大学受験の模試に挑戦する人工知能(AI)を開発し、好成績を目指そう。大学、研究機関、企業の研究者たちがそんなプロジェクト「ロボットは東大に入れるか」を進めてきた。今年は、高校生の上位2割に入り、500大学以上で「A判定」という。AIはどう問題を解いたのか。AIに敗れた高校生の挽回策は…。(西健太郎)

535大学で「A判定」 勉強は暗記任せ?

研究者は科目ごとにチームを組んでAI「東ロボくん」を開発している。今年挑戦したのは、6月のセンター試験模試5教科7科目と東大模試3科目だ(表参照)。ただ、研究者たちの本当の目的は東大合格ではなく、模試を素材に「AIに何ができて何ができないのか」を明らかにして、産業応用の可能性や社会への影響を探ることだという。

とはいえ気になる成績は、センター模試の5教科7科目の合計525点(950点満点)で偏差値57。同じ型で受験した3年生ら12万人の上位2割ほどに入った。東大を受験できるレベルではないが、有名私大を含む国公私立535大学1373学部の入試方式で合格率80%の判定が出たという。

東ロボくんの受験勉強は暗記にものを言わせているようだ。例えば、センター模試の英語は「平叙文完成」など一つの文が素材の問題は得意だった。事前に19億の文を覚えて臨み、その知識から正答を導いたという。だが、複数の文から構成される「会話文完成」などは伸び悩んだ。自然な文の並びを理解するには500億文のデータが必要だが、現実的には難しいからだ。

世界史は、教科書、用語集などを丸暗記し、問題文中の固有名詞や年号に注目して解答。77点を挙げたが、キーワードだけに注目した解き方の限界も浮かんだ。「パスパ文字はチベット文字を元にフビライの命で作成された」と覚えていても、「チベット文字はフビライの命で作成された」という選択肢を正しいと判断してしまうといった具合だ。

論述式の東大模試でも、理系数学で偏差値76に達した一方、世界史で「魏の初代皇帝の父」を問われても「親子関係」の意味が分からず答えられない、というAIらしい誤答もあった。

高校生の8割敗れる 仕事を奪われないためには…

ただ、6月の模試とはいえ、高校生の8割がAIの成績を下回ったのはなぜか。プロジェクトリーダーの新井紀子・国立情報学研究所教授は、高校生の読解力に問題があると心配する。「中高生1万5000人に読解力のテストをしたところ、教科書の文章の意味を理解できていない人が多かった。文中のキーワードだけを手掛かりに答えて間違える人もいる。その間違え方はAIと同じです」

AIが人間の仕事を奪うとも言われるが、新井教授は「AIは暗記は得意でも意味理解はできない。人間が人間らしい意味理解をできれば、AIと差別化でき、仕事をとられることはない。でも、それができないと苦しむ可能性がある」。そんな危機感から、プロジェクトでは今後、中高生の読解力向上の取り組みを進める考えという。