全国高校総体(インターハイ)バレーボールの女子決勝が8月5日にサオリーナ(三重県津市)で行われ、下北沢成徳(東京)が金蘭会(大阪)を3-0で下し、2年ぶり3度目の優勝を果たした。(文・小野哲史、写真・幡原裕治)

金蘭会に勝つには…やれることは全てやった

今年の下北沢成徳の目の前には、必ずと言っていいほど、金蘭会が高い壁となって立ちふさがった。1月の全日本高校選手権(春高バレー)では準決勝で敗れた。雪辱を期した3月の全国私立高校選手権でも準決勝でストレート負け。この試合では第1セットで12点しか取れず、小川良樹監督によれば、「自信を失うぐらいこてんぱんに負けた。選手は1カ月ほど落ち込んでいました」というほどの惨敗だった。

巧みなトスさばきでアタッカー陣を操ったセッターの髙橋千穂

「インターハイではどうしたら勝てるか」。選手たち自身でひたすらに考え、今大会に向けてやれることはすべてやってきた。「走り込んで体力面からもう一回鍛え直しました」と野呂加南子(3年)が言えば、髙橋千穂(3年)は「高さがあるので、その持ち味を生かしたブロックを磨きつつ、今年はレシーブも頑張ろうと取り組んできました」と話す。リベロの依田茉衣子(3年)は個のレベルアップに力を注いだ。「たとえばサーブレシーブの練習だったらAパス(セッターが動かずにトスできるレシーブ)の効果率を上げるなど、1日ずつ目標を掲げて練習しました」

「どこまでやらせる…」強豪次々破る

とはいえ、練習と実戦は別物だ。果たして自分たちのバレーは通用するのか。金蘭会と対戦したら勝てるのか。確信を持てないままに迎えたインターハイ本番だったかもしれない。しかも3日から始まった決勝トーナメントは、2回戦の古川学園(宮城)を皮切りに、準々決勝で九州文化学園(長崎)、準決勝でディフェンディングチャンピオンの東九州龍谷(大分)といった優勝経験を持つ強豪校との対戦が続いた。小川監督も「一体どこまでやらせるのかという感じでした」と苦笑する。

もちろん下北沢成徳も全国屈指の名門であるがゆえ、対戦相手は常に一泡ふかせてやろうと果敢に挑んでくる。最初のセットが33―31という大接戦になった岡崎学園(愛知)との3回戦が良い例だろう。しかし、髙橋が「優勝するチームは苦しい試合を勝っていく」と言うように、厳しい試合や強豪との激戦をものにしていくたびにチームは勢いに乗り、選手も次第に「やれる」という手応えをつかんでいった。

チームの大黒柱として活躍した主将の石川真佑

決勝は総合力でストレート勝ち

金蘭会との決勝戦は大熱戦だった。下北沢成徳は1年次からレギュラーを務める主将の石川真佑(3年)を軸に、高さとパワーのバレーで春高王者に真っ向勝負を挑んだ。ただ、春先に比べれば、攻撃が石川一辺倒ではなくなった点がチームの進化を物語っている。セッターとして攻撃陣をうまくコントロールした高橋が言う。「今までは真佑に3枚の相手ブロックがつかれて苦しくなることが多かったのですが、仁井田(桃子)や大崎(琴未、ともに3年)など、ライトやセンターにも打てる選手がいたので、できるだけ相手ブロックを分散できるように意識してトスを上げました」

強化してきたブロックで金蘭会の攻撃を食い止めた。左から仁井田桃子、宮地佳乃

第1セットを25-23でもぎ取った後、第2セットは20-20から宮地佳乃(2年)のブロックなどで5連続得点。第3セットも14-15から野呂の3連続を含む、5連続得点で一気にペースをつかんだ。勝負所での高い集中力は、「打倒、金蘭会」という執念にも似た選手の強い思いが詰まっていた。

仁井田のスパイクで優勝を決めると、控え選手もコートになだれ込み、抱き合って喜びを爆発させた。石川は「自分たちの代で、仲間と優勝できたことは本当にうれしい」と笑顔で語った。ただ、これからは全国のライバルが「打倒、下北沢成徳」を掲げてくるに違いない。そのことを十分すぎるほどに理解している石川は「自分たちも負けないように、また一からチームを作り上げていきたいです」と気を引き締めた。

2年ぶり3回目の優勝を決めて喜ぶ下北沢成徳