震災後関心が高まる「共創型マーケティング」とは

マーケティングとは、売れる仕組みづくりのこと。これまでは企業側からの一方向的な視点で語られることが多かったのですが、最近では企業と消費者などが共に創り出す「共創型マーケティング」が注目され始めています。そこで東日本大震災以降、関心が高まっている社会貢献の共創型マーケティングとはどのようなものか、マーケティング戦略などを専門とする浦野先生に、ゼミナールでの実践内容を例にとってお話をうかがいました。

みなさんは普段、洋服をどこで買いますか? 百貨店は利用しますか?

浦野先生の専門分野のひとつ、「消費者行動」の研究では、こうした購買のプロセスなどについての調査や分析もします。あるとき、授業中にこの質問を200人ほどの学生に投げかけたところ、百貨店で買うと手を挙げたのは2人だけ。ユニクロをはじめとするファストファッションのショップに行ったり、ネットショッピングしたりという学生が大半でした。

その実態に驚いた浦野先生は、知り合いである大丸東京店の店長に連絡。「大学生が考える魅力的な百貨店とは?」を主なテーマに、浦野ゼミの学生と大丸東京店が共同で百貨店のマーケティング戦略を考えるという構想が持ち上がりました。そして、初めての顔合わせが行われたのが2011年3月11日。東日本大震災が起こった日でした。

東北出身のゼミ生もいたことから、被災地の復興を支援するプロジェクトを行いたいという声が上がり、大丸東京店にテーマの変更を提案。大丸側もそれを受け入れ、新たに「協働共創の社会型マーケティング」というテーマで、立正大学と大丸東京店による産学連携プロジェクトがスタートすることになったのです。

このプロジェクトは4月から本格的に始動し、浦野ゼミの3年生18人が担当することになりました。NPOやボランティア団体などと一緒ではなく、企業と共に被災地復興支援を行ううえでは、「社会貢献と収益性の両立」がポイント。このような社会的課題の解決と実利との両立を目指すマーケティング手法のことを、コーズ・リレーテッド・マーケティング(以下CRM)と言います。ゼミ生たちはまずCRMの理論を勉強したり、先行事例を研究したりすることから始めました。

彼らは6人ずつの3グループに分かれ、3カ月ほどかけて日本や世界におけるCRMの先行事例を集めて中間発表。たとえば、ブックオフでは開発途上国の子どもたちに本を読める環境を届けるプロジェクトを実施。買取総数量に応じ、NGOを通じて途上国の図書館建設の費用にするというもので、これによってブックオフは企業ブランドイメージを向上させることができました。

そうしたCRMに関する基礎的な勉強を経て、大丸東京店で実際に行うことを想定したプロジェクトの企画づくりをグループごとで行いました。ゼミ生たちは頻繁に集まって話し合い、そして11月、最終発表として、大丸東京店の店長はじめ10人ほどの社員同席のもと、3グループがそれぞれプレゼンをしたのです。その結果、「ご当地缶詰フェアの開催と非常食用オリジナル缶詰の製作販売」という企画が採用されました。震災時にモノ不足を経験したことから発案したもので、実現可能性の観点からも評価が高かったそうです。

この企画に決まってからは、ゼミ生18人と大丸東京店の社員が共同で商品開発や宣伝などに取り組みました。オリジナル商品は備蓄用の「パンの缶詰」に決まり、パッケージデザインはゼミ生が考えたものが採用されました。また宣伝活動では、新聞やテレビといった取材に対応したほか、ブログやツイッター、フェイスブックなども積極的に活用。そして、浦野ゼミの学生たちと大丸東京店が1年間かけて取り組んできたプロジェクトの集大成となる「全国ご当地缶詰フェア」は2012年3月2~4日に大丸東京店で開催されました。 ゼミ生たちも店頭に立って販売し、各日300個用意した「パンの缶詰」はすべて売り切れ。また、東北の缶詰を中心に扱ったフェアは好評で、東北の復興支援にもつながったのです。

このプロジェクトを通じて、ゼミ生たちに変化が現れているとのこと。浦野先生は「これまで以上に、自らの頭で考え、自発的に行動するようになりました。さらに、大丸東京店の皆様の指導のおかげで、実現の可能性を見極める感覚も身についたように思います」と話し、彼らの成長を温かく見守っています。

今回の売り上げの一部は被災した石巻市の缶詰会社に寄付され、今後、新製品開発に活用される予定です。ゼミ生たちはその缶詰会社との交流も深めており、共創型マーケティングにおいては、さまざまな人との出会いも生まれる可能性が大いにあるでしょう。

 Close Up 浦野ゼミ コミュニケーション力が向上し、就職活動でも有利

2010年にスタートした浦野ゼミは現在、2~4年生の53人が在籍。「マーケティング戦略」や「消費者行動」などをベースに研究を行っています。グループディスカッションを特に重視し、「聞く」「伝える」といったコミュニケーション能力が高まっていきます。そうして培った力は就職活動でも生かされ、ゼミ生たちは広告代理店などの志望する企業から内定を得ているそうです。「どの学生も次第に、自分の意見を自分の言葉で言えるようになりますね」と浦野先生。

経営学部 浦野寛子講師

熊本県出身。鉄道会社勤務を経て慶應義塾大学大学院経営管理研究科博士課程修了、博士(経営学)。2010年より現職。済々黌高校時代はチアリーダーとして活躍するとともに、文学少女でもあった。高校生へのオススメ作品は『三国志』。「個性豊かな登場人物たちが三国志の魅力です。人間関係構築力を学ぶこともできますよ。」