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 佳作
「あのこの背中」鈴木 南美(愛知・聖霊高等学校2年生)
「映画館」山口 莉緒(広島・AICJ高等学校1年生)
「コンビニ」小田 彩瑛(岡山・津山工業高等専門学校1年生)
「キャサリン」小野 英美理(東京・田園調布雙葉高等学校2年生)
「かさに穴があいた」朴 可然(長野・上田西高等学校3年生)

 

佳 作 「あのこの背中」 鈴木 南美(愛知・聖霊高等学校2年生)


今日は晴れ
青というより水色に近い
慌てて幕が上がってしまい
昨日の空気が片付けられない
乾いた「スン」と音がする

誰かが大事と言っていた
そんな見えないものを
引っ張るように 落とさないように
自転車を
こぐ こぐ こぐ

前には私と似たような
でも私とは違う
小川を泳ぐような あのこ
そんな思いを吹っ切るように
こぐ こぐ こぐ

光が味方して ぴかぴか光る
鋭く 冷たい髪の あのこ
ヘビみたい
聞こえてしまったのか
サドルがずんと重くなる

どんなに漕いでも 追いつかない
急に背中が黒に包まれ
音もたてずに 散ってゆく
もとから何もなかったように
幻想だったというように

空からきらりと降ってくる カケラ
初めて見るような でも見たことあるような
すべてを透かし 私を透かす
私はタイヤの向きを変え 進む
 

受賞者コメント

 まさか入賞するとは思っていなかったのでとても嬉しいです。 
 詩は学校で文学国語の授業があり、宿題で提出しました。 
 私は詩を書いた経験がとても少なく、最後に書いたのは小学校の国語の授業だったと思います。季節や恋愛などのたくさんのテーマがある中で、高校生の今の私にしか書けないような詩を書きたいと思い何度も書き直して作りました。 
 詩は読み手に想像力を働かせるものだと思います。しかし詩を書く側だけが理解できるものでは気持ちは伝わりません。だから読み手も想像しやすいように素直な言葉を選び、リズムやまとまりを意識してできるだけ読みやすいようにと工夫しました。また自分の詩がどう受け止められるのかを想像して作るのが楽しかったです。 
 今まで感じたことや思ったことを文章にするのはとても難しく、誰かに作品を読まれることも、自分の心の中を覗かれるようで恥ずかしかったです。でも、心の中にあるものを自分の言葉で表現し、それが賞を取ることができて自信を持つことができました。 
 今回の創作活動で、詩や小説などを一から作っている方の大変さが少しだけ感じられた気がします。創作者が作品をどのような思いで作ったのかを今まで以上に深く読み取ることが出来ると思いました。 

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佳 作 「映画館」 山口 莉緒(広島・AICJ高等学校1年生)


映画を観るために
エレベーターに乗り込む
ガラス張りの素敵な窓がついている
空を眺めると
うんと背が伸びたみたい
青信号との距離が離れていくから
少し怖くなってきて
降ろしてくださいと言うけど
その振動は唇のあたりで
鳥の鳴き声に変換される
何人かがスマホを向けてきて
私越しに景色を撮る
黒光りするレンズが
どうにもきまり悪い
体重がなくなって
風に乗って飛んでいく
海岸線の触り心地を確かめていると
海辺でのキャンプのことばかり思い出される
喉が渇いたけど
雲を舐めるわけにもいかない
ポケットの振動に
気がついて取り出すと
四十年前の姿でピアノを弾いている
うっとりと見惚れたせいで
太平洋に落としてしまった
潮の流れは
映画監督の踵にも影響を及ぼすから
彼女の精神は
波に乗って流れていく
その波は
軽い体も運び去り
到着のチャイムが響き渡る

