松村吉信教授「異臭タオルに吸着していた微生物集団の解析」

[関西大学 化学生命工学部 生命・生物工学科 松村吉信教授]

「微生物」は
地球環境問題の救世主?!

「微生物」と聞いて何を思い浮かべるだろうか。微生物は、顕微鏡を通してしか見ることができない小さな生物で、土や水、草の表面、動物の体内など地球上のあらゆる場所に住んでいる。細菌や菌類、微細藻類などが含まれ、実は私たちが生きていく上でなくてはならない存在なのである。

そんな微生物について研究しているのが関西大学の「微生物制御工学研究室」だ。化学生命工学部 生命・生物工学科の松村吉信教授は、「微生物の持つ機能を活用する技術(バイオテクノロジー)は、日本酒や醤油、納豆、味噌などの発酵食品をはじめ、農業、医薬品や洗剤といった日用品など幅広い産業で利用されている」と言う。

研究室には現在、社会人研究員や大学院生、学部生合わせて11人が在籍している。彼らが今、特に力を入れているのが、環境保全のために微生物を活用する技術の開発だ。微生物の持つ“環境浄化”の能力を発掘し、その力をコントロールしながら活用するための研究である。

私たちが暮らす人間社会は、科学技術を駆使し、より快適な生活を求めて発展してきたが、一方、大量生産・大量消費の過程で地球上に存在しなかった新しい化合物を合成し、たくさんの資源を浪費してきた。こうして浮上した地球環境汚染の広がりは、今や人類共通の大きな課題だが、そこで注目されているのが、汚染物質を分解する力を持つ微生物の活用である。環境汚染を修復する能力を持つ有用の微生物を効果的に利用することで、地球の生態系の維持に役立つと考えられている。

他方、多くの微生物は人間社会の中で増殖すると感染症や食中毒、悪臭などの原因にもつながり、必ずしも良い面ばかりではない。研究室では、環境にやさしい殺菌・滅菌・除菌システムの構築も試みている。

家電メーカーなど企業と提携し、歯周病や水回りのヌメリ、悪臭などの原因とされる「バイオフィルム」の形成過程の解析や除去・洗浄法の開発にも力を入れている。それぞれの興味・関心に応じた研究に加え、企業の商品開発に協力することで社会に役立つ研究の意義を体感できるのも、大きな特徴の一つだ。

まだ見ぬ微生物との
新たな出会いを求めて

「生物の研究はまだ新しい分野で発展途上にある」と言う松村教授。教科書に書かれていることが必ずしも正しいとは限らないし、机上で学んだ知識と異なる研究結果が出ることもある。松村教授は「一筋縄ではいかない微生物の研究は簡単ではありませんが、まだ誰も知らない微生物や有用な活用方法を探り当てるチャンスが広がっている」と語る。

研究の成果は、研究室内で共有するだけでなく、学術誌や学会などで公開しているほか、日本生物工学会や日本農芸化学会、日本防菌防黴(ぼうばい)学会などで発表する機会もある。

また、同研究室では、細胞を観察するための顕微鏡、遺伝子操作やタンパク質の解析、微生物の培養をするための装置・次世代シーケンサーなど最先端の設備がそろっており、それらの使い方を習得しながら研究を進められるのも魅力の一つ。研究室で所有する装置だけでなく学科や他の研究室の装置も共有でき、多様な専門領域の教員とともに、興味・関心に応じて研究の範囲を広げていけるのも関西大学ならではの特徴と言える。

 先輩に聞く
関西大学大学院 博士課程前期課程(修士課程)
理工学研究科 化学生命工学専攻 生命・生物工学分野
高 未麗(コウ・ミリヨ)さん
 幼い頃から生き物が好きで、誕生日に魚の図鑑をプレゼントしてもらって喜んでいたのを覚えています。興味のあった生物についてもっと深く学びたくて、生命科学の学部がある関西大学を選びました。大学院に進学したのは、社会に出る前により専門的な知識や経験を習得し、成果を残したいと思ったからです。
 現在、汚染された環境から汚染物を取り除き、元の環境に戻す「環境浄化」について研究しています。環境汚染物質を分解・除去できる微生物を土壌や河川などの生態系から探し出し、その性質や遺伝子をパソコンで解析しています。研究室ではこれまでに多数の環境汚染物資の分解菌を探し出すことに成功していますが、目に見えないものを扱う研究に、最初は少し戸惑いがありました。でも今は、装置の扱い方や解析の仕方などにも慣れ、微生物と向き合いながら実験ができるようになりました。当面の目標は環境汚染物質分解菌の遺伝子情報を明らかにすることです。
 大学院修了後は、これまで学んできた研究手法などの知見を生かして企業の研究員として働きたいと考えています。

 

 

 

 

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