応募総数15,781作品が寄せられた國學院大學・高校生新聞社主催『第29回全国高校生創作コンテスト』。各賞ならびに学校賞が決定しました。応募数の詳細と各賞の結果は以下の通りです。                        

【応募総数】
15,781作品
・短篇小説の部:782作品 
・現代詩の部   :1,007作品
・短歌の部      :5,705作品
・俳句の部      :8,287作品

団体賞

【文部科学大臣賞】
神奈川・慶應義塾湘南藤沢高等部
【特別学校賞】 
千葉・千葉県安房西高等学校

 短篇小説の部

【最優秀賞】
  「潮の香るベンチで水平線を書く」
   下村 桜子 (岩手県立大船渡高等学校2年生)
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【優秀賞】
  「地方争生」 千葉 蒼大 (神奈川・慶應義塾湘南藤沢高等部3年生)
  「路傍の人」 落合 咲奈 (東京・トキワ松学園高等学校2年生)
 
【佳作】
  「なくしもの郵便局」 森 妃菜香 (愛媛県立松山北高等学校2年生)
  「子午線の向こうへ」 杉田 遥香 (愛知・光ヶ丘女子高等学校2年生)
  「五文字の願い事」 橋口 花乃 (愛媛県立今治東中等教育学校5年生)
  「捕食」 横山 公輝 (奈良県立大学附属高等学校2年生)
  「ありがとうのコトコト煮」
   牛尼 真大 (神奈川・慶應義塾湘南藤沢高等部3年生)
 
【入選】
  「私たちの『ロボット装飾師』という贖い」
   倉敷 愛子 (徳島県立城東高等学校2年生)
  「土の匂いと真っ赤な夏」 山賀 凪紗 (宮城県立仙台第三高等学校2年生)
  「虫食い月」 深堀 洋人 (京都府立東稜高等学校3年生)
  「青春ロックがやりたくて」 澤田 美優 (愛媛県立松山北高等学校1年生)
  「ねむれない夜に」 髙橋 愛子 (京都市立堀川高等学校2年生)
  「自画像」 河西 ことは (山梨県立甲府東高等学校3年生)
  「彩覚」 原 和奏 (愛知県立時習館高等学校2年生)
  「閉会式の言葉」 村井 友 (奈良・奈良工業高等専門学校2年生)
  「桜と菊と」 岡本 夏澄 (神奈川・慶應義塾湘南藤沢高等部3年生)
  「束の間の幸福な二重奏」 前田 瑠衣 (長崎県立猶興館高等学校2年生)
 

 現代詩の部

【最優秀賞】
  「大欠伸」 菊池 大和 (岡山・津山工業高等専門学校3年生)
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【優秀賞】
  「ボトルメール」 豊島 穂南 (愛知県立時習館高等学校3年生)
  「水槽のはなし」 鈴木 愛音 (東京・国際基督教大学高等学校3年生)
 
【佳作】
  「風」 花井 梓里 (東京・女子学院高等学校3年生)
  「公園」 田川 怜奈 (神奈川・慶應義塾湘南藤沢高等部3年生)
  「足」 山口 莉緒 (広島・AICJ高等学校3年生)
  「餅扶養」 山中 天 (大阪府立枚方なぎさ高等学校3年生)
  「空を掴む巨鳥」 牛尼 真大 (神奈川・慶應義塾湘南藤沢高等部3年生)
 
【入選】
  「くじ引き制度絶対反対」 小田 彩瑛 (岡山・津山工業高等専門学校3年生)
  「散歩術」 齊藤 未来 (埼玉・西武学園文理高等学校1年生)
  「狂った遠近法」
   髙松 夏帆 (東京・東京学芸大学附属国際中等教育学校1年生)
  「朝」 米澤 史華 (東京都立立川高等学校2年生)
  「宇宙の匂い」 岡 ひまわり (千葉・千葉県安房西高等学校2年生)
  「まどろみのうた」 小川 夏季 (北海道・立命館慶祥高等学校3年生)
  「骨壺の前で」 鈴木 叶大 (東京都立一橋高等学校3年生)
  「代償」 西川 まい (東京・白百合学園高等学校3年生)
  「友」 吉本 りさ (埼玉県立浦和第一女子高等学校1年生)
  「星に願いを」 安田 奏愛 (埼玉・浦和明の星女子高等学校1年生)
 

