免疫システムを支える細胞たちは、個性豊かなキャラ揃い?

春先になると、くしゃみがでる。鼻水が止まらない。目がかゆい…。花粉症は、今や日本人の4人に1人がかかっているといわれる「国民病」だ。春先のつらい時期がようやく終わり、ほっとしている人もいるのではないだろうか。

「実は、花粉症は免疫反応と深く関わっているんです」と話すのは、千葉工業大学 先進工学部 生命科学科の橋本香保子准教授だ。

「免疫反応は、病原体を排除して自分自身の身体を守る働きだと思っていませんか? でも、実際は、『自分自身の身体を作っている分子』と『そうではない分子』とを識別するしくみなんです。病原体を排除するのは有害だからではなく、自分自身の分子ではないと判断したからです」

こうした反応が過剰になると、スギやヒノキなどの花粉や、卵や小麦といった本来なら人体に無害なものも異物とみなし、排除しようとする。それが花粉症や食物アレルギーなどを引き起こすのだ。

アレルギーを発症する要素は誰でも持っている。ただし、実際に発症するか否かは、遺伝的背景なども関係しているそうだ。

 

花粉症を引き起こす「マスト細胞」

免疫反応には何種類もの細胞が関わっている。

例えば、免疫反応のオンオフをつかさどり、異物に対してどう働くかを他の細胞に指示する司令塔が「T 細胞」だ。ほかにも、相手構わず異物を食べて分解してしまう大食漢の「マクロファージ」や、侵入してきた異物を捕まえるグローブのような分子(抗体)を作る「B細胞」など、なかなかの個性派揃いだ。

そして、花粉症を引き起こすのが「マスト細胞」だ。この細胞に抗体がくっついて、体内に入ってきた花粉を捕まえると、細胞内にある袋が破裂。袋の中から放出された「ヒスタミン」という物質をきっかけに、花粉を外に排出しようとするため、くしゃみや鼻水が出るのだ。

「だったら、この細胞の働きを抑えてしまえば花粉症は解決する、と思いますよね。でも、抑えすぎると、また別の感染症にかかりやすくなったりするんです。特定の細胞の働きが過剰になっても、それを抑制しすぎてもうまくいかない。免疫反応は、さまざまな細胞がバランスを保ちながら働くことによって成り立っているんです」

 

アレルギーのメカニズムを分子レベルで解明

こうした免疫細胞の働きやアレルギーを発症するメカニズムなどを、DNA やタンパク質分子、遺伝子といった分子のレベルで解明していくのが橋本准教授の研究だ。

「具体的には、アレルギーを発症したマウスの免疫細胞を調べ、細胞の中の分子の働きが健康なマウスのものとどう違うのか、どんな遺伝子が欠如していたり、活性化していたりするのかなどを見ています。そこから治療のターゲットとなる遺伝子などが明らかになれば、新薬の開発や医療分野に応用できるでしょう。生命科学科では、ゲノム解析や遺伝子の制御といった研究も進んでいます。そうした分野の先生方とも協力しながら研究に取り組んでいます」

このように、DNA やタンパク質分子などを「モノ」として捉え、より細かくかみ砕いて解析していくことができるのが、工学系学部で生命科学を学ぶ楽しさだと橋本准教授は話す。今後は、マスト細胞の中の袋を破裂させず、ヒスタミンが外に出ないようにしたまま他の細胞と共存することができないか、年齢と共に低下していく免疫細胞の働きを維持するためにはどうすればよいか、といったテーマにも取り組んでいきたいという。

「免疫学の分野では、近年、自分自身の免疫細胞を体内から取り出し、パワーアップさせ、再び体内に戻してがん細胞を攻撃させる『免疫治療』の研究なども進んでいます。免疫について研究することで、私たちはもっと健康的に過ごせるはず。ぜひ、高校生のみなさんにも興味をもってほしいですね」

お話を聞いた先生!

 

 

 


橋本香保子准教授
先進工学部 生命科学科

 

 


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