お台場海浜公園の水質を調査する
2020年に開催される東京オリンピックでトライアスロンの会場となるお台場海浜公園。近未来的な光景が魅力的なエリアだが、問題はスイム競技を行う東京湾の水質だ。大腸菌の数値は国際トライアスロン連合による水質推奨基準の実に100倍超。オリンピック開催までに解決しなければならない大きな課題のひとつとなっている。
「原因は古いシステムの下水道。雨が降った際に、し尿などを含む生活排水が未処理のまま海に排出されることがあり、そこに大量の大腸菌が存在しているのです」と説明するのは千葉工業大学 創造工学部 都市環境工学科准教授の亀田豊先生だ。対策を検討するため、東京湾の水質を継続的にモニタリングしている。
「先日も学生と一緒にお台場の海水を採取し、研究室に持ち帰って大腸菌の数を分析しました。難しいのは降雨の状況などにより、濃度が著しく変化すること。朝は推奨基準以下だった大腸菌の数が、午後には推奨基準の100倍以上になっていることもあります。結果が出るまで24時間かかる現在の調査方法では、競技のときに意味をなさないのです」
このため、現場で簡単に大腸菌の数を測定する方法の確立を目指して、現在研究を進めている。「大腸菌の数と相関関係のある物質のうちTOC(有機物)であれば短時間で測定が可能であることがわかりました。現在は確認試験中で、東京オリンピックの開催に間に合うように実用化できればと考えています」
さらに研究室では、大量のサンプルを採取しなくても水中の汚染物質を検出できる機器「パッシブサンプラー」や、汚染物質や菌の存在を、家庭で簡単に測定できるサンプラーの開発も行っている。
「これらのサンプラーはフィルターを変えることで、さまざまな物質・菌を検出できます」と亀田先生。「これを応用してお台場の海に流れ込む大腸菌の発生箇所を絞ることができれば、コストパフォーマンスの高い対策が可能になるかもしれません。それが私たちの研究の醍醐味なのです」
都市環境の利便性と生態系の保全を両立させる
都市計画や土木などを対象にした学問を学ぶ都市環境工学科。建物を作ったり図面を引いたりするイメージが強く、下水・浄水の処理や、廃棄物のリサイクルなどに関わる「衛生工学」もその一分野であることはあまり知られていないのではないだろうか。
「私たち人間は快適で健康な生活を送るためにさまざまな物質を作ってきました。一方で、これらの化学物質には使用後に環境や生態系を脅かすリスクがある。衛生工学とは、廃棄物・製品を社会や自然界に安全に戻すための学問。生物や化学の知識・方法が必要な点でも都市環境学科の中では異色といえるかもしれません」
ただし、東京湾の水質改善を例にとっても、水質測定方法の確立から実際の測定、リスク評価(人の健康に与える影響について評価を行うこと)、リスク対策の検討までが学問の対象となる点で、純粋な生物・化学とも大きく異なる。「0か100かではなく、都市生活の利便性と生態系の保全の両立を目指すのが衛生工学といえるかもしれません」
サンゴの白化やミツバチの激減も研究対象
研究室では現在、お台場海浜公園の大腸菌の他にも「沖縄のサンゴの白化」「北半球のミツバチの激減」といった現象について、それぞれの要因ではないかと考えられる化学物質のモニタリングを継続している。
「社会的なトピックスになっている問題、なりそうな問題をいち早く察知し、原因となりそうな物質を測定。現状を把握し、対策を検討するようにしています」と話す亀田先生。最後に地球環境の保護を志す多くの高校生にメッセージをくれた。 「これからは『環境化学』や『衛生工学』に、異常気象等の不確実性を組み込んだ新しい科学技術や研究概念が必要になっていきます。地球環境保全に興味のある学生には、これほど未来に必要不可欠で誇りの持てる分野はないでしょう。4年後のオリンピックにも環境保全を通じて貢献できる、やりがいのある学問だと思います」
お話を聞いた先生!
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