 短歌の部

【最優秀賞】
 細田 弥生 (千葉県立成田国際高等学校3年生)
  全国に響け日本の箏の音よ私が文化の継承者になる
 
【優秀賞】 
  「先輩の大きな背中追いかけて伝説じゃなく伝統にする」
   浅井 睦 (埼玉県立大宮高等学校1年生)

  「心の中明かりの裏に陰があり迷いの中で星を探せり」
   岩本 果穏 (北海道札幌視覚支援学校3年生)
 
【佳作】
  「ユニホーム破れるほどに全力でホームベースに突っ込んでいく」
   安田 悠月 (福岡・西日本短期大学附属高等学校3年生)
 
  「もし負けてもまた立ち上がりまた挑む真の強者はそういうものだ」
   藤咲 良輔 (茨城・常総学院高等学校2年生)
 
  「米騒動江戸から令和へ血からこえ世論という名の百姓一揆」
   長南 結斗 (宮城県仙台第三高等学校1年生)
 
  「裏方と呼ばれる日々に意味を知る主役じゃなくても光はさして」
   金子 実央 (千葉・千葉敬愛高等学校2年生)
 
  「先輩と最後の冬をとりにいく仲間の分まで走り切るから」
   大久保 颯眞 (高知・高知高等学校2年生)
 
【入選】
  「全力で飛んでつなげた一球に仲間の声が翼をくれた」
   小池 莉央 (千葉・千葉県安房西高等学校2年生)

  「水しぶき波のきらめき漕ぎ出せば吹く風と汗が味方に変わる」
   田口 倖菜 (埼玉県立浦和第一女子高等学校1年生)

  「県民の声も届かぬ暗い闇もうやめてくれ辺野古移設」
   吉田 拓矢 (沖縄県立名護高等学校3年生)

  「意を強く自然の世界守らねば人間だけのものではないから」
   山中 蒼大 (京都府立洛西高等学校1年生)

  「汗だくで己を磨く柔道場皆で声出し立ち向かって行く」
   田中 奏 (千葉・千葉県安房西高等学校1年生)

  「日記には書かれぬままのページあり涙の痕がただ話すだけ」
   李 悠喜 (東京・東京朝鮮中高級学校2年生)

  「窓際でどかんと座る怪物は今日もこっそり早弁してる」
   川口 愛美 (静岡県立駿河総合高等学校3年生)
 
  「ちっちゃい「っ」を「つ」にしたくなるくらいには
             とつても君に会いたいのです。」
   森岡 千尋 (神奈川県立光陵高等学校2年生)

  「カウンター仲間がつなぐラストパス振り抜く右足ゴールを揺らす」
   森 愛翔 (福岡・西日本短期大学附属高等学校3年生)
 
  「いつの日も僕を笑顔にする君は夏の夜(よ)照らすほたるのようで」
   逢阪 想良 (北海道登別青嶺高等学校3年生)
 

 俳句の部

【最優秀賞】
奥田 羊歩 (群馬県立高崎女子高等学校3年生)
      泣けば動く鎖骨躑躅の海にゐて
 
【優秀賞】
  「凍鶴のかくりと太き足の節」 武藤 理央 (群馬県立高崎女子高等学校2年生)

  「螢火の連符のやうに顕るる」 冨田 輝 (愛知・名古屋高等学校1年生)
 
【佳作】
  「緊急地震速報かなぶんの翅の音」
   古角 涼真 (愛媛県立松山東高等学校3年生)
  
  「空席の机にゆれる蝉のこゑ」 植村 千裕 (京都府立東宇治高等学校3年生)
 
  「持久走五秒縮めて茄子植える」
   柴田 風歌 (静岡県立静岡商業高等学校2年生)
 
  「風死すや水に映らぬ夢ばかり」 松本 雛 (埼玉・本庄第一高等学校3年生)
  
  「万年の声木霊する瀑布かな」
   竿本 啓晴 (和歌山・智辯学園和歌山高等学校3年生)
 
【入選】
  「長髪の少年羚羊の化身」 國領 拓輝 (熊本・一ツ葉高等学校3年生)

  「蝉時雨汗も落とせぬ製図室」
   今原 穂乃華 (岩手県立水沢工業高等学校3年生)
 
  「駄菓子屋の指輪はめるや草苺」
   田中 沙恵花 (秋田県立秋田北高等学校2年生)
 
