11月3日(日)、「鎌倉女子大学 第13回お弁当甲子園」の授賞式が行われた。北海道から沖縄まで過去最多の全国307校11,269作品から選ばれた最優秀賞から入選まで17名の他、高校単位でも表彰される。式が行われる鎌倉女子大学の大船キャンパスは、前日の荒天とはうってかわった晴天となり、その晴れやかな式典にふさわしい天候となった。

 

高校生なら誰でもチャレンジできる「お弁当甲子園」の表彰式開催

まずは主催者挨拶から始まった授賞式。登壇した家政学部長の大石美佳教授は「緊張していますか?でも、よい会なので笑顔でいきましょう」と緊張をほぐす。「このお弁当甲子園の主旨は、お弁当で気持ちを表現しようというもの。お弁当は誰かを想定して作るものです。審査では、皆さんの思いの洪水に、審査員も1つひとつ笑いながら泣きながら、目を通しました」と挨拶をした。

家政学部長・大石美佳教授

表彰状授与では、神妙な面持ちで前に出た1人ひとりの高校生たちに表彰状や副賞目録などが渡される。我が子、我が生徒の晴れの舞台に、スマホのシャッター音が心地よく響く。集合写真の撮影では、「もっと笑って」というカメラマンに呼応し、特別審査員の阿部了氏がポーズをとって高らかに笑い声をあげ、高校生もつられて大笑いする一幕も。

最優秀賞・木下大悟さん

 

会場の様子

 

作ることで実感する「日常の延長にあるお弁当」の大切さ

そして立食スタイルの懇親会が始まる。乾杯の挨拶をした特別審査委員の阿部直美氏は、高校時代は何も料理をしなかった娘が大学生になって一人暮らしを始め、自分で料理をするようになった話をしてくれた。「実習先に行く時に毎日お弁当を作ってもっていき、実習が遠方のため、居候した先輩の家で夕飯も作ったというのでびっくりしました。自分で食べるものを自分で作り、人のためにも作るようになった、それだけでも子育てが終わったなという気持ちになれました。今回、皆さんもお弁当を作って大変だったと思います。でも、お弁当は日常の延長にあり、毎日のこと。日々の生活なので、自分でお弁当を誰かのために作ってあげられることを大切にしてください」という温かなメッセージに会場の誰もが聞き入った。

特別審査委員・阿部 直美 氏による乾杯挨拶

しばらく食事をしながら歓談した後は、最優秀賞の木下大悟さん(愛媛県立松山南高校2年)の挨拶が始まる。「僕の作品を最優秀賞に選んでいただきありがとうございました。父が病気だったので、早く治ってほしいという思いを込めてお弁当を作りました。その結果、手術が成功して完治し、本当にうれしかったです。僕の思いがお弁当に込められ、父が笑顔になりました。お弁当にはそんなすごい力があるので、これからも人を笑顔にするようにお弁当を作り続けたいです」。木下くんは、昨年も母へのお弁当で入賞した実力者である。家族を大切に思うお弁当は、とても色鮮やか。好きなものから食べる父のために、おにぎりの中身を見えるように工夫もされていた。

 

文部科学大臣賞の群馬県立高崎女子高校もまた、2年連続受賞となった。マイクを向けられた同校の先生は、「昨年、入賞した生徒を中心に、先生のお弁当の取材などが行われ、生徒たちの変化を感じます」と語った。

文部科学大臣賞・群馬県立高崎女子高等学校

 

また、審査員講評では、家政学部の高橋ひとみ教授が「私は調理学を教えているので、栄養的な面を中心に審査しますが、(食べる人に合わせた)個性的なお弁当が多く、食す人に合っていないとお弁当は役立たないものなのだなと今回、あらためて感じました」と話した。また、山口真由准教授は「高校の授業で渋々参加した方もいたと思いますが、それでもだんだんエンジンがかかって思い出を込めたり、工夫したりした様子が伝わってきました。それが受賞につながったのでしょう。高校生なら誰でも参加でき、部活のように朝練もなく、性別も関係ない、ハードルの低い甲子園にまたぜひ参加してください」と語りかけた。

左:髙橋ひとみ教授/右:山口真由准教授

 

お弁当の見栄えだけではなく、込められた思いをしっかりと評価

特別審査委員 阿部 了 氏による受賞者インタビュー

懇親会の後半は、お弁当甲子園で恒例となった、阿部了氏による受賞者インタビューの時間だ。まず始めに了氏は「毎年、応募が増えているようだけど、映えを気にして盛りすぎが目立つようになってきた。でも、受賞したみんなのお弁当は、それぞれの味が出ていて、そこがいい」と話し、まずは最優秀賞の木下さんのところへ。「去年お母さんに作ったのも、今年も卵焼きがメインだね。将来は何をしたいの?」と尋ねる。木下さんは「小学生の時から食物アレルギーがあるので、そういう子どもを減らすために、薬剤師か医師になりたい」と答える。会場からは「おお!」と感嘆の声が。

