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  入選
 「こよみの上で踊る」泉 まいこ(神奈川県立湘南高等学校3年生)
 「おいてかないで九段下」井町 知道(東京都立日比谷高等学校2年生)
 「日曜日」津村 日奈子(神奈川・慶應義塾湘南藤沢高等部1年生)
 「風邪ひいた」弓気多 咲花(東京・学習院女子高等科2年生)
 「趣味の鑑賞。」栗田 真菜(東京・東京学芸大学附属高等学校2年生)
 「家」坪坂 美葉(東京都立新宿山吹高等学校3年生)
 「夏音」小林 稜月(兵庫県立姫路西高等学校3年生)
 「まだ筆は置かない」五十嵐 奈桜(千代田区立九段中等教育学校1年生)
 「夜の描き方」和田 七望(東京・精華学園高等学校探究アカデミー東京校3年生)
 「水星のダンゴムシ」今岡 なつ(兵庫・雲雀丘学園高等学校2年生)

 

入選 「こよみの上で踊る」 泉 まいこ(神奈川県立湘南高等学校3年生)


三月の教室はやけに白い
自分で飛ばした紙飛行機を追う
一人だけ制服、みたいな違和感

横断歩道は足速に
落ちたらいじめられちゃうんだって
自動販売機では飲めないミルクティーを買おう

定期があると素敵、使わないけどね
待ってと言って待ってくれないならそれがいい
ホームでは回送列車が待っているから

晴れていたら終点まで
あの丘の向こう側
一人でだってへーき

こういうのが無敵
視界に風のイタズラ
今の私を撮ってくれる人がいるなら買ってもいいよ

フロントガラスはワイパーで満開
花びらには鳥の気質があるの
自分の意思で舞う
視野外から、夢

坂を登りながらちゃんと現に帰る
エスカレーターに飛び乗ったら全部おしまい

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入選 「おいてかないで九段下」 井町 知道(東京都立日比谷高等学校2年生)


四月の僕は既に五月病を言い訳にしていた。
何も失っていないのに、何かを取り戻そうとしている。
取り戻したとして使い物になるのか。いいえ、ならない。
何故なら、そんなものは元々ないから。

おいてかないで九段下。
今の僕が出来る精一杯の文学的表現だ。
仕方ない、仕方がないんだ。
満月になるにはまだ早い。
傘もない。道にはテントウムシが目立つ。
雨が降るのか。家に帰ろう。

画像を拡大しては縮小する。
たとえるなら、僕の現状が今そうだ。
手を加えるなんて滅相もないね。
キャラバンの中に歩く自分を妄想して、魚を考える。
角のないカブトムシに価値はないのかと問われれば、そうなんじゃないですか、と答える。
別に反論したくないし、しないよ。
僕は文庫本片手に悲しいんだ。
 

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入選 「日曜日」 津村 日奈子(神奈川・慶應義塾湘南藤沢高等部1年生)


日曜日
東海道線が止まった
対向車線は時々電車が通る
千円のイヤホンで断つ蝉時雨
選んでもないバッハのよく知らない曲
止まった時の中でふと風が揺れる
その時わたしは見た
下りのエスカレーターに乗れない子ども
母の老いを見たくない彼女の帰省
夕立と蒼穹の境界線
廃ビルに湧き延び朽ちる雲の峰
クレーンの突く天球の奥
炭酸溶かした銀河系
プラネタリウム帰りのあの子の瞳
忘れ物の杖は地軸の傾き
君が背負った花火の匂い
眠れないあなたにゴールドベルグ変奏曲の音漏れを
唄なぞる老人の背骨をなぞる孫
世界の深淵を見た女子高生
誰かを亡くしたサラリーマン
クーラーの破滅わたしは熱帯魚
連休明けの駅員のアナウンス
ゆっくりゆっくりイヤホンを外す
ゆっくりゆっくり東海道線が動く
蝉時雨の凱旋
 

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入選  「風邪ひいた」 弓気多 咲花(東京・学習院女子高等科2年生)


オンダンカってよく耳にする
最近はことさら、コンバンハとおんなじくらい
あんポンタンハ誰なのか分かりきってるのに
目を逸らしてた

カクなんてばかみたい
そんなのサルのころは持ってなかったのにね
おたんこナス
アスには消えてなくなってればいいのに

ニンゲンなんて馬鹿みたい
インゲンのがよっぽど偉いわ
変に破壊をシンテンさせちゃってさ

蚊にさされた
いっぱい飲んでいいよ
ぼくは君たちのご飯になるからね
花が咲く、冷たいぼくの上で
大きく育ちますように
ぼくは君たちのご飯になるからね
船が裏っかえる
投げ出されるぼくらと、啖うさかなたち
美味しくなあれ
ぼくは君たちのご飯になるからね
君はぼくたちのご飯になるからね