  「帚木のかげを辿れば尼の墓」 小林 佑月 (茨城・つくば秀英高等学校3年生)
 
  「青田風かかしの髪を撫でにけり」 黒木 萌那 (埼玉・星野高等学校1年生)
 
  「葉桜をくぐれば雲の白きかな」 窪田 大晴 (愛媛県立松山東高等学校1年生)
 
  「稲びかり筑波嶺鼓動してゐたり」
   武井 佳奈 (茨城県立下館第一高等学校3年生)
 
  「マーカーに彩づく辞書や鶏頭花」
   筒井 輝 (茨城県立下館第一高等学校3年生)

  「のがしたるバスや夕日の春めける」
   篠原 茉弥 (福岡・西日本短期大学附属高等学校3年生)
 
  「蝉時雨父の無言と僕の無言」
   髙野 友楠 (千葉・木更津工業高等専門学校2年生)
 
 

短篇小説の部 最優秀賞作品 

潮の香るベンチで水平線を書く
 下村 桜子 (岩手県立大船渡高等学校2年生)

 秋の湾は、切り立った山に囲まれて静かに光っていた。外の海は荒れていても、この内海は波立つことなく穏やかだ。水面を陽射しが散りばめ、銀の欠片のようなきらめきが細かに揺れる。
 その光を裂くように、小魚が群れをなして走り抜けた。影はすぐに溶けて消えたが、その一瞬の速さと儚さが、胸を不思議に締めつけた。
 潮の匂いに混じって、干した網や昆布の香りがした。都会の空気に慣れた身体には重たいが、どこか懐かしく、忘れていた記憶を呼び覚ますような匂いだった。
 私は坂を下り、海べりの古いベンチに腰を下ろした。板は湿り冷えていて、背にひんやりと伝わる。深く息を吸ったとき、隣に一人の老人が静かに腰を下ろした。
 髪はすべて白く、風に揺れていた。刻まれた皺の深さは、この土地で積み重ねた時間をそのまま映しているように見えた。声を出さずとも、存在が場を満たしていた。彼の体からは、煎ったコーヒーのような香ばしさと、古い紙の乾いた匂いが漂っていた。奇妙だが心を落ち着ける匂いだった。


 ふいに、港の奥から低い汽笛が鳴り響いた。空気を揺らし、胸の奥にまで沁みこんでくる。
「……あれは、別れの合図みたいに聞こえますね」
 口にした瞬間、自分でも少し驚いた。
 老人は口元を緩めた。
「んだが? 迎えの知らせかもしんねぇ。ほれとも、ただの船の合図だっけかもしれん」
 同じ音なのに、私には〈別れ〉に、彼には〈帰還〉に聞こえる。その違いがおかしくて、私は笑みをこぼした。
「人の耳ぁな、自分の心ん中にあるもん拾って聞ぐんだよ」
 老人はそう言い、再び海へ視線を向けた。


 私は老人の手に目をとめた。左の小指がなかった。古い痕は痛みを訴えず、ただそこに在った。
「若ぇ頃はな、大工してらったんだ。鋸(のこ)あ焦(せ)ぇでな、小指ぁ持ってかれだっけよ」
「……痛くなかったんですか」
「痛ぇには痛ぇ。ほでも柱立てられると思や、小指一本ぐれぇ惜しかなかった」
 声はあっさりしていて、痛みはすでに物語へと変わっているようだった。
 老人は海を見たまま続けた。
「わしぁ、この街から出だごとはねぇ。山と海に抱がれで、家建てで、船直して、祭りの櫓(やぐら)も組んだ。外さ行がねぇでも、人も風もここさ流れてきた。それで十分だった」
 その言葉の重みが、静かに私の胸を打つ。
 ふたりの間に言葉はなくなった。ただ並んで海を見た。光はやさしく波を撫で、小魚が銀の閃きとなって走る。
 老人は動かずに座り続けた。目に映しているのは、いまの海だけではない。昔の笑い声も、嵐の夜の怒号も、失われた家々や祭囃子も――すべてが重なって波の色に溶けているのだろう。
 私にはただ「静かな海」としか見えない。その差が胸に迫り、息を飲んだ。
「……海ぁ、なしてこうも何でも呑んで黙ってられるんだべな」
 老人はつぶやいた。私は返す言葉を持たず、その横顔を記憶に刻んだ。


