学校教育の現場では、SDGsを含めた国際的な視点を養うことへの意識が高まっている。新学習指導要領の前文にも「持続可能な社会の創り手」の育成が掲げられた。奈良県立畝傍(うねび)高等学校は、生徒の目を世界に向けさせる教育に力をいれる。そのための取り組みの一つが「JICA国際協力中学生・高校生エッセイコンテスト」への参加だ。2021年度は特別学校賞を受賞した。同校の取り組みについて担当の先生と、入賞した1年生2人に聞いた。(中田宗孝)

1年生全員が応募 世界の出来事に関心を持ち、「思い」を表現

畝傍高校では、夏休みの課題にJICAのエッセイコンテストを活用している。1年生全員が夏休み中にエッセイを書き上げて9月初めに学校が取りまとめて応募する。2・3年生も希望者がいれば応募可能である。

応募を始めたのは2015年度から。甲斐里紗先生(国語)は、その理由を次のように話す。

「もともとは、国際的な視点を養う狙いで採用しました。生徒たちが世界で起こっている出来事に興味や関心を抱くきっかけになります。もちろん、『書く力』を身につけられるのも魅力です。『高校生の部』の規定字数は1600字以内ですが、普段の授業では、これだけの字数の文章を書かせる機会はあまりとれません。初めはなかなかうまく書けないと感じた生徒も、書いていくうちに自分の思いを表現することが楽しくなってきます。生徒の文章力を伸ばす良い機会と考え、応募しています」。生徒には執筆前に「どうすれば書きやすいか」を伝えるようにしている。

2021年度の同校生徒の作品には「東京オリンピック・パラリンピック」「ブラック・ライブズ・マター運動などの人種問題」「LGBT」がJICAエッセイの題材として目立ったという。「普段、見聞きするニュースからテーマを探す生徒が多い印象を受けました」(甲斐先生)。同校では日ごろからニュースに触れるように促している。

左からJICAエッセイコンテスト入賞者の橋本さん、岸本さん、担当の甲斐先生

自分でテーマを見つけ、調べ、文章化する機会に

1年生は、学校設定科目「グローバル国語」(週1時間)で、「話すこと」「聞くこと」を中心にコミュニケーション能力をつける取り組みをしている。JICAエッセイコンテストへの応募も、この科目の指導の一環として行っている。

1学期には同級生の前で自分の行ってみたい国について語るなどして人前で話す経験を積み、2学期は6~7人ずつの班に分かれて「死刑制度を存続すべきか否か」「消費税率を引き上げるべきか否か」などをテーマにしたディベート中心の授業を展開する。

甲斐先生は、夏休みのJICAエッセイ執筆を1学期との2学期の学習をつなぐ取り組みととらえている。「1学期に培った『自分の意見を伝える力』を発揮する場として適したコンテストだと考えています。執筆には、さまざまな国際問題の中から生徒自身が書きたいテーマを見つけ、詳しく調べる作業が必要になります。情報収集をして論理的に文章化し、読み手に伝える。この経験が2学期のディベートに生きてきます」

3学期は例年小論文を執筆させていたが、2021年度は新たな取り組みとして生徒が班ごとにSDGsを題材とした3分程度の劇をつくって演じた。テーマは「ジェンダー」「フードロス」「貧困」「プラスチックごみ」など。JICAエッセイコンテストで選んだテーマをヒントにしたとみられる班もあったという。

先生の一言が心に残り、JICAエッセイのテーマに

国際協力特別賞を受賞した岸本さん

岸本彩伽さんは、2021年度のJICAエッセイコンテストで上位20人に入る国際協力特別賞に輝いた。テーマに選んだのは児童労働だ。エッセイは、英語の先生が授業中に発した「子どもたちが作っているかもしれないから、チョコレートは食べないんだ」という何気ない一言から始まる。この言葉が心に強く残り、テーマ選びのきっかけになったという。

甲斐先生によると、同校の教員は、ホームルームや授業中に、生徒が国際的なニュースに関心をもつきっかけとなるような話題を語りかけるよう意識している。「私も授業の中で生徒たちのアンテナに引っかかるような声掛けを意識しています。例えば、生徒が日本国内の出来事について調べている際には、『じゃあ他の国ではどうなっているのかな?』と」。そう促し続けることで、生徒たちは日本の外にも自然と目を向けられるよう成長していく。

岸本さんは「一つの社会問題にはそれに至るまでの背景がたくさんあり、その問題を解決させる方法も色々あると感じました。今回エッセイを書いてみて、自分の視野をさらに広げることができたと思います」と振り返る。 

難しそうな国際問題、身近なことに引き付けたらアイデア浮かんだ

国際協力機構関西センター所長賞を受賞した橋本さん

橋本庵冶さんは、国際協力機構関西センター所長賞を受賞した。テーマに選んだのは食糧問題だ。「国際社会の問題は一見すると重たくて難しそうに感じるのですが、ぐっと視線を引いて、自分の身近なことに引き付けて考えてみると意外にアイデアが浮かびました」と橋本さん。執筆にあたり、インターネットを活用して参考資料やデータを探したという。

今の生徒にとってインターネットは、情報源だが、ネット上の膨大な情報の中から生徒が正誤を見極めることが大切と甲斐先生は言う。「生徒たちには授業の中でも、ニュースソースを確認することやたくさんの資料と見比べることを伝えています」

執筆を通じて「世界の問題」目を向けるきっかけに

今後、授業などでJICAのエッセイコンテストの採用を考える学校に向けて、甲斐先生からJICAエッセイ執筆の効果を語ってもらった。

「JICAエッセイに取り組むことで、生徒たちが海外の問題にも目を向けるようになり、国際的な視点を養えます。そして、自分たちの身近な問題が実は世界の問題ともつながっていることを知るきっかけになると思います。賞を受賞した生徒たちは、自信を深め、2年生以降の課題研究などの取り組みにつながると感じています」

奈良県立畝傍高等学校

奈良県立畝傍高等学校

1896年(明治29年)開校。校訓は「至誠 至善 堅忍 力行」。2014年度から2018年度まで文部科学省よりスーパーグローバルハイスクールに指定。2019年度から2021年度まで文部科学省より地域との協働による高等学校教育改革推進校(グローカル型)に指定。卒業生の大半が四年制大学に進学。