高校生の部 国際協力特別賞
工夫する力
大阪府立阿倍野高等学校2年 井上 麻衣

食器が入った引き出しを開けるたびにコロコロと音を立てて転がる一本の筒、その正体 は竹製のストローだ。それは私にとって、昨年の夏に家族と訪れたベトナムでの思い出の品であり、大切なことを気付かせてくれたヒントでもあった。ベトナム滞在中、どこのレストランでも飲み物とともに竹製のストローを出された。日本では見慣れないものだったから、洗って記念に一本持ち帰ることにした。

一般的なストローの原料であるプラスチックは軽く丈夫で、成形しやすく、サビや腐食に強いなど長所が目立つ。一方で、処分する為に燃焼させることによって二酸化炭素が発生し、地球温暖化の観点では、プラスチックは短所のほうが目立つかもしれない。しかし 今、プラスチックは世界中でなくてはならない資源となっている。面倒を理由に、あるいは無意識にゴミの分別を徹底していない人は多いだろうが、その身勝手な行動が世界のどこかで人々の命を脅かしていることに思いを巡せる人は、ごくわずかだろう。

あるニュースで、私たちの住む日本では年間百五十万トンものプラスチック廃棄物が、リサイクル資源として外国へ輸出されていることを知った。これは日本のみならず世界各国で行われていることだが、なぜそれぞれ自国で処理をしないのか。プラスチックをリサイクルするにはたくさんの手間がかかるため、それに伴って人件費もかかる。そのため、プラスチック廃棄物のほとんどは人件費の安い国へ運ばれ、最終的にたどり着く場所はスラム街のゴミ山だ。スラム街とは、極貧層が居住する過密化した地区のことを言うが、そこにあるゴミ山は悪臭を放ち、有毒ガスが発生し、時に火災現場ともなる極めて危険な場所である。しかし、ゴミ山はスラム街に住む人々にとって生活の場となっている。有毒なガスが発生する中、彼らは体を蝕まれながらも、生きる為にリサイクル品として売りに出せそうなものを探す。彼らの中には、一生こうして生計を立てる人やゴミ山を住処にしている人が多くいるという。私はこの事実を知った時、これを貧民層の生きる道と解釈するのが正しいのかと、自分に問いかけた。そもそもこのような考えは、ゴミを押して付けている立場だからこそ思い浮かぶものであり、問いかけながらどこかで正当化しようとしている自分がいると思った。スラム街に住む人々にも健康的な生活を送る権利があり、その 健康を犠牲にすることなく生活できる環境を彼らに提供することが、プラスチック廃棄物を押し付けている私たちの課題であると考える。このようなニュースを目にするたび、環境の為に私にできることはないかと日々考えていた反面、私一人が環境に配慮したところで何かを変えられるのだろうかと思っていた。そんな中、竹製のストローを見た時、私の頭の中に工夫という言葉が強く浮かび、あることに気付いた。日常にあふれる様々なものに長所と短所の両方が存在する。しかし、竹製のストローのように原料を変えるという工夫を一つ施すだけで、短所がなくその存在意義を維持するものを生み出すことができるの だ。

私たちは自分には関係のないことを他人事ととらえ、都合の悪いことを想像しない一面 を持っている。しかし今地球上で起きている、地球温暖化が原因である異常気象が生む自 然災害の数は計り知れず、それによって住処や命を奪われている人々や動物は後を絶たな い。そんな今を生きる私たちに求められるのは、工夫する力だ。決して大きな工夫を施す 必要はない。私たちが環境を想って施す小さな工夫一つ一つが、巡り巡って地球上の命を 救う第一歩となる。私にできることは日々の生活の中に工夫を取り入れ、それを人々につなげていくことだ。身勝手な行動がどこかで命を奪い、小さな工夫が地球を救う第一歩となることを、もっとたくさんの人に知ってほしい。