東日本大震災発生後、津波の影響で東京電力福島第一原子力発電所(以下、原発)の原子炉建屋が爆発した。建屋内は放射能で汚染され、人間の立ち入りもままならない。そんな危険な災害現場で活躍したのがロボットだ。事故後の原発に初めて入った国産ロボットを開発した千葉工業大学未来ロボット技術研究センター・fuRoの研究員、西村健志さんに話を聞いた。
原発対応ロボット「Quince1号機」を開発
2011年6月20日、福島県双葉郡にある福島第一原発の内部調査を行うために、1台のロボットが千葉工業大学を出発した。ロボットの名前は「Quince(クインス)1号機」。その開発チームの中心となったのが、当時同大学の大学院生だった西村さんだ。
Quince は、fuRoが東北大学などと共同開発した災害状況調査を目的とするレスキューロボットで、震災の前年に完成したばかりだった。事故発生後、福島第一原発にはアメリカをはじめ世界各国のロボットが投入されたが、西村さんは「ニュース映像を見て、がれきだらけの建屋内に入れるのはQuinceだけだと思いました」と振り返る。Quinceは、傾斜42 度という、建屋内の急な階段を昇降できる唯一のロボットだったからだ。
西村さんら開発チームは東京電力の要請を受け、原発災害に対応できるようQuinceを全面的に改良。放射線量を測る線量計や、建屋の地下にある汚染水の量を調べる水位計などを取り付けた。事故の報道を参考にしながら、ロボットが必要とされる場面を想定し、寝る間も惜しんで作業に取り組んだ。
困難を乗り越え建屋内部の調査に成功
こうして誕生したQuince1号機だったが、いざ現場に入るとさまざまな困難にぶつかった。建屋地下に向かう階段の幅が想定よりも狭かったため、先に進めなくなったり、安全装置が働いて何度も停止とリセットを繰り返したり。そのたびに西村さんたちは東京電力と話し合い、細かい改良を重ねていった。
こうした努力が実を結び、ついにQuince1号機は建屋内の詳細な放射線量の測定と写真撮影に成功する。得られたデータは、原子炉の冷温停止(原子炉内の水の状態が100℃未満を保っている状態)の達成に大きく貢献した。
レスキューロボットを通して社会に貢献を
子どものころから機械が好きで、テレビが壊れた時には自分で分解し、直していたという西村さん。工業高校を経て千葉工業大学に進学すると、すぐにその実力を認められ、1年次からfuRoのプロジェクトに参加する。以来、今日まで一貫してレスキューロボットの研究・開発に取り組んできた。
Quince1号機を開発したあとも、無線LAN を搭載したQuince2号機・3号機を開発。それらをさらに改良し、本格的な原発探査ロボットも開発した。高所をカメラで観測できる「Rosemary(ローズマリー)」と、狭い空間でも小回りがきく「Sakura(サクラ)」だ。2台はすでに福島第一原発で調査活動を行っている。
原発事故収束までの道のりは長い。「でも、自分たちの技術やロボットが必要とされているという確信があるから頑張れる。これからも人の役に立つロボットを開発していきたいですね」。熱い思いを胸に、西村さんはさらなる挑戦を続けていく。
fuRoとは
千葉工業大学未来ロボット技術研究センター・fuRo(Future Robotics Technology Center)は、「ロボット技術で未来の文化を創る」をミッションに掲げ、日本初の「学校法人直轄の研究所」として2003年に設立。ロボットの要素技術と統合技術を生かしてベンチャー企業的活動と中長期に及ぶ研究活動を展開し、従来の概念を超えた未来の機械の創造を目指している。