苦悶(くもん)の表情を浮かべながら、何かを訴えるように叫ぶ人物。インパクトにあふれるこの作品「屈託」は、第47回全国高校総合文化祭(2023かごしま総文)の美術・工芸部門に出品されました。作者の伊藤昊(こう)さん(宮城・気仙沼高校3年)に、どのように制作したのか聞きました。

屈託(第47回全国高校総合文化祭 美術・工芸部門出品)

「嫌い」を遠ざけたい苦悩を表現

―作品のテーマを教えてください。

私は「日常生活からの気づき」を作品づくりのテーマにしています。今回は「自分の周りを『好き』で固めたい」という気持ちについて、掘り下げて制作をしました。

きっかけは、食べ物の好き嫌いが多い人を見て「好きな食べ物が多い方が人生は楽しいのではないか」と思ったことです。「嫌い」を遠ざけようと奮闘するもなかなかうまくいかずに、悩みもがいている姿を表現しました。

私自身、ネガティブでくよくよしている時間が長いです。同じ悩みを持つ人に、「うまくいかずにやきもきしているときも落ち込まず、『生きがいがある』と前向きになってほしい」という思いを込めました。

インパクトのある構図に挑戦

―こだわったり、工夫したりしたポイントはどこですか?

見た人に強い印象を残せるような、インパクトのある構図に挑戦しました。人物と、抽象的な部分を表したその周囲画面の対比に工夫を凝らしました。特に人物は写真とそっくりにならないように、絵の具特有の素材感や筆跡など、絵にしかできない表現を大事にしています。

人物以外の部分は画面に立体感を出すために粘土を盛ったり、色鉛筆で流れを演出したり、楽しい遊びの要素を取り入れました。

―難しかったところは?

常に画面の調和には気を配りました。たくさんの色を使っているので、統一感のないただごちゃごちゃした絵にならないように、「人物はオレンジ」などメインの色を自分の中で決めて、その色が映えるように他の色で支えていくイメージで制作しました。

友達と作品を鑑賞し語り合った

―制作中の印象的なエピソードはありますか?

部活動がない日も美術室を開けてもらい、友人と制作活動に励んだことです。集中が切れた時にはお互いの作品を鑑賞して「ここの表現がいいよね!」「どうやったらこの質感が出せるの?」などと語り合いました。時には盛大に制服やジャージを汚し、寒い冬に水道の水で洗いストーブの前で乾かしながら一緒に温まりもしました。

―よい作品を作るためのコツを教えてください。

「どう演出すれば一番いい姿を見せることができるか」を常に考え、追求することだと思います。上達のためにはたくさん描くことももちろんですが、いろいろな人に見てもらうことが大事です。

私もまだまだ発展途上ですが、作品は作者と鑑賞者のコミュニケーションで成り立つと思うので、何をどう伝えるかの選択は適切か、伝わる絵になっているかを知るためにはたくさんコミュニケーションをとることがカギになると思います。