高校生ながら海外のレースを走り続けるレーシングドライバーの野田樹潤(じゅじゅ)さん(東京・日本体育大学桜華高校3年)。昨年はヨーロッパの大会で女性初のF3優勝や年間チャンピオンに輝く偉業を成し遂げ、今年はアジア最高峰の「全日本スーパーフォーミュラ選手権」への出場を控える。「夢はF1で世界チャンピオン」と語る野田さんに、これまで重ねた努力の日々を聞いた。(文・中田宗孝、写真・本人提供)

4歳からカーレースの世界へ

サーキット場にレーシングカーの甲高い走行音が響く。巧みなハンドリングで運転するのは、17歳のレーシングドライバー・野田樹潤さん。レース中のマシンの速度は250キロを超える、それが彼女の飛び込んだモータースポーツの世界だ。

「最初はマシンのスピードに目が全然追いつかないんです。乗り続けることでスピード感にも慣れてきて、250キロを超える運転をしていても、ピットイン(レース中にタイヤ交換などを行うエリア)にいるマシンメカニック(カートの調整や修理を担当する人)の方の表情やリアクションもしっかり分かってきます」

マシンでコースを疾走する野田さん。普段の走行練習は、ワイドモニターに映し出された「レーシングシュミレーター」で室内練習する時間の方が長いという(C)juju10.com

元F1ドライバーの父・英樹さんの影響で、3歳でカートを始め、4歳からカーレースを続けてきた。ドライバーとして自らの持ち味は、「運転に使える力を消耗させない」という「省エネ走法」だと語る。

「レース中のドライバーの体にはものすごい『G(重力)』がかかるので、それに体が無意識にグッと抵抗してしまい、無駄にエネルギーを消費してしまうんです。私はGにあらがわずうまく受け流すような乗り方で、そこにエネルギーをあまり使わない。小さいころから高速の車に乗ってきたからこそ、頭ではなく体で覚えてきたドライビング技術です」

カーレースのためにヨーロッパへ

フォーミュラカー(規格に基づきタイヤとコクピットがむき出しになったレース用4輪車)競技のレースカテゴリーは、大まかにF1(フォーミュラワン)、F2(フォーミュラツー)、 F3(フォーミュラスリー)、F4(フォーミュラフォー)の4つに分類される。現在、野田さんは上から3番目のクラス「F3」を主戦場としてレースに臨んでいる。

ヨーロッパのカーレース大会で活躍を続けるレーシングドライバーの“juju”こと野田樹潤さん(C)juju10.com

レーサーとして急成長を遂げる野田さんは、練習ができるサーキットを探して9歳のときに栃木から岡山に移住。F4相当の国内戦は通常16歳以上、F3相当の国内戦は通常18歳以上の選手に参加資格が与えられるため、14歳からは活動拠点をヨーロッパへと移した。

「レースは楽しい! だから今も続けています。自分の好きなことに人生を賭けられる環境にも恵まれたのだから、私はレースに比重を置きます。レースをやれて自分が成長できるなら、そのチャンスが与えられるのなら、場所は日本でも海外でも、どこでもいいと思いました」

女性初のF3チャンピオンに

2023年のレースは、2つの快挙を成し遂げる会心のシーズンとなった。7月、フランスで行われたF3相当の「ユーロフォーミュラオープン」第4戦で、女性ドライバーとして同大会初の優勝を飾った。F3レースでの女性の優勝は史上初の出来事となった。

11月には、イタリアを中心に7大会14戦で争われたF3相当「ジノックスF2000フォーミュラトロフィー」の年間チャンピオンに輝いた。女性ドライバーがF3レースで年間チャンピオンを獲得したのは史上初だ。これまで誰も成し得なかった偉業達成の背景には、22年シーズンの葛藤を乗り越えた自負があった。

昨年、女性ドライバーとして、F3相当のレース大会で史上初の年間チャンピオンに輝いた(C)juju10.com

海外のレースで壁に直面 

「一昨年は結果がなかなか出なくて苦しい時期が長かったんです」。整備が行き届いていないマシンをあてがわれたり、シーズン途中で不可解なルール変更を言い渡されたりもした。「本気で辞めようとは思いませんでしたが、自分が悪いのか車が悪いのか分からなくなってしまって、正直レースが楽しくない。このままレースを続ける意味があるのかなって……」

海外のレースでは、人種差別や露骨な進路妨害といった「アウェイの洗礼」を受けることが、現実にはある。

「勝ちへの姿勢も日本人レーサーとは違います。姑息(こそく)な手段で勝利したら、日本だと『恥ずかしくないのか』と言われますが、ヨーロッパのレーサーは『勝てないこと自体が恥ずべきだ』という考え。自分本位で主張も強い。この考え方も理解する必要がありました」

幼少期に父から捧げられた「負けても負けても諦めない」の言葉が心の支え(写真・中田宗孝)

海外でもまれてメンタルはより強くなった。レース後にアンフェアな走行をした外国人レーサーに対して、強く抗議するタフさも身につけた。「日本語とデンマーク語で口げんかしました(苦笑)。互いに何を言われているのか分からないけど、怒りの感情は伝わりますから」

苦しい状況でもベストを尽くせば、それは自分の糧になる。そう気持ちを強く保って一歩一歩乗り越えた結果が、優勝につながった。

18歳になったら「免許を取るのが楽しみ」

ひとたびレースを離れれば卒業を控える高校3年生。学校生活での思い出は高2のときの修学旅行だという。「クラスメートたちとたくさん話せる時間を作れたんです。みんなの考えをいろいろと知れて楽しかったですし刺激にもなりました」

サーキット場では華麗なドライビングを披露する野田さんだが、実は普通自動車免許をまだ取得していない。自動車の免許取得は私生活でやりたいことの一つ。「2月の誕生日で18歳。自動車の免許を取るのが楽しみ。そこは同年代の方と同じ気持ち」と、10代らしい一面をのぞかせた。

F1世界チャンピオンを目指して

「夢はF1で世界チャンピオンになる!」。過去、女性のF1ドライバーは5人しか誕生しておらず、女性ドライバーが最後にF1レースに出場したのは1992年。野田さんの挑戦がどれだけ険しいのか想像に難くないが、彼女の夢は幼いころから、ブレることはない。

今年3月にはアジア最高峰といわれる大会「全日本スーパーフォーミュラ選手権」への出場を決めた。野田さんは「夢と目標は違うと思うんです」と話す。「目標は自分が近い将来目指していること。夢は自分ができることじゃなくても自由に抱いていい。私は自分の夢を追い続けます」

のだ・じゅじゅ 2006年2月2日生まれ、東京都出身。11歳からF3・F4相当の国内大会に参戦し、2019年まで出場した同大会で全11戦11勝。14歳からヨーロッパのレースに挑戦し、海外デビュー戦となるデンマークのF4相当のレースで優勝。姉と弟の3人きょうだいの次女。170センチ。公式HP(https://juju10.com/)Instagram(https://www.instagram.com/juju_mikan0202/)