環境問題やITの発達、自然災害といった科学ニュースは、高校生が社会に出る10年後、20年後の生活にまで影響を及ぼすものが多い。科学技術振興機構(JST)の情報サイト「サイエンスポータル」の内城喜貴編集長と植松利晃さんに、同サイトが今年報じたニュースから高校生に知っておいてほしい「10大ニュース」を選んでもらった。
(構成・安永美穂)

ノーベル医学生理学賞の大隅良典先生(左)、国際宇宙ステーションで、JAXA東京事務所と結んだ記者会見に臨む大西卓哉宇宙飛行士(右上=7月19日、NASAテレビから)、囲碁のプロ棋士(右)と対戦するAI「アルファ碁」の開発者(右下=3月15日、グーグル提供)

(1)地球温暖化 
新たな国際枠組み「パリ協定」発効、日本も批准(11月)

世界の温室効果ガス排出量を今世紀後半に実質ゼロにし、産業革命前からの気温上昇を2度未満、できれば1.5度に抑えるという目標を掲げた「パリ協定」が11月4日に発効。日本は米国や中国などに遅れて11月8日に批准手続きを完了させた。

10月24日には、2015年の二酸化炭素(CO2)の世界平均濃度が「危険水準」の400ppmになったことを世界気象機関が発表。国際的な地球温暖化対策は急務であり、世界第5位のCO2排出国である日本が果たすべき役割も大きい。

・日本も「パリ協定」を批准 CMA1はオブザーバー参加

(2)AI 
人工知能囲碁ソフトが世界トップ棋士に4勝1敗(3月)

人工知能(AI)囲碁ソフト「アルファ碁」が3月15日、世界トップクラスのプロ棋士に4勝1敗と大きく勝ち越した。アルファ碁には、コンピューターが自ら学習する「ディープラーニング(深層学習)」と呼ばれる新技術が導入されており、最先端のAIのレベルに世界が衝撃を受けた。

日本政府が1月に決めた第5期科学技術基本計画では、AIやロボットなどを駆使して快適に暮らす「超スマート社会」の実現を目指すことに言及した。社会でどう活用されるかを見据えた研究開発と、倫理面や法整備の議論が求められている。

・人工知能碁が世界トップに4勝1敗 人間棋士も健闘

(3)自然災害 
熊本県で震度7(4月)、鳥取県で震度6弱(10月)の地震発生

東日本大震災から5年の節目にあたる今年、4月14日に熊本県で震度7、10月21日に鳥取県で震度6弱の地震が発生。東日本大震災が「プレート境界型」の地震だったのに対し、熊本地震と鳥取地震は活断層が横に引っ張られる「横ずれ断層型」だった。

鳥取地震で動いた断層はこれまで知られていなかった断層であり、日本ではいつどこで地震が起きてもおかしくないことを印象づけた。日頃からの備えと、建物の耐震対策など減災のための取り組みが重要だ。

・熊本の大地震は横ずれ断層型 震源浅く揺れ大きく
   ・断層が南北10キロ横ずれして発生 鳥取の地震で政府の調査委

(4)物理学 
アインシュタインが予言した重力波を初観測(2月)

「アインシュタインが100年前に存在を予言した重力波の初観測に成功した」と、米大学を中心とする国際実験施設「LIGO(ライゴ)」の研究チームが2月12日に発表した。重力波とは、時空のゆがみが波の形で伝わる現象。ブラックホールの合体などでも生じるとされ、重力波が観測できれば天文学の発展にもつながる可能性が高い。

この研究チームには日本人も参加しており、岐阜県にある重力波望遠鏡「KAGRA(かぐら)」でも重力波の観測が試みられている。今後、さらなる国際的な観測ネットワークづくりが進みそうだ。

・アインシュタイン予言の重力波初観測 宇宙創成の謎解明に有力手掛かり

 (5)ノーベル賞 
大隅良典先生に医学生理学賞 「オートファジー」を解明(10月)

今年のノーベル医学生理学賞を東京工業大学栄誉教授の大隅良典先生が受賞。細胞内の不要なタンパク質などを分解する「自食作用」である「オートファジー」の仕組みを解明したことが評価された。

大隅先生は記者会見などで基礎科学の重要性を強調。すぐに成果を求められることが多い日本の現状では、長期的に見れば科学の発展につながるような新しい課題への挑戦が難しくなっていることを憂慮した。基礎研究と実社会に役立つ研究をバランスよく進めていくことが、日本の課題だといえるだろう。

・大隅良典氏にノーベル医学生理学賞 「オートファジー」を解明

(6)エネルギー問題 
日本のプルトニウム保有量47.9トンと発表 国内消費は進まず(7月)