映画館のある階に着くと
ほんとうの身長を思い出して
ちょっとだけ泣いてしまう
 

受賞者コメント

 まさか自分の作品が賞をいただけるとは思っていなかったので、大変嬉しいです。2020年の最優秀作品『尋常の季節』に感動したことがきっかけで詩を書くようになったので、同じコンテストで佳作を受賞できたことが信じられません。 
 6月から見よう見まねで詩を書き始めましたが、人の目に触れる機会がなく自分の作品を客観的に評価できないでいました。このコンテストを機に、少しでも多くの方々に自分の作品を読んでいただきたいと思い、応募を決意しました。 映画を観に行った夜、日記代わりに1時間ほどで書き上げました。行きつけの映画館にある大きな窓付きのエレベーターですし詰め状態になっていた時に考えたことをもとにしています。 
 ごくありふれた事柄から連想していき、奇想天外で愉快な表現になるよう書きました。この詩を通じて、日常の悩みを楽しくポップな言葉に昇華できていると嬉しいです。普段作品を推敲することは滅多にないのですが、今回は過度に説明的な言葉を切り詰めるなど、何度か推敲しています。 
現代詩は自由なジャンルだからこそ、言葉を切り詰めて適度な余白を残すことが大切です。そのため、詩を書く際には、なるべく直接的な表現を避けつつ、しっくりくる情景や音の響きを求めて自己の内面と向き合うようにしています。それを続けていくことで、自分自身のことをより深く知ることができました。 
 現代詩は自由度が高い文学ジャンルなので、制約に縛られず楽しい表現を追及できる点が大きな魅力だと思います。その過程で詩が生活に密接していることに気がつく瞬間の喜びのために創作しています。 
 必要以上に考えすぎてしまう自分の性格がずっとコンプレックスでしたが、その「考えすぎ」を活かして詩を書いています。日常に根付いた事柄を必要以上に考えていくことで、生活の隣にある詩の世界を探しています。 
 普段の生活の中で、少しでも違和感を感じたものを徹底的に突き詰めていくことこそが詩だと思っています。現代詩を読み始める前は、詩は教科書に載っているもの・堅苦しいものだと思っていましたが、そのようなイメージは私自身詩を書き始めて数ヶ月しか経っていませんが、面白い詩の書き手が増えるよう願っていますし、私も面白い詩の書き手になりたいです。 

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佳 作 「コンビニ」 小田 彩瑛(岡山・津山工業高等専門学校1年生)


『レジ袋おつけしますか?』
あっ、おねがいします。
『箸お入れいたしましょうか?』
あっ、おねがいします。
『レシートいりますか?』
あっ、おねがいします。
『タバコは三〇番でいいですか?』
あっ、おねがいします。
『唐揚げもおつけしますね。』
あっ、おねがいします。
『ささくれてるので絆創膏つけときますね。』
あっ、おねがいします。
『毎日お仕事頑張っておられるのでついでにボーナスもつけときますね。』
あっ、おねがいします。
『昨日仕事でミスして泣いていたので頭撫でますね。』
あっ、おねがいします。
『大学受験に失敗した時も泣いていたのでその分も撫でますね。』
あっ、おねがいします。
『お父様にすべてを否定された時と恋人に浮気された時の分も撫でますね。』
あっ、おねがいします。
『なんかもう地球とかぶっ壊してもいいですか?』
んー、それは嫌です。
『そうですか。』
はい。
『もうちょっと撫でてもいいですか?』
あっ、おねがいします。
 

受賞者コメント

 まさか自分の作品が受賞するとは思ってなかったので驚きましたが、それと同時にとても嬉しくなりました。 
 国語の課題の一環で応募しました。小学生の頃から詩を読むことが好きで、自分でもいつかつくってみたいと思っていたので詩の部門を選びました。 
 今まで生きてきた中で誰かにどうしても肯定されたい、認めてもらいたいと思っていたときの状況を思い出しながらつくりました。『身近な人でいい、ダメなら私のことをほんのちょっとだけ知ってる人でいい、私がよく行くコンビニの店員さんみたいな人に、ここに居ていいよって言われたい。』と、当時思っていた気持ちをそのままタイトルと詩の内容に当てはめました。 
 工夫したことは読みやすい言葉と形式を使ったこと。苦労したことは色んなことを思い出して詩を書いているときちょっとくるしくなったこと。詩が完成した瞬間が1番楽しかったです。 自分自身と向き合って自分が思っていたことを言葉にする楽しさを知りました。 
 難しいより面白いの方が勝つのでぜひ創作をしてみてください。 

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佳 作 「キャサリン」 小野 英美理(東京・田園調布雙葉高等学校2年生)


私はキャサリンを探している。

白い部屋のなかで卵を割る透明な子どもたちは、キャサリンは砂色のナイフを持って逃げたと言う。

誰もいない大広間でチタンを舐めている女は、キャサリンはきつい香水の匂いを振りまきながら逃げたと言う。

何百もの彫刻が立つ廃墟で麝香鹿を食い殺している虎は、キャサリンは海鳴りの音を頼りに逃げたと言う。

沈没した船の上でバレエを踊り続ける少年たちは、キャサリンは月がわたしを笑っていると呟きながら逃げたと言う。

オーロラが見える植物園で巨大な水晶を守る蛇は、キャサリンは持っていた宝石をすべて飲み込んで逃げたと言う。

紫色の花が咲くツンドラで氷を砕く貴婦人は、キャサリンは愛のために金糸雀を殺して逃げたと言う。

月桂樹の下で額から血を流す詩人は、キャサリンは狼の顔をした男のところへ逃げたと言う。

私はキャサリンを見つけた、蒼白い月光が差す神殿で。

キャサリンを抱く狼の顔をした男は、キャサリンに祈りと呪いの言葉を捧げる。

キャサリンの目の前で狼の顔をした男を殺した私は、キャサリンに愛と呪いの言葉を捧げる。

だが、何もかも失ったキャサリンは、私がすべてを奪ったキャサリンは、微笑で人を狂わせるキャサリンは、呪いをかけられたキャサリンは、キャサリンは、何も言わずに月を見上げる。

