ユーグレナ中央研究所(横浜市)のラボで

株式会社ユーグレナは、ミドリムシ(学名ユーグレナ)を使って、食料、エネルギー、温暖化といった地球規模の問題解決を目指すユニークな企業だ。ミドリムシを利用した機能性食品や化粧品の製造、販売を手掛ける。同社が力を入れているのが、航空機用のバイオジェット燃料の開発。この事業に携わる研究員、丸川祐佳さんに話を聞いた。
(構成・平野さゆみ、写真・幡原裕治)

 「ミドリムシ」は「ムシ」といっても、藻の一種だ。植物・動物両方の性質を持っているため、59種類もの栄養素が含まれ、近年注目されている。しかも、ミドリムシから抽出される油は非常に軽く、ジェット燃料の精製に適しているという。

 同社の研究所でバイオジェット燃料開発を目指して、同僚と共に実験に取り組む丸川さんは、事業の狙いを次のように話す。「化石燃料はいずれ枯渇します。従来のバイオ燃料はトウモロコシなどから生産されており、食料と競合してしまう。でも、ミドリムシなら競合しないと言われています」。同社では2018年までにミドリムシからバイオジェット燃料を作る技術を確立し、20年にその燃料で飛行機を飛ばすことを目標にしている。
 

会社の規模より「楽しく働けるか」

丸川さんは大学院修士課程在籍時の就職活動中、同社に関する新聞記事を偶然目にした。
 「藻類で世界を変えようとするなんて面白いと思って」入社試験を受けた。望んでいた藻類研究ができるとはいえ、入社当時の社員数は25人ほど。設立間もないベンチャー企業で働くことに迷いはなかったのだろうか。「大企業より、社員全員の顔が見えて、みんなで一つの目標に向かって頑張っていくような会社で働く方が楽しそうだと思ったんです。だから、企業の規模は気にしませんでした」

 研究は、各自が得意な分野を担当。外部の研究機関や企業と共同で研究をしている人もいる。得られたデータはメンバーで共有し、検討する。「5年後に実用化するためには、いつまでに何をする必要があるのかを考え、実験を計画しています」。生き物が相手だけに、実験が失敗することや期待した結果が得られないことも少なくない。「でも、実験を一回一回積み重ねると仮説が立てられて、直近の目標ができる。それがいいんです」

 ミドリムシに与える光や温度を細かく調節するなど試行錯誤しながら、うまくいかない原因を一つ一つ、つぶしていくそうだ。

日々新たな発見に出会える喜び

研究する上で心掛けているのは「思い込みを捨てること」。また、最新の学術論文にも目を通し、常に情報にアンテナを張る。「研究の8割は手間がかかることが多く、楽しいのは2割」と言うが、「結果が予想通りだとさらに気持ちがいいし、予想外ならまた別の展開になっていくから面白い。日々新たな発見がありますね」と笑う。

 ミドリムシからバイオジェット燃料を作るのは技術的に不可能ではない。課題は、いかにして既存のジェット燃料と同等の価格で安定的に供給できるようにするかだという。「壁はまだたくさんあります。でも、それは突破できるチャンスも同じだけあるということ。『目標は必ず達成できる』と信じて進むのみ、です」

丸川さんの歩み
中学時代 研究者に憧れ、「ノーベル賞を取る」と言っていた。
高校時代 フィギュアスケート部と生物部で活動。科学雑誌を読みながら、生物学が好きな自分をあらためて認識する。
大学時代 理学部で化学と生物学を学び、藻類の一つ「ミカヅキモ」の生殖を研究。実験の進め方など研究の基本を身に付ける。
大学院時代 東京大学大学院総合文化研究科で「シャジクモ」など藻類の研究に取り組む。
就職 修士課程修了後、2011年にユーグレナ入社。
高校生記者の取材に答える丸川さん

高校生記者から

丸川さんへのインタビューは、高校生記者3人が担当した。

●ユーグレナは、社員同士の連携やサポートがうまくいっているとのこと。将来、研究職に就きたい人には、比較的小規模なベンチャー企業はよい職場だと感じた。ミドリムシからとれる油がジェット機の燃料になるのが楽しみだ。
(林香織)

●丸川さんの「研究で楽しいのは2割」という言葉で、私が研究職に持っていたイメージは180度変わった。研究職もつらいことを仲間と乗り越えて一つの目標へと向かっているのだ。学校や他分野の会社と似ていると感じた。
(前田黎)

●研究室に入ってまず驚いたのは、研究職の男性がカジュアルな服装で顕微鏡をのぞいていたことだ。インタビューからも、ベンチャーならではの社員同士の物理的、精神的な距離の近さを感じた。大企業となっても創業時の理念や雰囲気が保たれることを願う。
(山本遥斗)

 企業データ
  創業者の出雲充氏が東京大学在学中にバングラデシュで栄養不足に苦しむ子どもたちの姿を目の当たりにし、それを解決する手段としてミドリムシに着目。「人と地球を健康にする」を経営理念に掲げ、2005年に設立。難しいとされていたミドリムシの食用屋外大量培養に世界で初めて成功した。
  東京都に本社、神奈川県と沖縄県に研究所を置き、ヘルスケア事業、エネルギー・環境事業を展開。12年東京証券取引所マザーズ上場、14年東証1部に市場変更。今年1月、経済産業省の第1回「日本ベンチャー大賞」(内閣総理大臣賞)を受賞。社員89人(14年9月)。
  広報担当の椋木直人さんによると、求める人材は「世界初の快挙にチャレンジしたい人」「責任を持って、誠実に仕事に取り組める人」「ユーグレナ(ミドリムシ)を活用して、一緒に世界を変えていきたい人」という。

 このコーナーでは、これまでにない事業で未来を切り開く注目企業を紹介します。そこで働く人の姿を、自分の将来を考える参考にしてみてください。