ロボットや宇宙開発など『ものづくり』の分野に定評のある千葉工業大学が、2021年から始めたプロジェクト「高度技術者育成プログラム」が注目を集めている。その目標は、学部・学科を越えて集まった学生たち(3年次~4年次の2年間)が、「2030年度までの10年間で自分たちが作った人工衛星を最大9基打ち上げる」という壮大なものだ。同時にこのプロジェクトを通して、これからの社会に欠かせない人材を育成することが、大学の目指すゴールでもある。プログラムの責任者でもある同大学の研究員・秋山演亮先生に話を聞いた。

プログラムに参加している学生たちの活動の詳細を伝える特設サイトは2022年6月に公開開始された。

 

アポロ計画に関わった技術者と同等の「複雑さ」が必要になる

「高度技術者育成プログラム」は、人工衛星の設計・製造・運用プロジェクトを通じて、宇宙産業のみならず現代のあらゆる産業分野で求められているアーキテクトを育成することを目的としています。

アーキテクトとは、「さまざまな分野の複雑な技術・システムを組み合わせられる」システム人材の段階から一歩進み、加えて「総合的な視点を持ってアウトプットができる人」のことを意味します。自動車を例に挙げれば、かつては主に機械工学の技術があれば製造できましたが、現在はカーナビゲーションシステムにはGPSを搭載、自動運転システムにはAIを搭載というように、いくつもの複雑な技術・システムを組み合わせなければ完成させることができません。複雑化する「ものづくり」においては、人々を護り幸せにするアウトプットを見通し実現する、高度な専門性を持つ技術者の果たす役割がより重要になってきています。

宇宙工学の領域では、人類の未来を見通し、以前からさまざまな分野の高度技術者を集めたプロジェクトを実施してきたため、アーキテクトの育成に関しては一日の長があります。例えば、1960~70年代にNASAが宇宙船アポロによる月面着陸を目指したアポロ計画は、総勢およそ1万人の高度技術者の力を結集したプロジェクトでした。これは、古代エジプトのピラミッド建造時に見られたような、「ごく一握りの専門家の指示に多数の労働者が従う」といったプロジェクト管理のあり方とは対極に位置するものだといえます。

アポロ計画のようなマネジメントを行う場合、個々の技術者が現場で判断しなければならないことも数多く生じるため、技術者には専門性とともに決断力や判断力も求められるのです。

 

アーキテクトになるための近道とは…?

将来のニーズを見通し、決断力・判断力を身につけた高度な技術者になるには、プロジェクトに参加する経験を積むことが有効です。宇宙工学はさまざまな技術・システムを組み合わせる総合工学であるため、宇宙工学のプロジェクトに参加すれば、決断力・判断力を兼ね備えたアーキテクトとして活躍するための素養を身につけることができます。プロジェクトに参加し、仲間と協働する中で得られる知識・技術・マネジメント能力などは、将来どのような分野に進んだとしても活かすことができるでしょう。

昨年からスタートし、学部・学科を問わず3年生より参加可能な「高度技術者育成プログラム」はプロジェクト型教育の最たるものです。さらに千葉工業大学では、その前段階として1・2年生を対象とした缶サットを用いた教育プログラムを実施しています。

今年、このプログラムの1期生である今の4年生たちは、第1号となる人工衛星を打ち上げる予定です。10年間にわたって切れ目なくプロジェクトを実施することで、本学の学生・大学院生に技術とノウハウを蓄積すると同時に、教員側にも教育手法を蓄積していくことを目指します。

学内にある「高度技術者育成プログラム」参加者たちの拠点。廊下に面した壁はガラス張りで、ホワイトボード代わりに数式や計画などを書き連ねている。

高校生にも、うってつけのプロジェクトが

千葉工業大学が視野に入れているのは、こうした入学後のプログラムだけではありません。高校生を対象にした「ロケットガール&ボーイ養成講座」(千葉工業大学主催)では、さまざまな高校から集まった仲間と力を合わせながら、ハイブリッドロケットの設計・製作・打ち上げまでのすべてを自分たちで行います。

また、「宇宙甲子園」(千葉工業大学協賛)は、空き缶サイズの模擬人工衛星の製作・打ち上げを行う「缶サット甲子園」、ロケットの設計・製作・打ち上げを行う「ロケット甲子園」、成層圏で稼働する装置を自作・運用する「気球甲子園」、自ら考案・製作した機材で天体の計測を行う「天測甲子園」の4つの総称で、学校単位でチームを組んでそれぞれのプロジェクトに挑戦できます。

【ハイブリッドロケットを打ち上げ】ロケットガール&ボーイ養成講座【公式サイト】

【全国大会開催中!】缶サット甲子園【2021大会特設サイト】

これらのプロジェクトは、いずれも計画・実行・振り返りといったすべての段階で主体的に行動することが求められるのが特色です。自らアウトプットを考え、行動することにより身につくアーキテクトとしての素養や決断力・判断力は、参加者の皆さんにとって大きな糧となることでしょう。宇宙産業をはじめ、世界のさまざまな産業の最前線で力を発揮できる技術者になりたいという夢を持つ学生の皆さんを、千葉工業大学はこれらのプログラムを通じて支援していきます。

 
秋山 演亮先生
千葉工業大学惑星探査研究センター 主席研究員。

東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程単位取得退学。博士(理学)。惑星探査において必要となるリモートセンシング技術に関する研究に参加し、「はやぶさ」や「かぐや」の理学メンバーとして活動。その後、自身が関わってきた探査計画を続けていくために不可欠な人材の育成や、探査計画そのものを立案し認めていくための宇宙政策の重要性を感じ、教育や計画の規格・立案などを実施。国内外でのロケットの打上や成層圏気球実験を通じた教育手法の研究や、国際的な連携による衛星・地上局の運用などに係わりながら、海外との連携による新しい宇宙開発を進めている。千葉工業大学と同時に和歌山大学クロスカル教育機構でも教授として教鞭を執るほか、内閣府の宇宙開発戦略推進事務局宇宙政策委員会専門委員も務める。

【参加学生の紹介も】「高度技術者育成プログラム」特設サイト 

提供:千葉工業大学