さわやかな秋晴れとなった11月4日(土)は鎌倉女子大学の学園祭だったが、同時開催されたのが「第12回お弁当甲子園」の表彰式である。全国333校から、過去最多となる11,163作品の応募があった今大会。選ばれた上位受賞者たちが一堂に会し、表彰式に臨んだ。

 

想いを伝えるお弁当を高校生から募る「お弁当甲子園」 表彰式開催

12回目を迎えたお弁当甲子園。今年は新たに「文部科学大臣賞」(最優秀学校賞)が創設され、応募者にとっては、より一層の励みとなったのではないだろうか。開会にあたっての主催者挨拶には、福井一光学長が登壇した。

鎌倉女子大学・福井一光学長

「この活動の後援に、文部科学省も名前を連ねてくださいました。お弁当といえば、私も毎日、家内が作ってくれたものを持ってきます。いつも入れてくれるのが庭の南天の葉。南天は難を転ずる意味があり、心配してくれているのかなと思っています。お弁当は外国にはあまり見られない日本の文化。その文化を大事に、家族や友達に伝承していってほしい」と受賞者に向けて語りかけた。

来賓祝辞では、元文部科学副大臣・義家弘介様から「どんなに知識を蓄積しても、それを表現できなければ世界で戦えません。その学力の結集力が、この(皆さんの)お弁当です」と受賞者を鼓舞した。

家政学部長・大石美佳教授

審査委員長挨拶では家政学部長・大石美佳教授が「人を大切にする気持ちや食材への思い、それを誰につくってあげたいのか。そういうものをお弁当というひとつのものに結集させるのが、お弁当甲子園の魅力です。お弁当には想像力と共感力も大事。今回は『バリアフリー弁当』が最優秀賞に選ばれました。目の見えない人の世界はどんなだろうと想像して、どうしたら食べやすいかを考えたものです。皆さんのお弁当からとても元気をもらえました」と話した。

 

身近な人から妄想彼氏彼女まで、お弁当を食べてもらう対象は様々

続く表彰状授与では、最優秀賞から順次、名前を呼ばれる。表彰状が渡される瞬間、緊張していた表情がほころぶのは皆共通だ。

最優秀賞・長谷波奈さん

最優秀賞の長谷波奈さん(東京・私立東洋英和女学院高等部3年)は、「視覚に障がいのある友人」のために、「全部食べられるバリアフリー弁当」を作った。食べやすさを重視する友人は、ふだんの昼食は、丼ものやおにぎり、パンが中心だという。そんな友人が安全に、栄養バランスのよい食事ができるよう考えた弁当は、バラン(おかずカップ)の代わりに海苔を使うなど誤食のリスクをなくす工夫が詰まっている。他者の困りごとに目を向け、どうしたら今より楽しく食事ができるかまで配慮した、あたたかな気持ちにさせてくれるお弁当だ。

会場の様子

特別審査委員賞、優秀賞、入選の皆さんも会場で表彰を行い、その栄誉を讃えた。文部科学大臣賞は、「お弁当甲子園」に熱心に取り組む学校の中から、群馬県立高崎女子高校が選ばれた。文部科学省より、初等中等教育局参事官・田中義恭様が駆けつけてくださり、表彰状授与を行った。

 

笑いがいっぱい、和やかな雰囲気で行われた懇親会

今回、コロナ禍で中止としていた懇親会を開催。乾杯の挨拶は、ライターで特別審査員を務めた阿部直美氏だ。ANA機内誌『翼の王国』人気No.1エッセイ「おべんとうの時間」を担当し、同じく特別審査委員を務めたカメラマンの阿部了氏と夫婦二人三脚で全国を回り、了氏がお弁当の写真を撮影し、直美氏が写真にまつわるエッセイを書いている。
 「最初は夫に連れられて(弁当を巡る旅に)行っていただけで気づかなかったが、小さな箱の中にその人の人生が詰まっていることがわかりました。今回もみんなのお弁当を見せてもらい、いろいろ詰まって一つ一つ違いました。同じお弁当はなく、作る過程が見えてきます。お弁当甲子園でも、(写真に添える)文章を読むと、卵焼き一つとってもいろいろな思いが詰まっていました。亡くなったお母さんが作ってくれたしょっぱい卵焼き。それからアレルギーで食べられなかったという卵焼きは、随分、大きいなと思ったら、アレルギーを克服した今、お母さんのために大きい卵焼きを作ったものでした。このように、お弁当はふだんの生活の延長線上にあるのですから、ふだんの生活を大切にしてほしいです。という言葉を乾杯の言葉にさせていただきます」と直美氏は乾杯の音頭をとった。