そんなレンソウをして、おもむろに気分が悪くなる
そんな輪廻に還る未来をセンボウしても
きっとぼくはなれっこない
本当言うと虫は嫌いだし
土に埋まるとき ぼくは骨っきりで 箱で輪廻とも隔たれるし
死ぬ時まで自己犠牲を持てるわけもないし
テンゴクに行けるかしら
こんな罪深い種族が
ほら あのぴかぴかするデントウもまた
地球を苦しめる
まわりまわってぼくらも苦しむ

ぼくらはウイルスだと思う
二酸化炭素はフイルムで きっと絆創膏で
ばい菌のぼくら
地球は熱を出してウチュウに追い出そうとする
風邪っぴきの地球
風邪っぴきの地球なんだ
 

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入選 「趣味の鑑賞。」 栗田 真菜(東京・東京学芸大学附属高等学校2年生)


劇場版みたいなイントネーションで人のなまえを呼ぶ奴ってどうかしてるよ。
電線の影が
街を網の中に仕舞い込む時も
あなたはイエネコの伸び方で膿を吸う
ほんと。
ゴミ箱を、ひっくり返して、眺めたい、
とか

「明後日はないのに、存在し無いのに、あ。
るみたいに数字を打ち混んでは印刷し
て射る一室の、奥のに、僕は座って戒た、

待っていてね!!!

と言われて疑何時つも、信じ。ることに識
て、ただ座って居ました」

視覚と聴覚はあげる。
だってそれであなたわらうし、
僕だってそれで
ずっと背負っていた荷を
川に棄てるみたいに。
一日、
まだキャラメルが口に残っていた
 

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入選 「家」 坪坂 美葉(東京都立新宿山吹高等学校3年生)


家にいるのに、かえりたいと思うときがある。
きっとだれでも、生まれる前にいたはずのどこかを探している。脳みそはわすれてしまうけれど、こころが覚えている。

海か、空か、土か、それともどこか別の場所に丸まって眠っていた遠い昔のことを、思い出せないからさみしいのだ。赤子のように手足をきつく握って背中を丸めても、わたしたちはもう大きくなりすぎてしまった。溶けてひとつの塊になれたら、幸せなのだろう。

海と涙は同じ味がすることを、だれでも知っている。塩からくて、苦い。涙や血の味が好きだ。わたしが生きていることは、流れる血によって証明される。外への逃げ道を見つけるたび血はどこかに逃げていこうとするから、しかたなく飲みこんで自分の中に閉じこめてしまう。自分が減るのはさみしいような気がする。切り傷の痛みよりももっと、さみしさのほうがつらい。

目を閉じるとまぶたの裏でネオンが点滅しているような気がする。繁華街はわたしにとって、地球のどこよりも静かな場所だ。汚れたアスファルトの上をただ無心で歩いているとき、わたしは初めてまちの一員になったと思える。夜中、吹きつけるビル風に体がさらわれそうになるその瞬間だけ、わたしはわたしでいることを放棄する。許されたくて、風を追って歩いている。

居場所がない。行く場所はあるのに帰る場所がなくて、それで生まれたときから迷子の札をつけたままだ。街の灯りはどれも他人ごとのような顔をしてわたしの方を見つめるから、居たたまれなくて逃げ出すしかなかった。避難場所でひざを抱えて座って、来るはずもない迎えを、ただ待っている。帰る場所が見つかることを、ただ待っている。
 

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入選 「夏音」 小林 稜月(兵庫県立姫路西高等学校3年生)


