千葉工業大学が、アリゾナ州立大学との協定締結を発表した。10月22日(火)に実施された報道発表では、学長の伊藤穰一氏とCintana Education(シンタナ・エデュケーション)社の創業者兼会長のダグラス・L ベッカー氏によるメディアトークが行われた。
深いパートナーシップを結んだ理由
アリゾナ州立大学は、アメリカの「U.S.News&World Report」が発表する大学ランキングの「最も革新的な大学」部門で、10年連続1位を獲得している。
今回の会見に登壇したダグラス・L ベッカー氏は、「イノベーションをアリゾナ州立大学から世界に広げること」をミッションとする、シンタナ・エデュケーション社の創設者であり、会長を務めている。MIT(マサチューセッツ工科大学)のメディアラボ所長を務めていた千葉工業大学の学長・伊藤穰一氏とは旧知の仲であり、伊藤氏は以前から両大学の連携を考えていたのだという。
(伊藤学長)
「アリゾナ州立大学がなぜイノベーション1位なのかというと、普通の大学と違ってものすごく改革をするし、激しい改革をし、成功させているから。さらにそれをオンライン教育のプログラムなどでシステム化しています。学科は850あり、ノーベル賞受賞学者も多数。研究力のランキングでも上位に入っています。自分がいたMITの場合は、入学が難しく、いわば入口のバーを上げている大学です。優秀な学生を集め、彼らの研究で社会貢献をするというのが、MITをはじめとしたエリート大学の考え方。一方のアリゾナ州立大学は、州立ということもありますが、なるべくたくさんの人に門戸を開き、入学者たちをいかに教育し、その結果社会にどのように貢献してもらうかということがゴールなんです。とくに最近アメリカでは、エリート大学の考え方も良いが、社会に役立つ人をどうやってたくさん教育するかということを考えないと、貧富の差がどんどん広がっていってしまうと言われています。そのため、『アリゾナ州立大学のやり方が新しい大学モデルだ』と認められてきているんです。一方で私たち千葉工業大学も、建学の精神で『世界文化に技術で貢献する』というのがあって、広く解釈すれば考え方が近くよく似ている。理念が近いと感じています」
(ベッカー氏)
「変革のためには、より幅広く、深いパートナシップが不可欠です。アリゾナ州立大学は各国に1校のみ、深い関係を築けるパートナー校を探してきました。パートナー校は我々のテクノロジーや教育のカリキュラムなどを使うことができます。『さまざまな研究を通じて幅広く誰もがアクセスできる教育』という同じビジョンを共有している理想的なパートナーとして、私たちは千葉工業大学を選んだのです。もちろん日本には著名な大学は他にもありますが、「ビジョン」「柔軟性」、そして「イノベーションに対する包含性」を持つ大学という意味では千葉工業大学が一番適切です。すべての大学はもちろん、さまざまなテクノロジーを生み出すという点では革新的ですが、大学の在り方やオペレーションの在り方という意味では必ずしもイノベーティブではない場合もあります。そういう意味で、千葉工業大学はより早く動くマーケットに合わせて能力を活用できると考えます。そのため、今回のパートナーシップを通じて、大学の皆様、学長、理事長と共に歩んでまいりたいと思います」
(伊藤学長)
「なぜ今この時代の大学ににイノベーションが必要なのかというと、AIなどの登場により圧倒的に社会や仕事が変わってしまうからなんです。これに対して、普通の大学は変化がゆっくりなんですね。これは日本もアメリカも一緒です。変わっていく世の中に対して新しい教育や学び方、教育方法もなかなか変わることができない。例えば、国レベルではアメリカも日本も半導体に力を入れていこう、となっているのに技術者がぜんぜん足りていません。我々はいち早く「宇宙・半導体工学科」を作りました。アリゾナ州立大学は研究力も教育力も高いですし、AI研究も進んでいます。私たちより10倍以上大きな大学ですが、パートナーとしても早く動ける大学でないと、ついていけません」
パートナーシップにより変わることは?
(ベッカー氏)
「我々が世界の各大学に対して行っていることと同様に、千葉工業大学に対して情報をオープンにします。他の国ではその結果の影響が国レベルの限定的なものかもしれませんが、日本の場合はさらに国境を越えた広がりが期待できると考えています。というのも、日本は世界経済において大きな力を持っているから。千葉工業大学を通して日本とパートナーシップを組めるということはイノベーション、テクノロジーのそれぞれが、アジア太平洋地域だけでなく世界に広がっていくと考えています」
(伊藤学長)
「私たちも完全にオープンにして、何年もかかるものもありますが、さまざまなコラボレーションやプロダクトの開発をしていきたいと考えています。ただの包括協定で学生が少し行き来するというレベルではなく、大学という事業体として深いパートナーシップを検討しています。また、今後の大学はグローバルステージに乗らないといけません。その際には、英語がとても重要になってきます。千葉工業大学も決して今までは進んではいなかったのですが、今回の提携の中では英語のセンターなどを作って本気でやっていかないといけません。我々がモデルになって進めていけたらいいなと思っています」
高校生へのメッセージ
(伊藤学長)
「今まさに、日本の経済が復活していこうとしていますが、今後はグローバルな視点が大切です。海外の会社に勤めたり、コラボレーションするということがますます必要になっていくと思います。そんな時代を見据え、今回の協定により、アリゾナ州立大学の教材をもとにした授業も増えていきます。また日本で何年か勉強して、そのあとアリゾナで仕上げるというような、効率よく留学できる形の検討も進めています。海外留学したい人や英語を学びたい人、海外の一番最新の学問を学びたいという人に向けたカリキュラムを準備していきます。
また、アリゾナ州立大学は大きい大学なので、教育にかけられるお金がすごいんですね。『ルーカスフィルム』の元ディレクターとか、トップのエンジニアが一緒に学生を教育したり、プロジェクトを実施するためのテクノロジーに投資しているんです。最新のVRやAIといった分野の研究は、そもそも学ぶ方法が毎年のように変わっています。それら最新の学びに、コラボレーションを通じてアクセスできるようになります。MITにいて分かったのは、プライドが高い学校ほど、今までのやり方がこうだからとか、変革が難しいんです。その点、アリゾナ州立大学も私たちも、変革がすごくできます。今回の協定を通じて、新しい教育現場を作っていけると考えています」
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提供:千葉工業大学