特別審査委員・阿部 直美 氏による乾杯挨拶

審査員講評では、家政学部の高橋ひとみ教授と山口真由講師が講評以上に熱いメッセージを投げかけた。

左:髙橋ひとみ教授/右:山口真由講師

高橋教授は「家政学部で私が担当している調理学では、卵焼きを作る時に、なぜ固まるのかなど調理の基本を教えますが、それと同時に誰に作るのか、どういう味にするのかということが料理では大事です。それが記憶として食べた人の中に残り、引き継がれていくことが大切だからです。それができる1万人以上の中から選ばれた人がここに来たのですから、これからも料理を続けて自分の味を見つけてほしい」と、
山口講師は「身近な方への思いを込めた作品が多かったが、今回は『ジビエを知らない方へ』とか『妄想の彼氏彼女へ』とか、私たちが思いもしなかった発見がありました。野球の甲子園と違って誰でも参加できるので、1・2年生は来年も最優秀賞を狙って応募してほしい」とそれぞれエールを送った。

特別審査委員 阿部 了 氏による受賞者インタビュー

最後は、カメラマンでNHKの番組「サラメシ」で「お弁当ハンター」としても活躍する阿部了氏による受賞者インタビュー。最優秀賞の長谷さんから呼ばれる。「ふだんから料理をするの?」という質問に、「自分でちゃんと料理したのは初めて」という長谷さんは、「兄がいるのでふだんは男飯。自分でこういうのがいいなという意味も込めた」と話す。インタビューは、付き添いの保護者にも及び、「今度、(お母さんのお弁当の)写真撮りに行っていい?」などの発言に会場中が笑い声に包まれた。

受賞者インタビューの様子

誰かを想い、その気遣いをふんだんに詰め込む「お弁当」。ふだんは料理をあまりしなくても、お弁当甲子園へのチャレンジを通して、日常的にお弁当を作ってくれる人への感謝の気持ちも芽生える。そんな貴重な経験をした高校生たちが、これから「食」への関心をもって料理を続ければ、きっと大切な人の健康や笑顔を願って作る幸せの連鎖が広がるだろう。

 

第12回お弁当甲子園入賞者

【最優秀賞】
長谷 波奈(東京都・東洋英和女学院高等部3年)
【特別審査員賞】
磯﨑 柚那(茨城県・水戸女子高等学校2年)
阿部 咲也香(東京都・広尾学園高等学校1年)
【優秀賞】
大谷 拓人(福岡県立東筑高等学校1年)
島田 哲平(山形県・日本大学山形高等学校2年)
牧野 心汰(山梨県立上野原高等学校1年)
奥田 羊歩(群馬県立高崎女子高等学校1年)
 
【入選】
勝本 茉優(東京都・目黒日本大学高等学校1年)
府川 眞凛(福岡県立東筑高等学校1年)
山本 龍雅(福岡県立東筑高等学校1年)
木下 大悟(愛媛県立松山南高等学校1年)
安宅 夏音(広島市立美鈴が丘高等学校2年)
辻 莉央音(東京都・早稲田実業学校2年)
長谷川 仁康(東京都・早稲田実業学校2年)
木村 歩美(東京都・早稲田実業学校2年)
酒井 しい(愛知県立岩津高等学校1年)
三浦 羽泰(宮城県泉高等学校1年)
 
【佳作】
山崎 栞奈(山形県・日本大学山形高等学校2年)
安達 唯真(山形県・日本大学山形高等学校2年)
許斐 千鶴(神奈川県・慶應義塾湘南藤沢高等部1年)
清水 幹太郎(東京都・早稲田実業学校2年)
西山 太智(群馬県立沼田高等学校1年)
宮田 望花(神奈川県・三浦学苑高等学校1年)
柚木 麻央(東京都・かえつ有明高等学校2年)
覚張 優花(東京都・かえつ有明高等学校2年)
中野 茉莉衣(神奈川県・カリタス女子高等学校1年)
萩原 実和(群馬県立高崎女子高等学校1年)
松尾 来海(福岡県立小倉東高等学校2年)
黒岩 莉稀(群馬県立吾妻中央高等学校1年)
村中 みなみ(北海道・立命館慶祥高等学校2年)
酒井 菜穂里(静岡県・静岡雙葉高等学校1年)
齋藤 莉子(東京都立立川国際中等教育学校)
 
【文部科学大臣賞】
群馬県立高崎女子高等学校        
【学校賞】
東京都・早稲田実業学校       
福岡県立東筑高等学校        
愛知県立春日井高等学校        
【鎌倉女子大学賞】
埼玉県・本庄東高等学校        
東京都・目黒日本大学高等学校        
神奈川県・湘南学院高等学校        


鎌倉女子大学のホームページでは表彰式について掲載しております。
*受賞作品はこちらからご確認いただけます。