国際協力特別賞

「スーパーハッピー」

佐賀県立佐賀西高等学校 2年 吉村 可奈子

世界にスーパーハッピーを届ける。それが画家である私の叔父の仕事上のスタンスだ。壁画アーティスト、という言葉を聞いたことはあるだろうか。彼は年に一度日本を出て、どこかの国の壁に、絵を描く。新型コロナウイルスの影響でここ一年はできていない活動だが、彼はこれまでに五カ国をまわって大きな壁画を残してきた。

向かう国を選ぶ上で考慮するのは、現地の人々の状況だ。治安ではない。治安も含め、人々が安心して暮らせているか、明るい気持ちで生きられているか、そういった現状をリサーチし、行き先を決めるのだという。

二年前にはハイチ共和国へ赴き、国境なき医師団と協力して病院の壁に絵を描いたという。彼の壁画制作の特徴は自分だけで描かないということだ。画家というと一人で黙々と自分の絵を描くというイメージがあるが、叔父はこのプロジェクトでは現地の人々やスタッフと共同で一枚の絵を描き上げる。あらかたの下描きをした上でたくさんの人を巻き込み、数日間にわたる着彩を経て絵を完成させるのだ。

写真を通して見る現地の人々はとても楽しそうで、明るい、いい表情をしている。そこの人々は決して裕福とは言えず、また不安定な政治体制のために毎日漠とした不安と闘っているような人も多い。そんな彼らが壁画制作に参加し、楽しみや生きる活力を得ていく。そのつながりに、私は強く心を動かされた。

世界には困っている人、苦しんでいる人がたくさんいると何度となく言われてきた。それを聞くたびに自分に何かできないだろうかと考える。以前は、「遠くの国の人のことも、考えるだけで、知ろうと努力するだけで、助けていることになる」と考えていた。だがそれはあるべき現実との向き合い方を自分に都合がいいように曲げ、何もしようとしない自分を正当化していただけだと今では思う。正しくは「遠くの国の人のことを考え、知ろうと努力し、その知識をもとに行動を起こすことが助けるということだ」となると思う。行動の規模とは無関係に、現実の何かを変えなければ世界の現状は変わらない。

途上国の人々の為に出来ること、と言われてすぐに思いつくのは、募金への協力やフェアトレード商品の購入、NGOや青年海外協力隊のボランティア活動への参加、などだ。それは確かに正しい発想だろうが、叔父の活動を知って、途上国の支援のあり方はもっと自由でいいのだと知った。助けたい、手伝いたい、その気持ちがあれば、自分の好きな形で好きなように行動していいのだと思った。何かの組織に所属しなければボランティア活動が出来ないと思い込んでいたが、それは間違いだった。きっと叔父にはボランティアをしているつもりはない。自分の好きな絵で多くの人にスーパーハッピーを届けたいという一心で、世界各地をまわっている。その結果、資金援助や土木工事の手伝いといった、いわゆる「ボランティア」では満たせない人々の心の窪みを、彼は埋めている。それを思うと一層、多元的な支援が大切だと感じる。

ボランティアという言葉が指す本当のところは、「もっと多くの人に幸せになってほしい」といった素直な気持ちに従って行動することだと思う。形はどうあれ大切なのは他者を想う気持ちだ。全てを利他的に考えることが求められているわけではない。

自分の幸せは、自分にしか作り出せない。しかし、自分の幸せを人に分けることはできないとしても、一緒に作り出すことはできるのではないか。私はどんな形で途上国の人々と関わり、笑いあえるのだろう。そう考えると、今までになくわくわくしてきた。

「一枚の壁画が、それぞれの人にとっての『壁』を越える力となるように」

私の存在が誰かの力となる、そのこと自体が私自身の力となる。助け、助けられの連鎖でいつか、世界に平和が広がってほしいと願う。