高校生の部 審査員特別賞
力をつけたい
近江兄弟社高等学校2年 岡さくら

大きなドクロのイラストと共に「DANGER!! LANDMINE!!」と書かれた赤い看板。その先に広がる地雷原を前にして考えた。この大地に一歩、足を踏み入れるだけで下手したら死ぬ。 死の大地を前にして一瞬、恐怖で時が止まった。この時初めて、戦争が終わっていないことを実感した。

昨年の夏、私は地雷をテーマとした研修でカンボジアへ訪れた。きっかけは一冊の本だ った。その本には、地雷、不発弾、孤児といった、私が普段目にしない言葉が並べられて いた。想像をはるかに超える苦難を知り、同じ世界の出来事だと思えなかった。一九七〇 年から二〇年近く続いた紛争が今のカンボジアにどのような影響を与えているのか自分の目で確かめて、知るべきだと考えた。

現地に着き、地雷処理活動の様子を間近で見学した。地雷原の臭い、心臓が止まるかと 思うぐらいの爆発音、そしてただならぬ緊張感。文字からは伝わってこなかったリアルがひしひしと伝わってきた。これがカンボジアの日常だと思うと戦争が残した爪痕の深さを改めて感じた。

研修中、私は孤児院に宿泊した。衣食住に困ることなく、沢山の支援物資に囲まれて生 活している子供たちを見て驚いた。しかも、日本語で話しかけてくる。カンボジアは長い年月を経て、支援や質の高い教育が行き届いているのだと思った。だがそれは大きな間違いだった。孤児院で生活している子供は裕福な里親が面倒を見る。本当に支援が必要な子供は実の親と生活しているのだ。そして、今の私と同じぐらいの年齢になったら、地雷処理を仕事にする人もでてくる。

地雷処理活動は国際問題として大きな課題となっている。この課題は、世界を変えるための目標 SDGs の十六番目の目標に当てはまる。日本を含め複数の国が二〇三〇年までに「カンボジア完全地雷除去」を目指して地雷処理の活動を支援している。だがこのままだと二〇三〇年までに完全地雷除去は厳しい状況にある。

現在、カンボジアに埋まっている地雷の数は四〇〇万個から六〇〇万個と言われている。 地雷探知員たちはそれを文字通り手作業で取り除いている。年間に処理している地雷はおよそ一万個。額面通りに計算すると四〇〇年から六〇〇年かかることになる。機械での地雷除去も少しずつ開発され実用化されているが、対戦車地雷が埋葬されていると予想される地域や、畑の中などは機械が使えない。このような状況で二〇三〇年までに完全に地雷を除去するにはどうしたらいいのか。私にできることは何なのか。考えるべきことは山のようにある。

カンボジアのために今、私ができることは、「知る」「考える」そして「発信する」こと の三つだ。特に発信することが重要だと考える。私が見たもの、感じたことを多くの人に 自分の言葉で伝えたい。そして、カンボジアの「今」を多くの人に知ってもらいたい。

本当はカンボジアで活動したいと考えている。でも、今の私に何ができるのか。研修を 振り返ってみると、孤児院でボランティアはしたものの結果的に子供たちにおもてなししてもらっていた。私に合わせて日本語を話してくれて、料理まで教えてもらった。研修生といいつつも私はずっとお客さんだった。役に立つことは何一つできなかった。だから、いてもたってもいられなくて今すぐカンボジアへ行ったって、何の技術も持っていない私は、またお客さんになるだけだ。それだけは避けたい。

誰かが動かなければ、地雷はなくならない。その誰かの中に自分がいるということを意 識して生活したい。同時に、その誰かの中に入れるように技術を身につけたい。まずは言 語の壁を壊せるように、カンボジアの言葉から勉強しようと思う。そして、再びカンボジアへ足を運びたい。