中高生がスマートフォン向けアプリの開発を行い、企画力や技術力を競う「アプリ甲子園2025」(丸井グループ、ライフイズテック主催)の決勝大会が11月に開催された。12組の中高校生が、自ら開発したアプリの魅力をプレゼン。今回は、「マイナビ賞」を受賞した菊地桃々さんに話を聞いた。(写真・大城唯誠)
数字でメッセージを伝える「ポケベル」を再現
「Bellmy」菊地桃々さん(東京女学館高等学校3年)
1990年代に流行したポケベルを体験できるスマホアプリ。送りたい相手の電話番号と数字を入力し、最後に「#」を2つ付けて送信すると、相手に数字を送信できる。当時を知る人たちには「懐かしさ」を、高校生世代には「新鮮さ」を提供。「平成レトロ」ブームを意識し、あえてドットで表現された見た目が特徴。ウィジェットとしてホーム画面に設定することで、アプリを開かずとも受信したメッセージを確認できるように開発した。
「0840=おはよう」「14106=愛してる」のように、ポケベルは数字でメッセージを送り合い、内容を伝えるものとして当時の高校生たちに流行した。デジタル化、IT化が進む現代において、「相手に数字を送るだけ」「既読・未読などの概念もない」というポケベルの不便さを「あえて忠実に」再現した点が評価ポイント。さらに、1番手という緊張する状況において、堂々とプレゼンをやりきった姿もふくめ受賞理由とされた。
便利すぎることへの違和感が出発点
開発の動機について菊地さんは、「自分も周りの友だちもレトロなもの、たとえば、『使い捨てカメラ』だったり『カセットテープ』『シール』『ルーズソックス』とかに魅力を感じています。一見アナログで手間がかかるようなものが、世代を超えてもう1回ブームになっていると日頃から感じていました」と話す。
「さらに、その理由を考えたり、調べていくと、その裏には、便利すぎることに違和感を感じている現代人の心理があるんじゃないかと気づいたのです。それで、スマホでポケベルを体験できたら面白いなと考えました」
ポケベルが流行した時期は、スマートフォンはおろか、携帯電話でさえ普及していない。そのため、公衆電話を使いメッセージを送るというのが当時の使い方だ。数字を入れ、最後に「#」を2回押すことでメッセージ送信完了となる。「Bellmy」では数字を入力した後の「#」も必要としており、再現度が高い。
「家族に開発中のBellmyの話をしたら、両親も使っていた経験があったのと、近所の方でもポケベル世代の方が何人かいたので、インタビューをしました。できるだけ当時を再現できるようにしたんです」
一方で、同世代からの反応も良かったと話す菊地さん。
「とくに良いねと言われたのが、ホーム画面にウィジェットで表示できる点。かわいいといわれました。また、それを自分だけの色にできたらもっと面白いねとアイデアをもらって、カスタマイズができるようにしたという経緯があります」
中学生の頃からプログラミングスクールに通っていたものの「アプリ甲子園は自分とは遠い存在だった」という菊地さん。1年前にも応募したが、自信をもって出した作品は一次審査を通過できなかった。今回はスクールのメンターからの声掛けもあり、すでに開発していたBellmyで、大会への再チャレンジを決めたのだという。
「大会のためにアプリをつくるのではなく、本当に自分が興味を持っているジャンルで楽しいアプリを作ってみたいと思ってつくり始めたのがBellmyなんです。自分が楽しめて、友だちや家族も使ってくれて『良いね』といってもらえるものにたどり着きました」
はじめての「通信系アプリ」開発
「Firebaseというウェブアプリ開発プラットフォームを使っているのですが、それまでに作ってきたものはアプリ内で完結するタイプが多く、通信系アプリ開発の経験がなかったのでその点が苦労しました。送信テストで、送ったけど何も届かないという状態がずっと続いて、問題がどこにあるのかを確認したり、スクールの先生にもアドバイスをもらいながら進めました。お互いに送り合えるものが完成した時はうれしかったです。2025年2月頃から作り始めて、4月には完成しました。ポケベルアプリなので送るのは数字だけ。送り合う情報量が少ないので、制作期間は短く済んだと思います」
失敗してもいいから全部挑戦したい
アプリ甲子園への挑戦、そして受賞を通して、大きな心境の変化があった。
「自分の伝え方次第で大きく変わること、そして自分がどれだけ思いを伝えられるかの大事さをアプリ甲子園を通して学びました。今後は、『もっとこうやっておけばよかった』という後悔が残らないように、失敗してもいいから挑戦できることに全部挑戦したいと考えています」
- 審査員講評 谷本 健次さん(株式会社マイナビ)
コミュニケーションの新しい形を提案
「菊地さんの作品『Bellmy』は、『伝えること』の新しい形を提案してくれているという点で高く評価しました。多様な価値観や表現が尊重される現代社会において、菊地さんは平成レトロブームに着目し、さらに『あえて手間をかけること』に価値を見出していました。『アプリであれば言語を超えたコミュニケーションとして世界にも広がる』と菊地さん自身もおっしゃっていますが、そういった点もすごく未来を感じさせてくれました」
「マイナビは、『一人ひとりの可能性と向き合い、未来が見える世界をつくる。』を会社のパーパス(存在意義)としています。それは決して簡単なことではなく、アプリや技術力だけで実現できるものでもないと思っています。そんな中、菊地さんの作品は、あえて手間がかかることや手触り感、ヒューマンタッチな価値を重視している点で、わたしたちとすごくマッチしていると感じました」
「これをやりたい」「困っている人を助けたい」という動機
また、本大会では協賛企業が提示するテーマを解決するアイデアを募る「アイデア部門」も実施。マイナビ賞はスマートフォンやPCなどの活動を自動で記録し、客観的なデータで正確な振り返りを促す「NeuRecorder」(大平直輝さん/中学3年生)が受賞した。
「決勝大会には、『自分はこういうことをやりたい』という内発的動機と、『同じように困っている人を助けたい』という利他的動機を強く持っている人たちが集まっていました。今後もより多くの多様なアイデアや価値観が集まる場として、アプリ甲子園が発展していってほしいですね」
提供:マイナビ


