星野学園中学校(埼玉県川越市)は「国際人の自覚」を育むことを目指し、近年はSDGsも授業の題材にしている。2020年度に「JICA国際協力中学生・高校生エッセイコンテスト」を初めて指導に取り入れ、2021年度には2年生全員が夏休みの宿題として執筆した。上位入賞者を出し、学校賞も受賞したコンテストの手ごたえを、担当の先生と、入賞した生徒2人に振り返ってもらった。(中田宗孝、写真は学校提供)

「国際人の自覚を」SDGsの目標を一つ一つ学ぶ

教育方針の一つとして「国際人の自覚」を育むことを掲げる同校では、SDGsを主に道徳の授業で取り上げている。

中学2年生になると、海外での井戸掘りボランティアや諸外国の紛争といった国際問題について詳しく学ぶ授業が増えてくる。担当の岡弘樹先生(国語・道徳)は「道徳では、1年生は家族・いじめをテーマにした授業を行い、2年生からはSDGsについて学んでいきます。SDGsの17の目標を、卒業までの約2年間かけて道徳の中で一つ一つ丁寧に触れていきます」と説明する。

道徳の授業の全体発表の様子。各クラスの代表がSDGsに関するテーマについてプレゼンした
 

生徒たちは、道徳に加えて、国語や英語の授業、海外への修学旅行(コロナ禍前はオーストラリアでホームステイ)などを通じて、異国の言語や文化を深く学んでいく。「こうした取り組みは、『我々は国際社会の中で存在している』という意識を生徒たちに芽生えさせ、『国際人の自覚』を育んでいく意図があります」(岡先生)

世界の問題に「当事者意識をもつ」機会に

JICAエッセイコンテストは、SDGsについて本格的に学び始めたばかりの2年生の夏休みの宿題として課した。

尾崎仁美先生(国語)は「生徒たちは、道徳の授業などでさまざまな国際問題に触れています。中学生の多感な時期に国際問題に関するエッセイを書くことで、世界の問題を『自分に関係すること』として考えてもらえるのではないかと思っています」と話す。

エッセイ執筆の準備として、夏休み前の授業でJICAが取り組む政府開発援助(ODA)について生徒に調べさせ、JICAのホームページに掲載されている青年海外協力隊の動画を視聴した。「エッセイの題材になるようなことが何か見つかればと思い、JICAの数々の活動を生徒たちと確認しました」

左から星野学園中学校の尾崎先生、関さん、石川さん、岡先生

同校では、「書く力」をつける指導にも力を入れる。尾崎先生は「(学校外で評価される)コンテストという場で生徒たちに文章を発表する機会が得られたことは素晴らしいことだと思います」と話す。「道徳の授業後、生徒たちは200字程度の感想文を書いています。国語を始め、他の教科でも生徒に文章を書かせるように意識しています。このJICAエッセイコンテストに挑戦し、普段の授業の中で培ってきた文章力を発揮してほしいという思いがありました」。岡先生も、JICAエッセイコンテストの意義を次のように語る。「コンテストという目的が明確にあると、生徒たちは国際問題についての調べ学習に励みやすくなります。生徒に国際問題を教える私たちにとってもありがたいですね」

「自分はどう行動すべきか」執筆通じ考え深める

生徒は夏休みにテーマを決め、エッセイ執筆に取り組んだ。夏季講習などで登校したタイミングで書き方に悩む生徒にアドバイスしたという。

夏休み明け、生徒が書き上げたエッセイのテーマには「貧困・飢餓問題」「環境問題」などがみられたという。「国語や道徳では、多くの時間をかけて調べ学習に取り組んでいます。教員も授業中に、どんなサイトをチェックすれば調べが進むかを生徒にアドバイスします。エッセイに書くテーマについて、生徒たちはよく調べているなと感じました」(尾崎先生)。

エッセイコンテストを経て、尾崎先生は生徒たちの考察力の深まりを実感しているという。「国際問題があることを知るだけで終わらず、自分はどう行動すべきなのかを考えられるまでに成長したと思いました」

「届けたいメッセージ」からテーマを決める

エッセイを執筆した生徒の一人、石川大惺さんはペットボトルキャップの回収がワクチン支援に繋がることを知った体験を綴り、青年海外協力隊埼玉県OB会会長賞を受賞した。

石川さんは、道徳の授業でSDGsを学び、理解を深めた。「人々の優しさを重ねたもの。それが『SDGs』です」と言う。テーマ選びに苦労する中高生も多いが、「国際問題だけでなく身近な出来事に普段から関心を抱くようにしています。それと国際問題や人種問題に直面したとき、今の自分に何かできることはないか、支援できないだろうかと考えます」

エッセイを執筆した石川さん

関彩花さんは、2021年度のコンテストで上位20人に選ばれ、国際協力特別賞に輝いた。エッセイは、世界の子供たちに物資を届ける企画に参加し、自分の宝物だった文房具を送った出来事を文章にまとめたものだ。

幼いころからボーイスカウトに参加し、駅前募金などの社会貢献活動にも熱心に取り組んでいたが、「個人活動の中で何か書けることはないか、自分ならではの届けたいメッセージがあるのでは」と考えながら、テーマを決めたという。保護者からアドバイスをもらい、友達とも互いのテーマを相談した。SDGsから考えを広げようとしている同級生が多かったという。

執筆時には「自分の思ったことを飾らずそのまま言葉にする」文章を心掛けた。「将来的には支援国に赴き、自分の目で現地の状況を確かめ、ボランティア活動などに従事したいです」と、目標を語る。

エッセイを執筆した関さん

学校外での評価が生徒の自信に

最後に、尾崎先生から、これからJICAエッセイコンテストの活用を考えている学校へ、コンテストの魅力を伝えてもらった。

「JICAエッセイコンテストは、これからの未来を創造していく生徒たちが社会問題、国際問題を考えるきっかけになると思います。エッセイを書き終えた生徒たちは、本校で学んでいるSDGsへの問題意識が強まり、考えも深まりました。自分が書いた文章が学校外で評価を受けた生徒たちは、自信がつき、より良い文章を書いてみようという意欲を高めています」

星野学園中学校

星野学園中学校

2000年開校。ルーツは1897年に開かれた「星野塾」。現在は併設の星野高等学校との中高一貫教育を実施する。「知を築く」「世界につながる」「心を動かす」を3つの柱としている。

 

 

JICA国際協力中学生・高校生エッセイコンテストの2022年度募集テーマは「世界とつながる私たち―未来のための小さな一歩―」、締め切りは中学生の部、高校生の部ともに9月11日(当日消印有効)です。詳細はウェブサイトをご確認ください。生徒が原稿のテーマや構成を考えるのに役立つ「エッセイ書き方ガイド~実践ワークシート~」(学校でのコピー配布可能)もサイトからダウンロードできます。