内閣府は7月27日に開かれた原子力委員会で、日本の分離プルトニウム保有量が「2015年末現在で約47.9トン」と報告した。分離プルトニウムは、原子力発電所の使用済み核燃料を再処理することで生じ、原発で再び燃料として燃やす「核燃料サイクル」や、高速増殖炉「もんじゅ」(福井県)での利用が想定されていたが、対象の原発はほとんど稼働せず、「もんじゅ」は抜本見直しが進む。

日本政府は、核兵器の原料となりうるため、「余剰プルトニウムは保有しない」と国際公約している。今後、原発を推進する、しないにかかわらず、保有しているプルトニウムをどう処理するかは日本が直面する問題だ。

・日本のプルトニウム保有量47.9トン

(7)化学 
日本チームが発見した113番元素の名称が「ニホニウム」に決定(11月)

理化学研究所の研究チームが原子番号113番の新元素を発見したことが、2015年12月、国際的に認められ、今年11月30日には「ニホニウム」の名称が正式に決定した。アジアの研究者が新元素を発見して命名権を得るのは初めてで、元素の周期表に「日本発」の名前が記載されることとなる。

ニホニウムは、9年で約400兆回もの衝突実験を繰り返した成果が実を結んだ。日本は100年以上前に、新元素発見に成功したとしながらも認定されなかったという歴史があり、日本の科学界にとって「100年越しの悲願達成」となった。

・新元素名は「ニホニウム」に正式決定 国際学会
   ・原子番号113番の新元素名案は「ニホニウム」に 「100年の悲願」達成

(8)IT 
日本のスパコン「京(けい)」がビッグデータ解析で世界1位に(7月)

大量のデータを処理して役立つ情報を引き出すビッグデータ解析に関する性能ランキングで、日本のスーパーコンピューター「京(けい)」が1位になったことが、7月13日に発表された。

計算の速度を競うランキングでは中国の新型機が1位となったが、プログラムの総合力や記憶データを読み込む能力などが試されるビッグデータ解析に関する性能では「京」に軍配が上がり、日本のスパコンの実用性の高さを世界に示した。スパコンは科学技術力の指標の一つとされ、今後も各国間で開発競争が続くと予想される。

・日本の「京」がビッグデータ解析で1位 スパコン性能

(8)IT 
日本のスパコン「京(けい)」がビッグデータ解析で世界1位に(7月)

大量のデータを処理して役立つ情報を引き出すビッグデータ解析に関する性能ランキングで、日本のスーパーコンピューター「京(けい)」が1位になったことが、7月13日に発表された。

計算の速度を競うランキングでは中国の新型機が1位となったが、プログラムの総合力や記憶データを読み込む能力などが試されるビッグデータ解析に関する性能では「京」に軍配が上がり、日本のスパコンの実用性の高さを世界に示した。スパコンは科学技術力の指標の一つとされ、今後も各国間で開発競争が続くと予想される。

・日本の「京」がビッグデータ解析で1位 スパコン性能

 (9)宇宙 
大西卓哉・宇宙飛行士が国際宇宙ステーション(ISS)に滞在(7〜10月)

7月7日、大西卓哉・宇宙飛行士らを乗せたソユーズ宇宙船が打ち上げられた。大西さんは国際宇宙ステーション(ISS)に約4カ月間滞在。マウス12匹を無重力環境と人工的に重力を生じさせた環境とに分けて35日間飼育し、骨や筋肉が弱くなる老化現象を解明する実験に取り組んだ。10月23日には、食料や実験機器などを積んだ無人補給機をロボットアーム操作でキャッチすることに成功。10月30日に帰還した。

日本人の宇宙飛行は11人目、ISSの長期滞在は6人目となり、宇宙開発の分野でも日本は存在感を発揮しているといえるだろう。

・大西さん、4カ月の任務終え無事帰還 マウス実験や補給機キャッチで活躍

 (10)生命科学 
神戸大などが新しいゲノム編集の手法を開発(8月)

ゲノム編集は、「生命の設計図」である遺伝子を改変できる新しい技術として注目されている。従来のDNAを切る手法では想定外の塩基配列ができるなどのリスクがあったが、8月5日、神戸大学などの研究グループがDNAを切らずにより安全・確実に改変できる新たな手法を開発したことを公表した。

新たなゲノム編集技術は、植物などの品種改良のほか、病気の研究や薬の開発にも役立つと期待されているが、人間の生殖医療への応用については様々な議論がなされている。優れた技術をどう活かすかを考えることも今後の課題だ。

・DNAを切らずにゲノム編集 神戸大など安全・確実な新手法開発

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