高齢化が進み、「命の危険と隣り合わせ」とも言われる林業に向き合う高校生たちがいる。古谷龍彦さんと向井鉄太さん(ともに鳥取・智頭農林高校森林科学科2年)もそんな高校生だ。昨年はチェーンソーの技術力を競う大会で優勝するなど、高校生活を林業に捧げている。(文・中田宗孝、写真・学校提供)

林業に関する知識を学ぶ日々

木々が生い茂る山中で、林業のノウハウを学ぶ古谷さんと向井さん。「山では主にチェーンソーを使って木を切り、伐倒した木は木材加工の授業で活用しています。ほかにも、木に足場を付けて登り、枯れている枝を切り落とす『枝打ち』という作業をすることもあります。木を育てる目的で行うんです」(古谷さん)

生徒たちは山の中で行われる実習授業で、実際に木を倒すなど実践的な技術を身につけていく

彼らの通う智頭農林高校・森林科学科の生徒たちは、森林に関する知識や木材の加工技術などを3年間かけて習得していく。秋は伐採のピーク。生徒たちは車で片道約20分の場所にある「演習林(林業を学習するための実習用に設けられた森林)」で現場作業に取り掛かる。

30メートルの木を切り倒すことも

伐倒する木の高さは15~30メートル、幹の太さは25~40センチ。「木は1本1本、形も違えば長さも違う。腐っていたり極端に曲がっていたりする木もあります。木の重心をそれぞれ確認し、それに合った切り方でズレがないように、ミリ単位で正確に切り倒します」(向井さん)。

「伐倒作業は基本1人で行います。自分の狙った方向に木をちゃんと倒せたときにやりがいを感じて楽しいです」(古谷さん)。倒れた木の枝を切り、指定の長さに木を切り分ける「造材(玉切り)」作業をするまでが主な伐倒の流れだ。

危険だけど「林業がしたい」

「僕が林業に興味を抱いたのは、林業従事者の父の影響が大きいです」。そう語る向井さんは、幼いころから父親に「今日はどんなことをしたの?」とよく聞いていたという。「高校生になって林業の知識や技術を学ぶ中で、経験豊富な父をより尊敬するようになりました」(向井さん)

古谷さんは「小さいときから自然の中で遊ぶのが大好きだった」と話す。「僕の祖母の兄が、技術力が高いと評判の林業従事者だったんです。その逸話の数々を聞くたびに憧れ、自分も林業の仕事がしたいと思いました」(古谷さん)

林業に携わる仕事に就くため、高校で専門的な技術や知識を学ぶ向井さん(左)と古谷さん

自然の力は人間よりも強い

林業に就くことを目指す彼らが、日々の作業の中でもっとも重視するのは安全面の徹底だ。「自分が何か一つ判断を間違えて、もし木が思わぬ方向に倒れてしまったら……。そうならないよう常に安全を意識して作業をしています。講習時に、チェーンソーや重機の安全な使い方を教えてもらっていますし、決められたルールに添った作業を厳守しています」(向井さん)

山の中での作業では常に緊張感を保っているという。「やっぱり自然の力が人間よりも強いですから。現場へ移動中に滑落しないようにとか、自分の行動一つ一つ、落ち着いて丁寧に」(古谷さん)

伐木の大会に向けて重さ約6キロのチェーンソーを操作しながら、ミリ単位で正確に木を切る練習を積む

厚生労働省が2022年に1年間の1000人当たりの死傷者数を調査した「死傷年千人率」によると、全産業は2.3%だったのに対し、林業は23.5%。林業は全産業の約10倍となる高い数値となっている。他の職業と比べて、林業は危険な職種といえるだろう。それでも2人は「林業がしたい」と声をそろえる。

「父から助言された『安全第一!』。この言葉が一番身に染みています。もちろん安全な作業を心掛けていますが、自然が相手の仕事ですから多少のけがはつきもの。それも林業の一部だと考えています」(向井さん)

チェーンソー技術の大会で優勝

昨年10月、古谷さんと向井さんはペアを組んで、チェーンソーの技術力などを競う大会「日本伐木チャンピオンシップin鳥取」(日本伐木チャンピオンシップin鳥取実行委員会主催)に出場。15組がエントリーした「アカデミー・ジュニアクラス」で優勝を飾った。昨年7月から大会直前まで、チェーンソーの練習に明け暮れた2人は、技術の向上を実感している。

林業の造材(玉切り)作業に繋がるという「丸太合わせ輪切り競技」に挑む大会本番中の向井さん

「長い時間チェーンソーに触れたことで、現場作業にもつながるレベルアップができました。木を倒す際に作る『受け口』の方向をより正確に狙えるようになって」(向井さん)。大会本番では「楽しもう!」を合言葉に競技に臨んだ。優勝ペアが発表された瞬間は抱き合って喜びを爆発させた。古谷さんは「もう最高でした!」と笑う。

林業は「絶対になくならない」

総務省の調査によると、1990年に約10万人だった林業従事者の数は、2020年には約4万4000人にまで減少。また、林業の高齢化率(65歳以上の割合)は25%になり、全産業平均の15%に比べ高い割合となっている。

古谷さんは、林業従事者の高齢化問題を解決する糸口の一つとして、林業のPR活動を挙げる。「僕らと同世代の高校生は、林業がどんな仕事なのか分からない人が多いと思うんです。普段の作業は人目につかない山の中ですし。だから『日本伐木チャンピオンシップ』のような大会に足を運んでもらって、幅広い世代に林業の雰囲気を感じてもらうのが大事なのかなと」

高齢化問題を抱える危険な仕事というネガティブなイメージだけではないと、向井さんは力説する。「大自然の中での作業はすごく気持ちいい! 林業は人々の生活に欠かせないし、森を守っていく仕事で絶対になくなることはないと思っています。人の生活を豊かにする仕事に携わることが自分にとって林業の一番の魅力なんです」