手・竹内響、矢舗怜央奈 構成・小野哲史)

猛暑が起きる確率高まる

――記録的な猛暑や豪雨はなぜ起きるのですか?

西日本を襲った7月の豪雨は、太平洋側からの湿った空気と、東シナ海からの湿った空気が合流し、そこに梅雨前線の停滞などが重なってもたらされました。その後、勢力を拡大した太平洋高気圧が強く張り出し、日本列島を覆ったことで猛暑を生み出した、と気象庁は分析しています。

――異常気象の発生と地球温暖化は関係ありますか?

熱波や大雪、大雨や干ばつが起きると、必ず「これは地球温暖化のせいですか?」と聞かれますが、人間がいようがいまいが、低気圧や高気圧は存在し、台風や干ばつは起きます。こうした現象を一般的には「自然の揺らぎ」、専門的には「内部変動」と呼んでいて、何か一つ異常気象が起きたときに、それが百パーセント地球温暖化のせいだとは言えません。

もっと詳しく説明しましょう。私たちの研究では、コンピューターシミュレーションによって現実の気候を再現できます。

大気や海洋にはカオス的性質(偶然が支配する性質)があり、低気圧が来るか高気圧が来るかはランダムです。海面温度や二酸化炭素(CO2)濃度が同じ状況でも、猛暑のときもあれば、寒いときもあります。ですが、地球が温暖化すると、「たまたま暑くなるときの確率」が高まります。逆に「たまたま寒くなるときの確率」は低くなります。つまり、このまま温暖化が進むと「猛暑が起こりやすくなる」とは言えるのです。(図参照)

海面温度やCO2 濃度など同じ条件で地球環境を複数回シミュレーションした場合、暑い夏になるか涼しい夏になるかを白いボールで表現したもの。山が高いほどその気温になる確率が高く、端の低いところほどその確率が低いことを表している。温暖化すると、猛暑になる確率が上がる
 

温暖化続けばより暑く

――今夏の豪雨と地球温暖化との関連は?

今年7月の豪雨に関して、人間活動の影響が確率を何%上げていたかは、現在研究中なのでまだ分かりません。ただ観測データから、強い雨が増えていることは分かっています。冷たい空気よりも暖かい空気の方が、多くの水蒸気を含むことができます。低気圧が通ったときにたくさん水蒸気があれば、雨はたくさん降る。温暖化すると強い雨が増えるという原理です。亜熱帯は別の理由で減ったりしますが、中高緯度や熱帯の地域では実際、強い雨が増えていて、それは人間活動の影響だろうといわれています。

――地球は暑くなっていると本当に言えるのですか?

グラフは、日本の15観測地点における7月の平均気温が基準からどれだけ高いか(低いか)を示しています。20世紀初頭の暑い年の気温が、現在では平年並み、あるいは平年より低いことが分かりますね。このまま温暖化が続けば、暑い日がどんどん増えていくことが考えられます。ちなみに1890年以降の世界の年平均気温は、上位16位までが21世紀に入ってからの17年間に固まっています。

1898 ~ 2018 年の7月の平均気温が、基準からどれだけ高いか(低いか)をまとめた表

高校生が習う物理では、原因があればたった一つの結果がありますが、実際の世界ではそれだけで説明できる領域はすごく少ないのです。私たちの研究では、何か原因があった場合にその結果が発生する確率を考えることが多い。天気予報も同様で、たくさんのシミュレーションをした結果、何%の確率で雨や晴れと予想しているわけです。

豪雨や猛暑は今後も増加

――今後、異常気象が増えていくのでしょうか?

現象によります。猛暑は確実に増え、中高緯度における強い雨も増えると考えています。逆に小雨のような弱い雨は減ると予測されていて、雨が降らない日が増えることで、干ばつが増える可能性があります。ただ、これはまだ確信度が低い。強い台風が発生する可能性が割と高い一方、地球全体の発生数や日本への上陸数はどうなるかの予想が最も難しく、専門家によっても意見が分かれています。

 
塩竈秀夫さん
しおがま・ひでお 国立環境研究所地球環境研究センター気候モデリング・解析研究室主任研究員。武生高校(福井)卒。京都大学大学院理学研究科博士後期課程修了、博士(理学)。
 
 

取材を終えて CO2、減らす必要を実感

 「とても暑い夏」と「平均的な気温の夏」「涼しい夏」は毎年どれも起こり得る。だが、 近年は地球温暖化の影響によって「とても暑い夏」が比較的多く発生するようになってきていると知った。技術大国の日本や米国が実用的なCO2 吸収装置を開発する必要があると思った。 (矢舗)

 異常気象は全て人間の環境汚染が引き起こすものだと思っていたが、「自然の揺らぎ」という現象を知り百パーセント地球温暖化のせいと言えないことに驚いた。だが、私たちの排出する温室効果ガスが環境を壊し、気温の上昇や豪雨の増加に影響を与えている。減らしていく努力が重要だと思った。 (竹内)

 

※塩竈さんが行う日々の研究や、高校生研究者へのアドバイスはこちらから。