自治医科大学 医学部医学科 阿江竜介(あえ りゅうすけ)助教
一定期間、地域医療に従事し学費が無料になるシステム
「医学部は学費が高い」 そう思って医学部進学を諦めている人はいないだろうか? 志のある医師を育成すべく、学費の心配をさせずに全国の優秀な人材に門戸を開く大学がある。それが自治医科大学だ。
同学医学部には、入学者全員に入学金等納付金をすべて貸与する修学資金貸与制度がある。入学試験のうち第一次試験は都道府県毎に実施され、卒業後は第一次試験受験地にて都道府県知事が指定する公立病院等で、一定期間医師として勤務することで貸与金の返還を免除される。
この期間を義務年限と呼び、地域医療に従事するが、そのうち4~5年はへき地勤務が課される。へき地というと敬遠する人もいるかもしれないが、義務年限を経て同学に勤務する阿江先生は「へき地は医師をステキにする」と力強く語る。
へき地医療で求められる総合医として「何でも診る」姿勢
「へき地医療は社会のリーダーを作ります。少子高齢化の中で、これまで診療所や病院が単独で行ってきたことも、行政や地域に呼びかけ、大きな“面”で活動しなければいけない。へき地の医師は、そのように社会をマネジメントする立場にあるからです」 その基盤となるのが、即戦力の総合医を育成する同学の教育だ。それを「何でも診ましょう科」と阿江先生は呼ぶ。
「これは私が勝手に呼んでいます(笑)。へき地では、我々が診なければ、患者さんは遠くの病院に行かなければいけない。そのため、技術以上に『何でも診る』という姿勢が大切なんです。たとえば、機内でドクターコールがあればすぐに立つとか、自分が手術できない病気でも、適切に処置して別の医師につなげるとか。それができるのが本学の卒業生です」
その例として挙げられたのが、2011年米国タイム誌の「世界で最も影響力のある100人」に選ばれた菅野武医師だ。
「彼は私の後輩。東日本大震災時、宮城県の志津川病院に勤務していました。津波を逃れて、病院の最上階に患者を移し、助けが来るまで3日間、逃げずに診療を続けたことが評価されたんですね。でも、彼は『自治医大の卒業生なら、誰でも同じことをした』と言っています」
医師を目指す高校生には、こんなアドバイスをくれた。
「高校時代からボランティアなど社会参加をすることで、医師として、広い視野で社会貢献できる素地が作れます。また、クラブ活動などを通じてチームワークを身につけること。医療現場ではチームワークが求められるからです。学生にはいつも『一緒にやりましょう=Shall we dance?の姿勢でいけ』と言っています(笑)」
先輩に聞く
中村 諒さん 医学部医学科5年(和歌山・県立桐蔭高等学校出身)
加茂尚永さん 医学部医学科5年(千葉・私立昭和学院秀英高等学校出身)
-自治医科大学の魅力は?
加茂:自身の出身地で地域医療に貢献することを条件に学費が免除されること。また、高齢化が進む日本で必要とされるプライマリケアや在宅医療などについて考える機会が多いカリキュラムとなっていて、総合医としての教育がしっかりしていることが魅力です。
中村:即戦力の総合医を育てるために、1年次から専門的な医学を学べ、病棟実習も多いこと。6年間は長いと思っていましたが、カリキュラムが充実しているので、あっという間ですね
-全寮制ということですが?
中村:同じ目的の仲間が全学年揃って生活するので、縦のつながりも強く刺激を受けます。加茂:大学の敷地内なので、特に女子の親は安心みたいです。悩み事も、ドアを開ければすぐに友人に相談できて助かっています。
-印象的な学びは?
中村:「臨床推論」では、目の前に患者さんがいるつもりで病気を診断するのですが、症状を考え適切な問診を選択し、鑑別診断を絞り込むのが楽しいです。
加茂:夏季研修で地元の医療機関に行ったこと。患者さんの名前を聞けば病態がわかるなど、へき地医療には狭いコミュニティだからこその良さがあると再認識できました。
-高校生にメッセージを。
中村:勉強ばかりだと視野が狭くなるので、部活など勉強以外のことにも取り組むこと。その方が勉強にも打ち込めますよ。
加茂:自分の能力で医学部についていけるか不安でしたが、意外に順応できるもの。とりあえず飛び込んでみることです。