生命科学をテーマにしたシンポジウム(東京薬科大学主催)が10月20日、東京都内で開かれ、大隅良典先生(東京工業大学栄誉教授)が登壇し、これからの科学研究を担う若者にメッセージを送った。 (文・写真 野口涼)

おおすみ・よしのり 東京大学大学院理学系研究科理学博士。2014年5月から東京工業大学栄誉教授。母校は福岡高校(福岡)。

人と違うことをしたい

大隅先生は、細胞が自分のタンパク質を分解してリサイクルする「オートファジー(自食作用)」の仕組みを解明。2016年にノーベル医学生理学賞を受賞した。

当日は、「分子生物学を学ぼう」と考えて大学に入ってからの研究生活の歩みを振り返った。オートファジーの研究を始めたきっかけを「人と競争するのが好きではなく、人と違うことがしたかった。そのため、当時の研究者からそれほど興味を持たれていなかった酵母の液胞を研究することにしました」と説明した。

酵母の液胞に着目したことが、その後、タンパク質が分解する仕組みや意味、ひいてはオートファジーを解明することにつながった。

誰も注目してないことが重要

現在、オートファジーに関する研究が全世界で行われ、年間6000本もの論文が発表されているという。「私が研究を始めた当時は20本くらいでした。私たちが行った非常に基礎的な研究からこうしたフィールドが立ち上がったことを大変うれしく思います。それと同時に、科学では現在誰も注目していないことを始めるのがとても重要なのです」

科学の楽しさを「自分の疑問を解決できること、しばしば思いがけない展開をすること、新しい疑問がくめども尽きないこと」と話す。

最後に「役に立つことが無条件に大切」と考えがちな若い世代に向けて「社会の進歩、研究には長期的な視点を持つことも大切。『役に立つということ』の意味をもう一度考えてみてほしい」と基礎研究の大切さを訴えた。