 風が強まり、頬に冷たさを走らせた。夏の湿りを失った風は、骨に沁みる。
「涼しくなりましたね」
 私が言うと、老人は小さくうなずいた。
「秋っつぁ、骨格見えっとぎだ。葉っぱ落ぢで木の形ぁはっきりすっぺ。人も同じだ。余計なもん剥がれて素けぇ姿が見えてくる季節だ」
 私にとって涼しさは「寒い」という事実だけだったが、人を映す比喩に変わった瞬間、自分の感覚が揺れた。
 私は打ち明けた。
「……僕、背が低いんです。百五十センチ。人混みでは海も水平線もすぐ隠れてしまう」
「不便だべな」
「ええ。でも、不満じゃない。見えないなら想像すればいい。子どものころから、そうしてきました」
 老人は目を細め、静かに言った。
「見えねぇ景色を心で描ぐ……それぁ強ぇ力だ。わしも小指ねぐても生ぎてきた。足りねぇもんがあっても、人はやっていける」
 私はうなずいた。欠けや不足は、むしろ人を形にするものだと思えた。
 ふたたび、小魚の群れが水面を走り抜けた。光を裂き、影を結んでは消える。
「人間もな、あれと同じだ」
 老人の声は潮風にまじり溶けた。
「外の波に揉まれて転ぶこともあっぺ。だども胸ん中さは、必ず静かな魚影が一匹は泳いでる。そいつが残ってるかぎり、人は立ち上がれる」
 その言葉は私の胸に深く沁み、心の内に小さな魚影が灯るのを覚えた。

 
 老人はさらにいくつかの記憶を語ってくれた。嵐で壊れた堤を直したこと。戦後の食糧難に海藻を煮てしのいだこと。祭りの前の夜に仲間と汗だくで櫓を組み、夜明けとともに子どもたちの笑顔を目にした瞬間の胸の熱さを忘れられないこと。
 その一つひとつは淡々とした口調だったが、どれも確かな重みを持ち、波の音に溶けてゆく。私は耳を澄ませながら、自分の都会での生活を思った。忙しいだけで何も成し遂げた実感がない日々。老人の記憶の一片にも、私には届かない「生きてきた証」があった。
 やがて、二人のあいだに長い沈黙が訪れた。私たちはただ並び、老人は海を、私は老人を見つめ続けた。沈黙は重く、それでいて満ちていた。風が衣を叩く音と、遠い漁船の唸り声が、一定の鼓動のように響き続けた。
 再び汽笛が鳴った。夕暮れの赤が湾を覆い、音はやわらかに胸を打った。
 別れの音。帰還の音。ただの合図。
 どれもが矛盾せず、同じ場所に重なっている。
 潮の匂い、網の匂い、老人の匂い、秋の冷たい空気。事実はただひとつ――この港のベンチで私は、この土地に根を張って生きてきたひとりの男と並んでいる。
 その事実だけが、解釈を重ねることで無数の色を帯び、限りなく広がっていく。
私は深く息を吸いこんだ。見えぬ水平線のかわりに、胸の奥に静かな線を描きながら。

 

現代詩の部 最優秀賞作品 

【大欠伸】
菊池 大和 (岡山・津山工業高等専門学校3年生)

大欠伸のその後に
照れている君の横顔が
頭の中でぐるぐる回って
なんだか夢でも見ていたのかな

 

それまでの世界なんて枠のないキャンパス
きっとまだ描いている途中で何もなかった
君が付け足す初めの色は不安定なパープル
僕が付け足す初めの色は穏やかなエメラルド
隣にいるときは輝いて見えるけど
混ざりあうことは決してかなわない

 

大欠伸のその後に
照れている君の横顔が
頭の中でぐるぐる回って
なんだか夢でも見ていたのかな

 

遠回りの道に咲いていた未完成のラベンター
何もない期待で満たされた僕によく似ていた
満足なんだもう 諦めちゃっているの
夢の悪魔が嬉しそうに
こちらに手招きをしている

 

大欠伸のその後に
照れている君の横顔が
頭の中でぐるぐる回って
なんだか夢でも見ていたのかな

 

あとはもう勝手に
僕のいないところでどうぞ
ぐるぐる変わっていく
偽りの気持ちに
諦めの大欠伸

ご応募いただき誠にありがとうございました。            
本コンテストは来年も実施予定です。詳細は2026年4月以降に発表いたします。


國學院大學ホームページにも受賞結果を掲載しています。こちらからご覧いただけます。