高校生の部 国際協力特別賞
「現実」と向き合う
神奈川県立湘南高等学校2年 太田さくら

密集したテントにプレハブの家。舗装されていない道に吹き上がる茶色い砂煙。家族を 養うために学校を辞め、大好きなサッカーを諦めたという男の子のうつむいた顔。内戦の ためシリアから逃れてきた人々が身を寄せるヨルダンのザアタリ難民キャンプの写真を見 て、私は心をぐっと押さえつけられたような感じがした。

この夏休み、私は「国境なき子どもたち」というNPOが主催するオンラインセミナーに参加した。日本とヨルダンで中継が繋がれ、実際にザアタリ難民キャンプで支援活動を行っているスタッフの方のお話を聞くことができた。

市民と政府の対立が内戦となり、今もなお戦闘が続くシリア。他の国家や武装勢力の介入もあり、対立の構図が複雑になったことも内戦が長期化している原因の一つだ。街は破壊され、通貨の価値が大幅に下がったため、人々は住む家を失い、水や食糧などの生活に必要な物すら手に入れることができなくなってしまった。その結果、シリアの人口の約半分にあたる一千万人が国内外への避難を余儀なくされた。銃声や爆発の音に怯えて見知らぬ土地を歩き、いつ転覆するか分からないボートに乗る。私は想像しただけで恐ろしくなってしまった。

安全な土地での暮らしを求め、命がけで国境を越えた八万人もの人々が、ザアタリ難民 キャンプで生活している。そのうちの約五十五パーセントが十七歳以下の子どもであり、 就学年齢に達した子どもの四人に三人がキャンプ内の学校に通っているという。学年は一年生から十二年生まであり、日本の小学校から高校にあたる。しかし、女子の中には、十四歳頃になると結婚を理由に学校を辞めてしまう子がいるそうだ。また男子の中には、六年生になると働きに出て学校に来なくなってしまう子がいる。たとえ十二年生までに学校に通うことができたとしても、大学に通うためにはキャンプの外に出なければならない。 学校があるのに通えない、学びたくても学べないといった子どもたちの現実を、私は初めて目の当たりにした。そして、将来に希望を持って学校に通うことのできている私は、とても恵まれていたのだと強く感じた。

以前から、一つ疑問に思っていたことがあった。いつか本の中で見た、弾けるような笑 顔。それは、紛争から逃れてきた子どもたちのものだった。悲惨な光景を目にし、命を脅 かされた子も、中にはいたかもしれない。彼らは無理をして笑っていたのだろうか。意外にも、その答えはすっと私の心に入ってきた。「確かに、キャンプの中では辛いこともあります。でも、喜びもあります。育てていた植物が生長したり、妹が大きくなったり。小さなことに、喜びを見い出しています。」 スタッフの方の言葉に、急に懐かしさがこみ上げてきた。私も小学生の時、アサガオを育てた。朝起きると紫色の花がパッと開いていた。二歳の時、弟が生まれて姉になった。沢山喧嘩もしたが、一緒に成長してきた。彼らが私と同じような喜びを感じていたと知り、 ほっとした。

現在、世界で起こる出来事には社会からの関心が寄せられていても、その渦の中にいる 人々に対しては十分に焦点が当てられていない。このセミナーに参加し、気づいた。私自 身、一部の報道を見ただけで出来事のすべてを知ったように感じ、難民キャンプの子ども たちの現実を知らなかった。表面だけをさらった知識が先入観を生み、人々の距離はさら に遠ざかっていく。出来事のその先で何が起きているのか。たとえ辛く悲しい現実だとし ても、私たちはそれと向き合わなければならない。そう強く思うようになった。この先、 未来を変えるために行動を起こしていくのは、私たちなのだから。