現在普及しているコンピュータは、キーボードで指示を入力したり、言葉で指示を出したりしないと動いてくれません。そんな操作をしなくても動いてくれるコンピュータがあれば便利ですよね。そこで、さりげなく人間をサポートする情報システムの開発に取り組む、千葉工業大学情報科学部情報工学科の今井順一教授にお話を伺いました。

今井順一教授

人間がやりたいことを推定するシステム

人間が指示を出さなくても、コンピュータのほうから人間の表情や行動を読み取り、「あなたは今、こんなことがしたいのではないですか?」と推定し、「それなら、こうすればいいですよ」と必要な情報や手順を教えてくれる…そんな、「気の利くコンピュータやロボット」の開発が、今井先生の研究室の目標だ。

「ただし、実現するにはまだ多くの課題があります。その人が何をしたいのかを推定するためには、まずその人が今何を見ているのか、見ていないのかを推定できることが必要です。そこで現在は、コンピュータと連動したカメラで人間の顔の向きを観察し、視線の方向を分析するシステムを開発しています」。

試しに福元さんが今井先生のほうを向くと、モニター上に映し出された先生の顔に色がつく。コンピュータが、「福元さんは先生の顔を見ている」と推定した結果だ。先生の背後にある壁に顔を向けると、今度はモニター上の壁に色がつく。

「将来的には、天井につけたプロジェクターから、その人が視線を向けた場所に自在に情報を投影できるようにしようと考えています」という今井先生。このシステムを自動車内に設置すれば、運転中のドライバーが見ている場所に必要な情報を常に提示できる。また、視線を向けなかった場所も記録されるため、物を探す時に「まだこの場所を探していませんよ」と教えてくれたりもする。実現すれば多様な使い道がありそうだ。

人間の感情をコンピュータに教える

コンピュータのほうから人間に働きかける際には、人間が親しみやすい行動をとってくれることも大切だ。今井先生の研究室ではコンピュータやロボットの「表情」に着目し、どんな表情をすると人間がどんな感情を抱くかを調べている。

「実は、コンピュータがうれしい、悲しいという単純な表情だけでなく、喜んでいるとも悲しんでいるともとれるあいまいな表情をすると、人間は『コンピュータが自分に共感してくれたんだ』と解釈することがわかりました。こうしたことをうまく使えば、コンピュータと人間とのよりよいコミュニケーションが実現できると思います」。そこで、具体的にどういう表情をあいまいと感じるか、こういう場面でこういう表情を見せられたらどう感じるかを人から聞きとり、データ化している。いわば、人間の複雑な感情を数値化し、コンピュータに教えているのだ。

「コンピュータと人間が共生するためには、コンピュータに人間のことを知ってもらうことが不可欠です。囲碁や将棋のように論理で推論するのが得意なコンピュータに、人間の感情のようなあいまいなものを教えるのは難しいのですが、その分やりがいも大きい。人間が困っている時にさりげなく手をさしのべるコンピュータやロボットの開発を目指し、研究を加速させていきます」。

【取材を終えて】福元まりあさん(埼玉県・浦和ルーテル学院高等学校・3年)

 
  私たちの生活をサポートしてくれる、人間と共生できる知能システムを開発するためにはまず、「人間のことを知ること」が第一歩。基本に立ち返ることの大切さに気付かされました。今後、日常生活に知能システムが当たり前に入り込むことが予想されているなかで、未来の生活のあり方を少し垣間見たようで、とても興味深く感じた取材でした。

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