女性の受験生を別枠で選抜する「女子枠」入試を導入する理工系大学・学部が増えていることを受けて、山田進太郎D&I財団が3月7日、導入大学への調査結果を発表した。24年度入試では40大学あわせて約700人の女子枠が設けられているものの、少なくとも7校は「定員割れ」で、広報不足などの原因が考えられるという。(西健太郎)

導入意図は「優秀な女子を獲得」「ジェンダーバランス改善」

財団は24年度入試までに理工系学部で女子枠入試を導入したことが確認できた40大学(定員約700人)に対して1月に調査を依頼し、24大学から回答を得た。調査結果によると、導入目的は「学部の多様性と活性化」(87.5%)、「優秀な女子学生の獲得」(83.3%)、「学部のジェンダーバランス改善」(79.2%)などが多い。選抜方法は、学力を確認しながら意欲を重視する大学が多いという。

7校は「定員割れ」、広報不足か

回答校の大半が23年度入試以降の導入。20年度以前から導入していた大学からは、女子が男子よりよい就職状況だったり、女子の半数が大学院まで進学し研究面で貢献したりするなどの効果が聞かれたという。一方、24年度入試の出願状況について回答があった19大学のうち、出願人数が定員を下回った大学が7大学あった。財団では「高校への周知など広報不足などが課題」と分析している。

「逆差別」「レベル下がる」否定意見寄せられた大学も45%

女子枠導入にあたって学内外から「逆差別」「大学のレベルが下がる」といった否定的な意見が寄せられたという大学が45.5%を占めた。財団では「制度の目的や必要性を社会に明確に発信し、女子枠入学者のスティグマ(特定の人・集団への偏見)化を防ぐ対策が必要」と提言している。

「理工系は継続してキャリア築ける」生徒、保護者に訴え

山田進太郎D&I財団が3月7日に文部科学省で説明会を開き、調査結果を発表した

財団が7日に開いた報道向け説明会では、24年度入試から女子枠を導入した大分大学理工学部の信岡かおる准教授が登壇。定員を上回る出願があったとしたうえで「女子は母親に進路相談をすることが多いが、母は自分が経験していない理系に目が向きにくい。女子高校生や保護者には、理工系は継続してキャリアを築ける『一種の資格』と説明している」と話した。旭化成の取締役で九州大学理事の前田裕子さんは「製造業は女性を必死で増やそうとしているが、人数が少ないと採用できない」と話し理系に進む女性が増えることへの期待を語った。

文部科学省の平野博紀・大学入試室長は女子枠を含めて「キャンパスに多様性をもたらす入試は有効」としたうえで、導入の理由や入学後に発揮してほしい力を合理的に説明できることが必要、と指摘した。

山田進太郎D&I財団は、STEM(理系)に進む女性を増やすことなどを目的とした公益財団法人。女子生徒への奨学金事業などを手掛けている。

調査に協力した24大学

財団が実施した調査の回答大学は以下の通り。愛知工科大学、大分大学、大阪工業大学、神奈川工科大学、金沢大学、北見工業大学、熊本大学、高知工科大学、山陽小野田市立山口東京理科大学、芝浦工業大学、島根大学、大同大学、電気通信大学、東京工業大学、東京理科大学、東北工業大学、富山大学、名古屋大学、新潟工科大学、人間環境大学、兵庫県立大学(工学部)、福井工業大学、山梨大学、宮崎大学