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優秀賞 
 「ジンベイザメのぬいぐるみ」日名 祥也(岡山・津山工業高等専門学校2年生)
 「無題」酒井 初音(兵庫県立長田高等学校3年生)

 

優秀賞 「ジンベイザメのぬいぐるみ」 日名 祥也(岡山・津山工業高等専門学校2年生)


お母さんはいつも、金魚に向かって
「おはよう、金ちゃん。」
という。
金色じゃないのに。と僕は毎回思う。

お母さんはいつも、僕が毎晩抱いて寝るジンベイザメのぬいぐるみのことを、「くじちゃん」と呼ぶ。
クジラじゃないのに。とぼくは毎回思う。

お母さんはたまに、一文字違いの双子の弟と僕の名前を間違える。
僕はあいつじゃないのに。とぼくは毎回思う。
僕も金魚もあいつも。きっとジンベイザメのぬいぐるみも。
たぶん、僕と一緒の気持ち。

そうだ、ぼくたちで同盟を組もうじゃないか。
題して、「似てないよ同盟」。
そしたら世界中からどんどん仲間が集まって、似た者同士が集まって。

僕は一人じゃなくなるかもね。
それじゃあ意味がないね。

ぼくは、ふてくされた君の腕の中で同じ夢を見る。
 

受賞者コメント

 自分の詩が賞を受賞したことは初めてで、とても驚くとともに、嬉しく思っています。
 現代詩に興味があり、挑戦したいと思い応募させていただきました。この作品は、夜中、布団に包まりながら考えました。 また、自分の気持ちを素直に書いて、相手に伝わるように工夫しました。また、「こんな表現使ったらどうかな」「こっちの言葉の方がいいな」などと推敲しながら詩を作るのには苦労もしましたが、それ以上に楽しかったです。
 この賞を受賞したことによって、自分に少しだけ自信が持てるようになりました。 
 創作にあたっては、自分の心の赴くままに認めました。 詩だけに限らず、自由な自分の心のままに創作をする、と言うのはとても気持ちがよく、またそれが認められるというのは嬉しいものだと感じました。皆さんもぜひ、創作を楽しんで下さい。 

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優秀賞 「無題」 酒井 初音(兵庫県立長田高等学校3年生)

 
 遠くの空は水色だった。暑さで雲が海に溶け出してしまったから。敵を倒す少年マンガではけっこう暴力的な青をしている、みずみずしいビーズとも違う、安心して食べられるかき氷。今日はそれぐらいがちょうどいい
 電線が、健康的な雲たちを空に閉じ込めているんだといつも思う、スマホの画面には写らない。頭上の太陽。セミが鳴いてる。髪を揺らしたのは室外機から出てくる風で、やっぱり現実はそう上手くいかないね
 僕らのことを、僕らだけのことにしておきたくて、触れられなかった、君に
 色褪せたクロックス、虫籠を肩から掛けて走った、放課後の響きが好きだ、旧校舎のチョコレート色の壁
 目をそらさないと死んでしまうから、自分を無視することを選んだ、らしからぬ中身が、溢れないように、零れないように、でも、なくならないといい。
 僕らの外側にも世界があること、それが僕にとって救いで、でも時々どうしたって寂しくなる、ただ一度だけ、ずっと二人きりで、それすら叶わなくて感じたものが、何よりも現実の君だった。天井のない世界の、頂点には、いくら伸び上がったって触ることができないと、わかってて両手を伸ばした、
 帽子のつばは太陽を吸収する、赤い屋根も選挙ポスターも古本屋も、来年は見ることがないかもしれない、他愛のないことって、名前を付けずにいたい、取り巻く全てがちっぽけだなんて、わからずに、深刻そうな顔をしてずっと話し合っていたいね
 青空が飽和した空気の中、今だけは、終わりなんて来ないと信じて、君の手を引く
 どこを向いたって空は続いている、ことにも気付かずに日々を過ごした、僕らの時間はまだ無題
 

受賞者コメント

 ありがとうございます。職員室前にポスターが貼ってあったのがきっかけで応募しました。
 この詩は、夏の空って青というよりかは水色で、そっちのほうが優しそうだなと思ったときに書いた詩です。 
 創作にあたり、一人称を何にするかで迷いました。普段なら「私」とするのですが、「僕ら」という言葉を使いたかったので「僕」にしました。 
 「僕ら」って、言いやすくていいなと思う。自分と誰かを引っくるめて呼ぶときに「僕ら」。詩は「私」で書くことが多かったけど、「私たち」はなんだかしみじみしすぎているし、「私ら」はちょっと適当っぽい感じがする。本当は自分と他人を一緒くたにして呼ぶなんてことを、してはいけないのかもしれないと思う。結局他人のことはわからないし、自分も理解してもらうことはできないから。でもだからこそ「僕ら」って書きたい。本当は絶対にわかり合えなくて、現実ではわかり合えないことのほうを大事にしないといけないからこそ、創作では軽々しく「僕ら」と言って、自分と誰かをあたりまえのように一緒に呼びたい。正しいのかどうかはわからないけど、そんなことを考えました。

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