続けてマイクをもって了氏が向かったのは、特別審査委員賞の熊川陽登さん(群馬県立沼田高校1年)のところだ。熊川さんの弁当は、妹にお願いされて作った「ハンバーグ弁当」。ふだんは仲のよくない妹だが、お弁当ひとつで仲が縮まり、食べ物のすごさを感じたという1品。白飯に茶色だらけの無骨な男メシだが、了氏は「エピソードが素直。本当に仲悪いの?まあ、兄妹なんでそんなものだけど、作ってと言われて作るところがやさしい。ご飯の(何もない)白さに熊川くんの顔が見たくて選んだんだ。何に苦労した?」と講評と質問。熊川さんは「片付けです」と答え、付き添いの母は「正直、映えないし、(受賞して)まさかと思いました」と苦笑いしていた。

特別審査員賞のもう1人、田中一葉さん(福岡県立東筑高校1年)は、「歯を痛めた母」への「柔らか愛情弁当」で受賞した。「派手でないお弁当だし、料理も得意じゃないのに」という田中さんに、了氏は「お母さんのやさしさを受け継いだんだね。明太子を使っているのが、福岡らしくていい」とコメント。田中さんの母は「歯痛は治まらないですが、娘の優しさが伝わりました」と嬉しそうな様子だ。

受賞者インタビューの様子

受賞者だけでなく、応募した高校生1人ひとりにストーリーがあるお弁当。誰かのために、心を込めて作るお弁当。そこから生まれるものは、まわりに広がり心もお腹も満たしてくれそうだ。「食」という生きるために必要なものに対し、意識して対峙した経験は、高校生にとって貴重な成長のきっかけとなったのではないだろうか。

 

第13回お弁当甲子園入賞者

【最優秀賞】
木下 大悟(愛媛県立松山南高等学校2年)
【特別審査員賞】
熊川 陽登(群馬県立沼田高等学校1年)
田中 一葉(福岡県立東筑高等学校1年)
【優秀賞】
惣田 健斗(北海道美幌高等学校3年)
谷田部 真結(神奈川県・鎌倉女子大学高等部2年)
渡邊 葉月(神奈川県・横浜雙葉高等学校1年)
澤田 大晴(愛知県立豊田工科高等学校1年)
【入選】
村上 美莉(東京都・かえつ有明高等学校2年)
南村 拓(京都府立山城高等学校2年)
飯塚 粋(東京都立竹早高等学校2年)
岡村 美那(福岡県立東筑高等学校1年)
長澤 実咲(東京都・早稲田実業学校高等部2年)
片岡 泉(神奈川県・カリタス女子高等学校1年)
山之内 咲月(山形県・日本大学山形高等学校2年)
坪井 颯佑(群馬県立沼田高等学校1年)
横田 玲(兵庫県・雲雀丘学園高等学校2年)
千野 咲空(神奈川県・湘南学院高等学校3年)
【佳作】
山口 萌果(神奈川県立元石川高等学校3年)
渡邊 乃愛(神奈川県・慶應義塾湘南藤沢高等部1年)
山本 知佳(栃木県・白鷗大学足利高等学校1年)
西原 由珠(宮城県泉高等学校3年)
德田 太一(福岡県立東筑高等学校1年)
前田 心花(徳島県・徳島市立高等学校2年)
石澤 希尚(山形県・日本大学山形高等学校2年)
小林 由(三重県立四日市農芸高等学校2年)
飯田 絢香(大阪府立清水谷高等学校2年)
中込 和希(山梨県立甲府東高等学校3年)
深海 凛(京都府立山城高等学校2年)
塩山 来佳(岡山県立倉敷南高等学校2年)
西尾 日向(東京都・東京家政学院高等学校3年)
今中 美喜(兵庫県・雲雀丘学園高等学校2年)
須田 陽南(岡山県立西大寺高等学校3年)
 
【文部科学大臣賞】
群馬県立高崎女子高等学校
【学校賞】
東京都・早稲田実業学校高等部
山形県・日本大学山形高等学校
埼玉県・本庄東高等学校
【鎌倉女子大学賞】
神奈川県・湘南学院高等学校
福岡県立福岡高等学校
東京都・目黒日本大学高等学校
        

*受賞作品はこちらからご確認いただけます。