「自然災害が多い国」と呼ばれる日本。松山工業高校(愛媛)には「防災を簡単に分かりやすく。そして楽しく!」をモットーに、さまざまな活動を行う高校生たちがいる。「防災士」の資格を取得したメンバーが、防災への心構えや災害時の行動を伝えてくれた。(文・中田宗孝、写真・学校提供)

防災をわかりやすく楽しく授業

「水害が発生して市街が浸水。足元何cmまでの浸水なら避難できる?」

「答えは50cm未満。それ以上の浸水になると歩行は困難になる」

出前授業の様子。数十~数百人の中学生ひと学年を対象に、1~2時間かけて行う機会が多いという

松山工業高校の同好会「チーム Save Our Future」(以下「チーム SOF」)が、中学校で行った出前授業での一コマだ。モットーは「防災を簡単に分かりやすく。そして楽しく!」。高校生が講師となり、クイズを交え、防災の大切さを伝える。

「防災の授業は、どこか堅苦しくて面白みに欠け退屈。僕らはクイズやゲームをしながら、防災を楽しく知る授業を心掛けています」(リーダーの松野京介さん・3年)。例えば昨年チーム SOFが開発した「防災カードゲーム」は、楽しく防災を学べるアイテムの一つだ。3~5人の班で行うゲームで、「台風や大雨が発生する3日前からいつ、どこで、誰と、どのように避難するか」を考えていく。

風水害の発生前に取るべき行動や備えを時系列で考えていく「マイ・タイムライン」をカードゲーム化した

そのほかにもイベントなどで防災に関するワークショップを行い、災害に強く、住み続けられる地域づくりを目指している。

「知識がなければ避難もできない」

松野さんや副リーダーの堤大輔さん(3年)は、2018年に「西日本豪雨(平成30年7月豪雨)」を経験した。当時中学1年生だった2人は「まさか雨がこんなにも甚大な被害をもたらすなんて……」と振り返る。

発生時の見過ごせないデータがある。愛媛県松山市に暮らす約41万人に避難勧告が発令されたが、実際に避難したのは503人、同市の総人口に対して避難率0.12%という数値だ(愛媛県防災危機管理課調べ)。

当時、浸水被害に遭った親戚の家の掃除を手伝ったという松野さんは「まず防災の知識が備わっていないと、避難するべきかどうかに意識を向けられないんです」と話す。「そのため、いざ災害が起きても『まぁ大丈夫だろう』と考えてしまいがち。もしかしたら自分の命を失う状況かもしれないのに……」

優秀賞を受賞した「ぼうさい甲子園」はじめ、自分たちの防災活動も積極的に広めている

チームSOFは、西日本豪雨が発生した2018年に始動した。同校の生徒会メンバーが災害ボランティアに参加したことをきっかけに「この活動を継続するべき」という思いが生まれ、現在の活動につながっている。

高校生防災士の松野さん(左)と堤さん

大雨警報は常にチェック

現在、メンバー12人のうち、松野さん、堤さん含む5人が、災害時の避難誘導や救助活動にあたる技能を有する「防災士」の資格を取得した。

堤さん自身は、天気や災害情報を知るアプリをスマホに加え、「降水確率や大雨警報を常に気にしています」。自室には非常食や水、懐中電灯などを入れた防災リュックを備えている。松野さんも天気予報を必ずチェックする習慣が身についたという。「もし台風が接近したらその進路を確認し、数日後の行動を考えます」

近隣の中学校で出前授業中の松野さん(右)

若者の防災意識を高めたい

チームSOFには、「若者の防災意識を高めたい」との思いがある。松野さんは中学まで防災に無関心で知識もゼロだったと明かす。「自分もそうだったからこそ、僕たちの活動をきっかけに防災について知り、考えてもらえれば」

同年代に伝えたい、誰にでもできる普段の防災対策と災害時の行動を聞いた。「非常食、防災グッズの備蓄とハザードマップの確認。そして、自分の家から一番近い避難所まで実際に足を運んで距離を知っておきましょう」(堤さん)

もしも災害が発生したら、まずは冷静さを保つ心持ちが大事だという。「まわりの人たちも慌てていると思うのですが、自分の心を落ち着かせ、慌てずに今の状況をしっかりと把握。近所の方々と声を掛け合い、連携を取りながら避難所に向かってください」(松野さん)

チーム Save Our Future

2018年結成。メンバー12人(3年生7人、2年生1人、1年生4人)。週1~2日活動。学校周辺の地域に暮らす若者たちの防災への意識向上、SDGsの考え方を生かした持続可能なまちづくりへの貢献に尽力するチームの取り組みを校外イベントなどで発表。昨年8月「えひめSDGs甲子園2022 」グランプリ(1位相当)に輝き、1月には「令和4年度 ぼうさい甲子園」にて5団体が受賞する優秀賞が与えられた。