臨まない妊娠や人工妊娠中絶……防ぐためには、避妊に対する正しい知識が必要だ。周知のために立ち上がったのは、男子高校生の宮浦琉伊(るい)さんと阿部龍斗さん(ともに宮崎・日南高校2年)だ。(文・野口涼、写真・学校提供)

「人工中絶率ワースト1位」に驚いて

全国の小学生から大人までが参加し、自由なテーマで統計グラフの作品を作る「第71回統計グラフ全国コンクール」(統計情報研究開発センター主催)の「パソコン統計グラフの部」で入選した宮浦さんと阿部さん。作品のテーマは、「人工中絶の実態とアフターピルの利用」だ。「同世代にアフターピル(緊急避妊薬)に関する正しい知識を持つことの重要性を伝えたい」という思いで制作し、関連する五つの統計資料をグラフ化し、説明文とともにレイアウトした。

探究活動の一環として作成した統計グラフが「統計グラフ全国コンクール」で入賞した

きっかけは、2人で統計グラフのテーマを探していたときに目にした新聞記事だ。「自分たちの住んでいる宮崎県の人工中絶率が、4年連続(平成29年度〜令和3年度)で全国ワースト1位だったんです」(宮浦さん)。「本当にびっくりしたし、そもそもなぜ人工中絶をする人がいるのだろうという疑問が湧きました」(阿部さん)

アフターピル「名前しか知らない」

「人工中絶を選択した理由」に関する調査結果を見ると、「未婚」の次に多かった答えは「予定外妊娠」だった。そこで2人は予定外妊娠を防ぐための効果的な方法として「アフターピル」に着目し、調べ始めた。

「自分も今回の調査を始めるまで、アフターピルについては名前を知っている程度でした」(宮浦さん)。「『アフター』と付いているので性行為の後に服用することは分かりましたが、72時間以内に服用しなければならないこと、服用までの時間が長くなるほど効果が薄れることなどは全く知りませんでした」(阿部さん)

作業は去年の夏休みに1日2〜4時間、2人でパソコン室で行った。

アフターピルを巡る状況の欧米などとの違いもわかってきた。「欧米などではアフターピルは薬局で気軽に買うことができますが、日本では病院を受診して処方箋を発行してもらわないと入手できません。また、欧米より価格が高いです。日本は遅れていると思い知らされました」(宮浦さん)

誤った知識を持つ生徒も

アフターピルの存在や使い方を知らなければ、確実な避妊はできない。そう考えた2人は、同じ高校の生徒95人を対象に、アフターピルの認知度に関するアンケートを実施した。「アンケートを実施したり統計グラフのポスターにしたりすることで、同世代の認知度を上げ、宮崎県の妊娠中絶実施率を下げることにつなげられればと思いました」(阿部さん)

宮浦さん(左)と阿部さん。保健の授業などでは、性についても真面目に話し合える雰囲気のクラスだという

アンケートでは、アフターピルを知っているかどうかを質問。「知っている」と答えた人を対象に、使用法や購入できる場所、値段に関する正しい知識を持っているかどうかの調査も◯☓方式で行った。「恥ずかしがる人もいるかもしれないと思ってGoogleフォームの匿名設定を使いましたが、茶化す人もおらず、みんな真面目に受け止め、回答してくれました」(阿部さん)

アンケートの結果、アフターピルについて知っている人は45.3%。「知っている」と答えた人の中にも、「性行為前に服用」「一週間以内であれば効果あり」「日本では薬局で買える」と回答している人もいて、誤った認識を持っている人が多いことがわかった。

避妊具の知識「義務教育で教えて」

男性がアフターピルの知識を得ることを「必要だと思う」という2人。阿部さんは「人工中絶は女性の心身へのダメージが大きい。男性も女性もお互いの体を思いやることが大切」と理由を語る。

「正しい知識を持っている人が少ないのは、日本では必要な性教育が行われていないからだと思います」と宮浦さんはいう。「自分も避妊の方法は、中学の保健の授業で『コンドーム』の名前を教わったくらい。コンドームやアフターピルをはじめとした避妊具を具体的にどう使うのかなど、正しい知識を義務教育で身につける必要があるのではないでしょうか」

コンクールでの受賞で、「ポスターを見たよ」と友達から声をかけられることが増えた。「アフターピルに関する正しい知識を得ることが、宮崎県をはじめ、全国の人工中絶率実施率を下げることにつながると思います」(阿部さん)