うだるような熱波の中
壊れたクーラーはただの箱
扇風機で涼む君の姿が
煌めいてるのは何故だろう

合唱部の君と僕
出会ったのはずっと前
だけど最近 不思議な感じがする
暑さでおかしくなったかな

身体じゅうに 指の先まで
痺れるようなエネルギーが
それでいて 心のまんなかには
満たされない空間があって

推しのぬいぐるみを抱いてみても
とりあえず深呼吸してみても
手のひらをぎゅっと握ってみても
なんだか苦しいままで

君が目の前に居ると
話のネタとか言葉が在庫切れ
しどろもどろ 目も合わせられずに
「また駄目だった」って俯く

突風が前髪を掻き乱して
帰り道の雨が裾を濡らす
風鈴の冷やかし声を聞き流し
空の怒号も耳に入らない

それでも

「お疲れ」のひとことで
そのふとした笑顔で
小さく手を振られるだけで
僕が救われてるなんて 君は知らないでしょ

「どうしたの」って君の一言で
途端に蝉が騒がしく鳴く
不思議そうな目でこっちを見ないで
頬が紅いのは日焼けのせいだよ

そうして今日も君と歌う
蝉の声と入道雲
吹き抜ける風とアンサンブル
流れる汗も乾かないまま

君と紡ぐハーモニーは
太陽に咲く向日葵の色、
雨上がりの虹の香り、
弾ける瓶サイダーの味がした。
 

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入選 「まだ筆は置かない」 五十嵐 奈桜(千代田区立九段中等教育学校1年生)


ぶくぶくぶくと筆がおぼれた
喉がぎゅっとなって、息苦しい
ため息はつきたかった

ぽとぽとぽとと墨がおちた
鈍い音で当たって、痛い
ため息はつこうとした

じわじわじわと紙が染まった
内側から浸食されて、くろい
ため息はつけなかった

前も後ろも誰もがため息をついた
全部わたしが行きたかった逃げ道
溜めた息の塊をどれだけ涙にされたか
知りもしないで

前も後ろも誰もが声を大きくした
全部わたしを突き刺す武器
溜まった息の堤防をどれだけ崩されたか
知りもしないで

目の奥は熱く、目の中は揺らぐ
目の端を赤くしないことだけ、今はそれだけ
結局ため息の代わりにはならなかった涙
誰にも見えないほうがよかった

残りはなくて、筆はカサカサなまま
いつの日からか、墨の量が合わなくなって
気がつけば、手が汚れるようになって
溺れてく堕ちてくドス黒くなってく

それでも、もう少しだけ持っていたかった
トン・スー・トンでは面白みがないって
ぽとぽとじわじわカサカサな道を誰かが求めてるって
もうちょっとだけ、信じていたい
 

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入選 「夜の描き方」 和田 七望(東京・精華学園高等学校探究アカデミー東京校3年生)


陽の光に溺れた絶望が、星の影に縋りつく
夜闇を吸って、青い苛立ちを吐き出す
白の絵の具だけが足りなくて
高嶺で輝くその色は、徒花の嫉妬の獲物

「才能なんて嘘さ。所詮、世界の気まぐれみたいなものなんだ」

ため息の花びらを、月灯りに透かす
夜風が撫でる孤独は、まるで青色はぐれ星
絵の具の塵が袖口に散って、星屑を描いた数だけ
灰色の憂いが、宙を舞う

「真実は、この手で描いた線、だけなんだ」

ガラス張りの青い夜が、真珠のようにしっとりと微笑む
光を見つけた夜闇が、迷子の涙のように散っていく
透明な朝に色をつけるのは実直な光か
それとも夜の断片か、あるいは星灯りの名残か

「僕らの人生は、数多の線でできているんだ」

キャンバスに刻むのは、憧憬で咲いた大輪の絶望
色とりどりの痛みを混ぜた絵の具は、もう白には戻れないけれど
かすれてなお、空虚にあまりにも映える光になる
まだ終わってほしくない夜には、いつまでも筆を手放せない

「筆を握るたび痛む手が、君といた時間の証」
 

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入選 「水星のダンゴムシ」 今岡 なつ(兵庫・雲雀丘学園高等学校2年生)


もしも1匹
水星にダンゴムシがいるのなら

焼け付く光に身を焦がすだけ
だれの体温も恋しくならないのだろうか

ただ音もなく消える星々を眺めるだけ
蝉の愁声に物狂おしくなることはないのだろうか

何回季節が巡ろうと 誰もいないのだから
さよならを言ったあとに伸びゆく影に
どうしようもない寂しさを覚えることはないのだろうな

水星のダンゴムシはずっと知らない

誰の愛も知らないから 誰かの愛に傷つくこともない
僕はその傷を痛いほど知っている

もう汚れたこころを眺めることしか叶わない
僕も君みたいにもどりたいよ
開きたての無垢な瞳に

君の苦しみを知らない僕は そう思った
 

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