悔しさをバネにはい上がり、世界女王への階段を上り始めた大型スイマー五十嵐千尋(神奈川・日大藤沢3年)=神奈川・すすき野中出身。4 月の競泳日本選手権では400㍍自由形と200㍍自由形を初制覇。7月の世界選手権(バルセロナ)に挑む。(文・田坂友暁 写真・中村博之)

「悔しいです。優勝したことはうれしいですが、タイムが遅いので素直に喜べません」 4月、新潟県長岡市で行われた競泳の日本選手権。2冠を果たした五十嵐は、うれしさよりも悔しさを口にした。

昨年のロンドン五輪選考会の200㍍自由形では、わずか0.27秒差で代表入りを逃し、レース後に涙を流すほど悔しい思いをした。それでも「ロンドン五輪で終わりじゃない」と、すぐに気持ちを切り替えて厳しい練習に取り組んだ。その成果が、日本選手権2冠として実を結んだ。

しかし、「全体的にタイムアップをしないと、世界には届かない」と、世界で戦うことを前提に、タイムにこだわる。

プールでは向上心にあふれる姿と振る舞いを見せるが、普段は「普通の高校生」。「休日は、原宿とかに友達とよく出かけます。水泳から離れたほうがリフレッシュできるんです」と、人なつっこい笑顔で話す。

五十嵐の担任で、水泳部顧問でもある植村弘先生(32)も「おしゃべりが大好きな、普通の女子高校生ですよ」と言う。「でも、授業になるとパッと気持ちを切り替えて集中する。時間は守るし、言われたことは忘れない。人から注目される機会が多いからだと思いますが、場面に応じた振る舞いができる生徒です」

世界選手権の代表となり、世間から普段の振る舞いも注目されるようになったが、それをプレッシャーではなく、自らの成長の糧とする。アスリートとしてだけでなく、人間としての成長過程にある五十嵐から、今後も目が離せない。

いがらし・ちひろ
1995 年5 月24 日、神奈川県生まれ。横浜サクラSS所属。恵まれた大きな体を生かした大きな泳ぎが特徴。中学時代からジュニア日本代表に選ばれるなどの実績を持ち、日大藤沢水泳部では部長を務める。短水路日本高校記録(400㍍自由形)保持者。170㌢、59㌔。