「大学で学ぶ知識がないと解けない」とされていた数学の証明問題。西宮市立西宮高校(兵庫)の3年生4人は約1年かけて、高校で学ぶ知識のみで証明してみせ、オーストラリアの数学専門誌に論文が掲載された。常識を覆した4人の熱意に迫る。(文・黒澤真紀、写真・学校提供)

「僕たちに証明できないですかね」

もともとは週に1度、「総合的な探究の時間」(現高2以降は「理数探究」)の授業で4人は円周率の新しい求め方を探していたが、うまくいかなかった。試行錯誤する中で「円に内接する多角形の中で、正多角形が一番大きな面積を持つということをなぜ言えるのか」と新たな疑問が浮かんだ。

右から宮寺先生、田中さん、中山さん、宮本さん、丸尾さん

非常勤講師の宮寺良平先生に質問すると「証明するには、大学の数学科1年生以上のレベルの知識が必要」と言われた。

「僕たちに証明できないですかね」。生徒たちは諦めなかった。「内容自体はシンプル。高校で習う範囲でも太刀打ちできるのではないか」という田中陸人さんの言葉に全員が同意。夏から証明への挑戦が始まった。

一度は挫折するも諦めず

冬を迎えても証明できず、苦渋の決断で別のテーマの研究を進めることに。しかし、「頭の中ではずっと気になっていた」(宮本陣弥さん)、「時間があると考え続けていた」(丸尾祐希さん)と頭から離れず、2年生になってすぐに再挑戦。高校数学までの知識だけで、その年の夏休みに証明できた。

証明を考える際に使っていたノート

4人は結果を論文にまとめ、宮寺先生が数学的な厳密さがやや弱い部分を補って英訳。5人の共著として、宮寺先生がオーストラリアの大学が発行する数学の専門誌『Parabola』に投稿し、掲載された。

失敗しても「苦労じゃない」

失敗も何度もあったが、「苦労」だとは感じず、数学が嫌いになることもなかった。「純粋に興味だけで研究をやっていたから続けられた」(田中さん)という。「試行錯誤を繰り返したし、全然簡単じゃなかった。でも答えのない問いに取り組んで、数学の奥深さを知った」(丸尾さん)

失敗しても諦めず、試行錯誤を繰り返した

「優しくて、僕らの目線に立って話をしてくれる」(宮本さん)という宮寺先生は、これまでに多くの論文を発表してきた研究者でもある。「私は少し証明の方向性を指示しただけ。生徒たちは私が全く予想できないくらいにうまく証明できました」と話す。「高校生なりにおもしろいことができれば」という宮寺先生の姿勢が、彼らを伸び伸びと研究に向かわせる。証明に取り組む4人の様子を「楽しそうにディスカッションしてましたよ」とほほ笑む。

問題を夜通し解き朝に

数学が得意で大好きだという4人。田中さんは「23時頃から問題を解き始めて、気づいたら朝になっていたことも」あるくらい、数学に夢中だ。宮本さんは「スイッチが入ると何時間でも解いている。名前を呼ばれても気づかないくらい集中する」と話す。丸尾さんも「答えが合わなかったら、どこで間違えたかのかを確認しないと気になって寝られない」と、数学への探究心をのぞかせる。

「数学は今回の証明のようにきれいにまとまることがある。直感的に理解できることでも、数学的に厳密に証明できた時はうれしい」(田中さん)

数学を通し自信を得た

証明を通じて、「難しい問題でも時間をかければ成果が得られる」という自信がついた4人。「大学では、証明した定理が、三角錐(すい)などの立体でも証明できるかを考えたい」という田中さんは大学の数学科への進学を目指す。中山啓太さんは人を喜ばせる職業を、宮本さんと丸尾さんは建築関係やインフラ整備に関わる職業を目指し、これからも歩みを進めていく。

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