審査員特別賞

僕を本気にさせたもの

富田学園 富田高等学校  1年 小澤 伸也

 

「上の人」、この言葉を聞かなかったら国際ボランティアとして働きたいという僕の夢は夢のままで終わっていただろう。

僕は昨年の夏、地元の教育委員会が行っている海外派遣事業に参加しカンボジアを訪れた。7 日間という限られた時間の中で分刻みのスケジュールで研修を行ったが、次々と現れる衝撃的な出来事が瞬く間に僕の心の中を埋め尽くしていった。しかし、そんな中でも今も尚、僕の記憶に鮮明に残っているのが「水上生活者」のお宅を訪問した研修の時のことだ。まずはじめに、あなたは「水上生活」という言葉に対してどのようなイメージをもっただろうか。僕は最初にこの言葉を聞いた時とても優雅でお洒落なイメージをもった。しかし現実は僕の浅はかな考えの基で浮かんだそんな単純なイメージとは真逆だった。開発途上国における水上生活とはお金がないために陸上に家を建てることができず仕方なく土地代がかからない水上に家を建てて生活している人のことを示しているのだ。そして、これらのことを渡航前の事前研修の時点で知ったため現地では実際に水上生活者が暮らしている湖に伺う道中、自分の中での強い覚悟をもっていた。しかし現地に到着するとそこには自分が想像していた以上に「水上生活者の現実」が広がっていた。ある一人の男性は湖に向けて放尿をしている。ある三人の子供たちは湖の水で水遊びをしている。そしてまたある一人の女性は湖の水で食器洗いをしている。これらは全て同じ一つの湖の中で同時に行われていることである。あなたはこの現実を受け入れられるだろうか。僕は本当に自分の目を疑ったがこれは紛れもない事実だ。しかし更なる衝撃がこの後現れた。それは水上生活者のお宅に実際にお邪魔してそこのお宅の方からお話を聞いている時のこと、会話の途中で突然「上の人」という表現がその方の口から出てきたのだ。僕は最初その言葉の意味が理解できなかった。しかししばらくお話を聞いていくうちに「上の人」という言葉の「上」は陸上のことを示していて「上の人」という言葉は陸上で生活している人のことを示しているのだと分かった。僕はこの言葉の意味を理解した時本当の「貧富の差」を実感した。たくさんの人の話や新聞の記事、テレビニュースなどから貧富の差があることは知っていた。しかしそれは貧富の差という言葉を聞いてその現状の全てを知ったつもりになっていただけだったのだ。僕はこの研修で初めて貧富の差という言葉の真意を理解した。

そしてこの言葉は僕を本気にさせた。それまで国際ボランティアとして働きたいという僕の夢はぼんやりとしたものだった。しかしこの時からぼんやりとしたこの夢は明確な目標となった。更にこの言葉は僕の進路をも変えた。当時中3 で高校入試を控えていた。それまでは普通科への進学を希望していたが国際ボランティアとして働きたいという夢が明確な目標になった後、目標を達成するための第一歩として国際語である英語を詳しく学びたいという想いが強くなり僕は英語を中心に勉強できる国際科という学科への進学を決めた。部活動は国際的なボランティア活動を行う部に所属し、先日はバングラデシュの孤児へ向けての募金活動を行った。年度末には卒業生の不要になった靴を集めコートジボワールの子供たちへ送り届ける活動も行う予定だ。こうして僕は今国際ボランティア隊員になるために着実に一歩を踏み出した。僕は本気だ。僕を本気にさせたあの経験を支えてくださった周囲の人々に感謝してこれからも一歩ずつ進んでいきたい。必ず国際ボランティア隊員となってもう一度カンボジアの地へ戻ってくるために。そして貧困や飢餓などの分野で働き、少しでも貧富の差の解消に貢献するために。

 

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