キャサリンの眼に月は映らない。
 

受賞者コメント

 自分の作品を評価していただいたということで、純粋に嬉しく思っております。審査してくださった先生方、ありがとうございました。 
 これまで書いた作品はすべて眠らせたままでしたので、彼らを公のもとに置くとどのような変化が生じるのか興味がありました。 
 私には観測しようと試みている対象が存在します。そのうちの一つが「キャサリン」という名を持っています。彼あるいは彼女のために詩を書きたいと思ったのがきっかけで本作品が生まれました。 
 創作するにあたり、以前から興味のあった手法を取り入れています。言葉のみが成し得る美的世界を顕現させられるよう努めました。 これまで詩を書くときは単に美的世界を追い求めるのみでした。しかし本作品においては「キャサリン」つまり明確な対象が存在するので、より奥行のある世界観になったのではないかと感じております。 
 創作とは自分自身を開き、その中身を世界に晒すこと、そしてあらわになったそれに名前をつけることです。「私」をおもちゃ箱のようにひっくり返したときに零れ落ちるものを言葉にしてみてください。それが小説や詩、短歌や俳句といった形を与えられて、すなわち名前を与えられて我々の眼に映るのです。 

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佳 作 「かさに穴があいた」 朴 可然(長野・上田西高等学校3年生)


かさに穴があいた
うたにしよう、おもってやめた
さわぐ雨の音は僕の泣き声をつれてった
今日が少し切ないのはきっとこのペトリコールのせい

目的地が近づいて到着するのが嫌なんだ
どうしようもなくなって寝てるふりをするんだ

電気もつけず座り込んで
窓に映る自分を見た
薄暗い部屋に取り残され
あたたかい孤独に揺られた

自分の中での正解が
自分以外に笑われて
大多数に飲み込まれる
妥協につぶれたそんな日々

かさに穴があいた
うたにしよう、おもってやめた
髪が肩からこぼれるのを
指の隙間から見ていた

太陽がかさをさしているよ
君もかさをさすんだね
雨の音は嫌いじゃない
憂鬱でも許してくれるから

星が大きく見えるね、ぼくは大きくなれたのかな
照らしきれない夜の黒は誰が救ってあげるのかな

雨が降る前の空は涙をこらえてるみたいで
それを見て苦しくなった、抱きしめられなくてごめんね

ぼくのかかとはもう地面についちゃって
上に伸ばした手はもううしろにかくしちゃって

ぼくに穴があいた
うたにしよう、おもってやめた
大人になれないぼくは
今更子供にもなれなかった
 

受賞者コメント

 いつかリリカルな事もお仕事のひとつとしてできたらうれしいなあと思っていたので、実際にこのような評価をいただくことが出来てとても光栄です。 
 応募しようと思ったのは、わたしの描いた世界が他の人にはどのように見えるのか気になったからです。 
 その日本当に傘に穴が空いたんですよね(笑)「これは書くしかない…」となりました。 
 実は今回のコンテストで初めて詩を紡いだのですが、正解が分からなくてとりあえず筆の動くままにうまれたものを出しました。工夫したことといえばタイトルですかね…!穴を漢字にすることによりぽかん、と空いたさびしさがでるかなぁと思いました。苦労したことは出てくる言葉の添削が大変でした…!思うままに溢れてくるものをどうにかして形にこねくり回すのがなかなか疲れました。何日もかけて作品を生むタイプというよりは、数分で完結させるタイプなので、考えるよりもはやく文字が並ぶ感覚がすごいすきだなぁ、たのしいなあと感じました。 
 あのとき作品をひっそり作るだけで終わらせずに、コンテストに出してよかったなぁと思いました。コンテストに出すという工程も含めて、自分の作品が評価されるという自信に繋がったかなと思います。 
 詩は世界で最も純粋な世界を見るためのレンズだと思っています。世界の綺麗だと思う形を詩というレンズを使って、世界の縁を言葉でなぞるという感覚は本当にかけがえのない詩の魅力だと思います。 (このコンテストに投稿し始めてから続けているのでまだ素人なのですが)わたしは、日々の小さなことほど忘れないように生きています。読んだ本や今日の雲の形、聞いた音楽、歩いた道、日常に転がってる言葉たちをひろいあげながら詩をかいています。 (素人目線ですみません)正解がないものを作るのは難しく感じるかもしれませんが、意外と楽しいものです。正解なんて誰も分からないので正解を求めないでつむぎ続けることが、きっと正解なんだと思います(難しいですが) 

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