正直、まだ縁遠いもののように感じられるAI(人工知能)。今回は、「暮らしに役立つAI の使い方」を研究している千葉工業大学先進工学部知能メディア工学科の今野将(すすむ) 教授にお話を伺いました。

高校生の身近にもAI はたくさんある

「AIと聞くと、人と対話するロボットや車の自動運転などを実現する『魔法の技術』のように思えるかもしれません。でも、高校生が毎日使っている身近なものにも導入されているんですよ。例えば、スマホで文字入力する際の予測変換や電車の乗り換え案内なども、実はAIなんです」と今野先生は話す。

また、「Amazon」利用者にはおなじみの、「この商品を買った人はこんな商品も買っています」と推薦するシステムにも、「協調フィルタリング」というAI技術が使われている。大勢の人の購買履歴の中から自分と購買履歴が似た人を探す、つまり膨大なデータから瞬時に共通項を見つけ出すのはAIの得意技。こうしたAIやコンピュータの力を使って社会や暮らしをラクにすることが、今野先生の研究テーマだ。

持ち物推薦システムについて説明する今野先生

行き先に合わせてAIが持ち物を推薦?

現在開発しているものの一つが、協調フィルタリング技術を核にした「持ち物推薦システム」だ。「これは行き先に応じて持っていったほうがよいものを推薦してくれるシステムです。例えば、あるテーマパークに行く時、過去に行った人が何を持っていったかを分析し、『水がかかるアトラクションが多いからレインウェアを用意したほうがいい』などと教えてくれたら便利だと思いませんか?」

問題は、「どこに行く時に何を持っていったか」というデータをどう集めるか。データは数が多いほど信頼性が高くなる。研究室では、ネット上で集めた1000 人分のアンケートを集計し、利用しているという。さらに、外出時に何を持っていったかを毎日手で記録してもらうことの大変さにも着目。物を載せると色や形からそれが何かを自動的に判断し、記録する装置もあわせて開発している。「将来的には、バッグを開いて装置にかざすだけで持ち物を簡単に記録できるようにしたいと思っています」と今野先生は目標を語る。「実用化されれば、外出前にバッグをかざして忘れ物がないかをチェックしてもらうこともできそうですね」と高校生記者の福元さんも感心した様子。

ゆくゆくは、その日の天候や外出先で何がしたいのかといったより詳細な条件を考慮し、AI が最適な持ち物を瞬時に推薦してくれる日がくるかもしれない。

今回紹介した例をはじめ、今野研究室では、学生の研究テーマはそれぞれ異なる。その理由は、「どんなことをラクにしたいと思うかは人によって違うから」だという。「ただし、自分だけがラクになればいいという独りよがりな研究はいけません。これが実現したら世の中の人みんなにとって便利になるよね、というテーマに、ぜひアプローチしてほしいと思います」

【取材を終えて】福元まりあさん(埼玉県・浦和ルーテル学院高等学校・3年)
 
 「持ち物推薦」やエージェントを利用した行動シミュレーションなど、私たちの生活に直結する応用知能システムについてお話を伺い、人工知能をより身近に感じるようになりました。特に「持ち物推薦」のサービスは、登校時に忘れ物がないかを確認するのにとても便利だと思います。実用化が待ち遠しいです。
「AIは実用化された時点でAIではなくなってしまう」とおっしゃっていたのが印象に残っています。確かに私たちは、予測変換やネット通販を利用するとき、それらがAIの技術だということをあまり意識しません。普段何気なく利用しているサービスも、実はAIの技術だと気付くことができれば、もっと毎日が面白くなるのではないかと思いました。

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