世界の大学入試をテーマにしたNHK・Eテレの番組「ニュー試」の収録現場に高校生記者たちが訪問。番組制作現場のまとめ役である「ディレクター」を務める福田元輝さんに、テレビ番組作りの仕事内容について取材した。(取材・文 高校生記者=杉山美唯、東華乃子、柴﨑七海、有田嵩、山田悠樹)

【ディレクター】取材重ねて台本作る

―テレビ局のディレクターについて、仕事内容を教えてください。

僕たちディレクターの仕事は、「収録日までが勝負」。スタジオの収録前の時点で8割ぐらいの仕事はもう終わっています。ではその「8割」は何をしているのか。僕が担当している「ニュー試」を例に説明しましょう。

高校生記者からの質問に答える福田ディレクター(東京都渋谷区のNHK放送センター)

「ニュー試」は、毎回一つの海外大学の入試をピックアップし、大学の特色やキャンパスライフとともに紹介する番組です。まず、世界中の大学の入試について調査します。

取り上げたい大学を見つけたら、「なぜ面白いと思ったか」「なぜ取り上げようと思ったか」をまとめます。その後、打ち合わせで「どの大学を選んだのか、なぜ面白いのか、視聴者に何を伝えられるのか」を発表し、番組の最高責任者であるプロデューサーと話し合ってテーマを決めていきます。

―リサーチ力が必要な仕事ですね。

その後、番組内容に必要な情報を得るために、さらにリサーチなんです。ニュー試なら、大学について詳しい卒業生などをインターネットなどを駆使して探します。遅くとも収録の1カ月前、早くて2か月前くらいからスタッフ同士で協力し、取材協力者を探します。収録当日の「台本」を作るのが大きい仕事の1つ。 どういう番組の構成にするかを取材しながら考えていきます。

―取材をするうえで意識していることは?

伝えたい「軸」を決めて番組作りをしないと、視聴者は何を見せられているのわからなくなってしまいます。例えば、4月20・27日に放送予定の「マサチューセッツ工科大学(MIT)」の場合、ユニークな発明を生むMITの「世界を変える遊び心」を軸にして番組作りをしています。

「ニュー試」を収録したNHK内のスタジオ

取材した内容のうち、どこを盛り込んで、 どう紹介していったら、テーマが効果的に視聴者に伝わるのかを考えます。収録のギリギリまで、大体1カ月間くらいずっと考えています。それでやっと台本が完成し、収録をするんですよ。

【プロデューサー】番組の最高責任者

―ディレクター以外にはどんな職種の人が携わっているのですか?

ディレクターが中心として動き、プロデューサーや映像を撮影するカメラマン、音声を撮る音声スタッフ、収録の際にどの映像を流すか判断するスイッチャー、収録した映像を放送時間に合わせた長さにまとめていく番組編集者など、たくさんの職種が関わっています。

―プロデューサーは何をしているのでしょうか? ディレクターとの違いは?

ディレクターとプロデューサーの違いを一言で言うと「番組を作る現場での中心人物」と「全体の采配を取り仕切る責任者」です。ディレクターは現場で指揮を図り、プロジェクトメンバーの指導や演者とコミュニケーションを取ったりします。プロデューサーは総括的な責任者です。

ニュー試のプロデューサーの一人である山本浩二さん(左)に取材する高校生記者

―何人くらいのスタッフが番組作りに関わっているのですか?

