私たちが暮らしている町や利用している鉄道や道路は、国や自治体などの計画に基づいて整備されています。より便利で快適になるなら喜ばしいことですが、時には「その整備は本当に必要なの?」といった議論が起こることも。そこで、都市計画や交通計画の「効果」を評価している千葉工業大学創造工学部都市環境工学科の佐藤徹治教授にお話を伺いました。
「効果」と「費用」のどちらが大きいか
佐藤先生は、新たな鉄道や道路などの整備を計画する際、それを実施する必要性や効果がどれくらいあるのかを、経済学や統計学の手法を使って分析している。「整備費用の財源は私たちが払う運賃と税金ですから、国民が納得する形で整備が行われなければなりません。そこで、整備によって国民や利用者が得られる効果=便益を金銭換算し、数値化します。これを整備や維持管理にかかる費用と比べ、どちらが大きいかを見ていきます」
国は公共事業を計画する際、こうした評価を行うよう定めており、評価マニュアルもあるそうだ。例えば道路なら、交通安全性が高まる、渋滞が緩和され目的地に早く着くといった効果を評価項目としている。しかし佐藤先生は、今の社会の実態に即した評価を行うためには、環境が改善する、高齢者や障害者など誰もが公平に移動できるようになるといった、マニュアルに書かれていない効果も評価していくべきだと話す。
「そうした効果があることを、どうやって検証するのですか?」と中澤さん。「まず、『道路を作ったらこんな効果があるだろう』と仮説を立てるんです。渋滞が緩和されれば排気ガスが減り、環境がよくなる。利用者のストレスも減る。緊急車両も通行しやすくなり、安全・安心に暮らせる。すると、住みよい街と評価され、地価も上がる…といったように。その上で、過去の統計やアンケート調査で得たデータに基づき、仮説が正しいか検証していきます。さまざまな効果を、説得力のある形で費用と比較できるようにするのが目標です」
実際の整備計画の効果を評価
研究室では、実際に国内で進められている整備計画などを評価している。その1つが、栃木県宇都宮市が行っているLRT(新型路面電車)整備事業だ。
LRTは、バスより輸送力が大きい、床が低く車椅子でもスムーズに乗降できる、専用レールを走るため遅延が生じにくいなどの利点がある。近年は高齢化や人口減少で税収が減り、既存の交通インフラの維持管理が困難な自治体が増えている。そこで新たな公共交通を整備し、周辺に住民に住んでもらい、都市のコンパクト化を図るとともに新たな人の流れを作り、経済効果を生み出そうというのだ。研究室で検証した結果、LRT駅にアクセスするバスを整備すれば沿線人口が増えることが予測された。一方、整備計画の中には期待されているほどの効果はないと評価したものもあるそうだ。
「都市計画や交通計画は、国民と一緒に考えていくものでもあります。だから皆さんも、『この町がもっとこうなったらいいな』と考えてみてほしいですね。それが、よりよいまちづくり、国 づくりにつながると思います」
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【取材を終えて】 中澤 彩恵さん(埼玉・青山学院大学系属浦和ルーテル学院高等学校2年)
- 私たちの生活と密接な関わりを持つ都市開発は沢山の計算と予測のもとで行われていると学びました。環境に与える影響や、お年寄りの方や障がいを持つ方への配慮など、多角的な方向から評価していて調査の奥深さを感じました。「都市開発はみんなで考えて行うもの」と教わったので私たち高校生も難しそうと思わずに、関心を持っていたいと思いました。
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