中学生、高校生を対象に武蔵野大学工学部数理工学科が募集する「数理工学コンテスト」。第11回目となる今回は、全国から101作品の応募があり、そのうち14作品が入賞を果たした。

次代を担う中学生・高校生たちが栄えある受賞

武蔵野大学工学部数理工学科では、データサイエンティストの育成を目指している。その一貫として、次代を担う中学生、高校生を対象とした「数理工学コンテスト」を2014年から毎年開催している。

「数理工学コンテスト」は、身近にある不思議な現象や興味深い事象を数理の力を使って解き明かし、発表する機会にもなっている。今回の「第11回数理工学コンテスト」では、全国の中学校・高校から101作品の応募があった。

3月22日(土)には、オンラインにて授賞式を開催。受賞者、選考委員が画面越しではあるが一堂に集まり、表彰および選考委員による入賞作品の講評が行われた。

 
オンライン懇親企画の授賞式での様子
 
 

 

選考委員評

武蔵野大学工学部数理工学科  時弘哲治

今年は、全体で101件の応募がありました。そのうち、高校生が81件で中学生が20件でした。授賞作品数は、高校生の作品が8件、中学生の作品が6件で、全部で14作品でした。選考基準には年齢は考慮されていませんので、中学生の作品に高校生の作品に負けない優れたものが多かったことになります。今回も、応募作品の分野は、日常的・社会的なテーマから自然科学・数学の問題に取り組んだものまで多種多様でした。研究方法についても、数理モデル、最適化、統計、観測、実験、インタビューなど多岐にわたっていて興味深く拝見しました。いずれも素晴らしい作品で甲乙つけがたく、なかなか難しい選考になりました。

今回、最優秀賞を受賞したのは、黒板が見えにくい・声が聞こえにくいなど,生徒が学校の授業中に受ける不利益を解消することを目的とした座標配置システムの構築です。身の回りの問題に着目し、数理的な考察・手法を用いて解決しようとした点、実際の座席配置を評価するシステムを複数提案し検証したことなどが選考委員会において高く評価されました。身近な疑問から出発し、独自の視点から評価ポイントを見つけて適切な評価関数を設定し最適化を行い、手動及び自動最適化といった複数の方法を提案して検討するという研究の進め方は、数理工学の研究の進め方そのものであり、たいへんすばらしい作品です。

優秀賞には、錯視を数学的に扱いプログラム化した高校生の作品と、日常生活で興味を持った事柄を数理的に探究した3つの中学生の作品が選ばれました。遠近感の錯覚を利用したエイムズの部屋の作成は立体幾何学を使い、錯視現象を数理的に理解したうえでプログラムした作品です。3つの中学生の作品は、空気の汚れを観察するためにマツの葉の気孔に着目し、様々な場所からマツの葉を採取し、さらに空気の汚れに関連しそうな情報を細かく収集しそのデータを元に考察した作品、JRの「みどりの窓口」の混雑問題を実地観察・係員のインタビューと待ち行列の理論などの数理的手法の組み合わせによって分析し、混雑緩和策を提案した作品、中学生目線で暮らしやすい街の特徴を数学的に表すことを目的とし、基本的な統計手法を用いてデータをわかりやすく可視化した作品で、いずれも新鮮な視点から数理を用いてまとめあげた作品でした。

奨励賞と選考委員賞に選ばれた作品も力作揃いです。数理モデルとしては、メール型ウィルスの感染広がりを差分方程式でモデル化したものや、学校における感染症の広がりをSIRモデルでモデル化したものがありました。数学の分野では回転曲面装飾アプリを、3次元球面遠近法を用いて作成したたいへん完成度の高いものがありました。物理実験では、ガラス窓の枠の形状とガラスの割れにくさの関係を調べるために、仮説を立て仮説検証の実験を行った作品がありました。また、長い文章において字体が記憶に与える影響に対して100人規模での実験しそのデータを分析した作品、感受性の高い人の困難を解消できる方法を自身の実体験をもとに自作の機器によって分析した作品、人間の最も楽な姿勢を身近な測定器具を使い検証した作品がありました。多様なデータを解析・統計的処理した作品では、外部企業提供のデータを含む様々なデータ・ソースを利用し、視聴率の変動傾向と関連要素をもとに今後の視聴率の展望を示した作品、観客者数とスポーツ選手のパフォーマンスを無相関P値による優位性検定などの高度な統計手法を適切に使用して分析した作品が選ばれました。

数理工学は、数学の力を用いて身の回りの課題を解決する学問です。応募作品は、どれも、新鮮な視点から身近にある課題を把握し、観察・実験・実地調査などを基に、数理モデル化・統計・コンピュータ・データ解析により課題に取り組んだものでした。これからも、幅広い勉強・情報収集を続け、数理工学の実践力を磨いていって欲しいと思います。

11回(2024年度)受賞作品一覧

最優秀賞(1作品)
座席配置の評価システムの開発 
広島大学附属高等学校 
優秀賞(4作品)
気孔の汚れによって空気の汚れ具合を推測する
光塩女子学院中等科
 
【立体解析幾何学】を用いたエイムズの部屋の製作
大阪教育大学附属高等学校天王寺校舎
 
みどりの窓口の混雑緩和に関する考察
広尾学園中学校
 
街の暮らしやすさを中学生目線で可視化する
光塩女子学院中等科
奨励賞(4作品)
数学を用いた”回転曲面”装飾アプリ制作
大阪教育大学附属高等学校天王寺校舎
 
メール型ウイルスの数理モデル 
広尾学園中学校
 
学校における感染症対策の妥当性の検証
群馬県立前橋女子高等学校
 
長い文章において字体が記憶に与える影響 
市川中学校
選考委員賞(5作品)
割れにくいガラス枠 
西宮市立西宮高等学校
 
HSPで苦しむ人を助けるための光の分析 
神奈川県立光陵高等学校
 
観客者数とスポーツ選手のパフォーマンス分析
市立札幌旭丘高等学校
 
今後の視聴率の展望とはーー視聴率の変動傾向と関連要素をもとにーー
京都市立堀川高等学校
 
人間の最も楽な姿勢 
昭和女子大学附属昭和中学校
 
 

大学ホームページに後日、優秀作品や選考委員による講評を掲載予定です。

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