 番組によって異なります。「ニュー試」の場合、約50人のスタッフが関わっています。さらに、スタッフ以外の出演者、マネージャー、専門家、取材協力者なども含めると70~80人くらいにはなると思います。

たくさんのモニターが並ぶ副調整室。音声や照明のコントロール、カメラの切り替えを行う。収録現場では「フクチョー」と呼ばれていた

―番組を1つ作るのに、思っていたよりも時間がかかって驚きました! 普段テレビを見るときの印象が変わってきそうです。ありがとうございました!
(高校生記者=杉山美唯、柴﨑七海)

 福田さんがディレクターを務める番組「ニュー試」の収録スタジオを訪れ、取材した高校生記者たちのレポートを紹介します。

【カメラマン】マルチタスクの技巧さく裂

 カメラマンは、スタジオでの撮影では出演者や全体の様子を撮ったりすることが主な業務。収録中にディレクターやプロデューサーから「ここをこうやって撮ってくれますか?」と指示が入るので、現場の状況を考えてつつ撮影します。複数台のカメラがある時には、ほかのカメラがどんな映像を撮影しているのかをチェックできるので、兼ね合いを見て撮影を行うそうです。

カメラマンの方(右)に教えてもらいながら実際にカメラを操作する高校生記者

 実際に本物のカメラを動かしてみると、加減が難しく、力を入れすぎるとカメラを動かしすぎてしまたり、ピントを調節するレバーを使って動いてるものにピントを合わせるのがとても難しい。ピントを意識しすぎるとカメラの向きがずれてしまいます。加えて、ほかのカメラの映像やディレクターの指示も聞かなくてはいけないマルチタスクです。普段見ている映像の裏側にある「プロフェッショナルな技巧」に驚きました。(高校生記者=有田嵩)

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【キャスト】MCの話術に圧倒

 ニュー試のMCを務める古舘伊知郎さんの話術に終始圧倒されました。編集により泣く泣くカットするシーンも多いことに「古舘さんを活かしきれていないんじゃないか」というスタッフの方のこぼれ話も印象的でした。 

MCの古舘さんとスタッフの打ち合わせを取材する高校生記者たち

 

 スタッフとMCの古舘伊知郎さんとの信頼関係があってこそ、番組作りは成り立っていると思いました。スタッフのみなさんがキラキラして見えました。撮影前のミーティングでは、スタッフが伝える制作意図、古舘さんの意見が交わされていましたが、風通しよい様子。何より一人が一人が番組に向き合う姿を目の当たりにして、「これがプロなんだな」と思いました。自分も将来こういう番組の制作に携わりたいなと思いました。(高校生記者=山田悠樹)

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【機材】マイクにも種類がある

 音声を拾うマイクには、出演者が着用する「ピンマイク」と、着用不要で棒の先にマイクが付いている「ブーム」と呼ばれるものがあるそうです。ピンマイクのメリットは一人一人の音声を録音しやすいことで、デメリットは着用する手間がかかることです。ブームのメリットはすぐに録音出来ることですが、デメリットは持ち運びが大変ということです。スタジオ収録の場合はピンマイク、生放送や外ロケの場合はブームなどと使い分けられています。

出演者が使うピンマイク

  番組中に流れるVTRを観る出演者は、イヤホンを付けている場合と付けていない場合があります。付けていない場合は、セットの裏にスピーカーが隠れていることが多いです。イヤホンの場合は出演者にしか音声が聞こえませんが、スピーカーだとスタッフにもはっきりと聞こえるので次の段取りを組みやすいという利点があります。(高校生記者=東華乃子)

【番組紹介】世界の大学入試を知ろう「NHK・Eテレ『ニュー試』」 

「歴史上のある瞬間に立ち会うなら?」50字で答えよ。これはアメリカ・イェール大学の入試問題だ。番組では、日本とは一味違う「世界の大学入試」にゲストが挑戦。学生のキャンパスライフも紹介する。世界の高校生はどんな入試に挑んでいるのかチェックしよう。

司会は古舘伊知郎さん。ゲストが世界の入試に実際に挑戦してどんな感想を持つのかもみどころ(NHK提供)

■放送予定

  • 2024年4月13日(土)アメリカ・シカゴ大学
  • 2024年4月20日(土)アメリカ・マサチューセッツ工科大学(MIT)前編
  • 2024年4月27日(土)アメリカ・マサチューセッツ工科大学(MIT)後編
  • 夜9:30(NHK・Eテレ)、放送後1週間「NHKプラス」で配信あり。https://nhk.jp/newshi