お弁当甲子園は夏休みの課題として取り組んでいただく学校が多いため、生徒さん個々の取り組みになりがちですが、先生による事前の指導によって、作品の内容や学びの質に変化があるかもしれません。授業で学んだ事を活かし、お弁当甲子園に取り組んでいる、群馬県立高崎女子高等学校の家庭科・橋谷先生に導入方法を伺いました。

 文部科学大臣賞受賞 高崎女子高校・橋谷先生に話を聞きました

「家庭科の夏休みの課題は、お弁当です」って生徒に伝えると、「えーっ、作ったことない」「作れない」という反応でした。「大会に応募するよ」と言ったら、ちょっとピリピリして不安そうな表情になったんです。そこで「実はね…」と、去年は同じ大会で、高高(高崎高校)の生徒が優秀賞を受賞した話をしました。途端に、「え?」となって、「高高の子ができるんだから高女(高﨑女子高校)だってねえ」という雰囲気になったんです。負けてはいられない、って。同じ市内の女子校と男子校ということもあって、相手のことが気になるんですよ。そこをちょっと突いたところもあります。

本校では、1年次に全員が家庭科を履修するので、「お弁当甲子園」応募は1年生全員の必須課題にしました。

本校にはカフェテリアがないので、生徒たちは基本お弁当です。早弁も自由。食べられる時に食べておこう、という感じなので、1時間目が終わって教室に入るともう〝おだし〞のいい匂いがしてきたりして。「誰かおでん食べた?」って聞くと、「先生、すごい。何でわかったの?」なんてこともありました。お弁当を広げていると、やっぱり気になってちょっと覗くんです。「卵焼き、きれいに巻けてるね」なんて感心していると、「お母さんです」って返ってきたりして。自分でお弁当を作ってくる子は、少ないと思うんですよね。それは、見ていて感じます。だからこそ、自分で作る機会を持ってほしかったんです。

私自身、教師になってからお弁当作りを始めました。最初は、隙間が埋められなくてスカスカのお弁当。大学の家政学部を出たものの、専攻は服飾で料理はあまりやってこなかったんですね。一緒に暮らす母から、「緑色が足りないね」とか「これ入れてみたら」と助言があって、この5年間でだいぶコツを掴んできました。何よりの変化は、スーパーで素通りしていた野菜コーナーに立ち寄るようになったことです。自分で作るというのは、食材選びから始まるんですよね。今まで目に入らなかったものが、急に見えてくるようになりました。

実は高校時代、お弁当に入っていたひじきの煮物や苦手な野菜を時々残していたんですよ。母に悪いな、と思ってそっと捨てていました。その一品を作るのが、どれだけ大変か。今更ですけど、やっと気づいたんですよね。

夏休み明け、生徒が提出した課題作品を見て正直驚きました。想像以上の出来で、全員にハナマルをあげたかったです。このお弁当甲子園では、「必ずこの食材を入れなさい」とか「バランスよく」といった決まり事がないのも良かったな、と思います。自由にやっていいよ、というと、うちの生徒たちは本当にイキイキとして楽しそうなので。

私自身も、わくわくしながら結果を待っていたんですよ。外部の人がどう評価するのか、とても興味がありました。本校からは、優秀賞と佳作で2人が受賞。ひとりは、花屋を開くいとこのために花言葉まで調べて作ったお弁当。事前にイラストを描いてから、材料の買い出しに行ったと聞いて、さすがだなと思いました。もうひとりは、発達障害の特性がある弟のためのお弁当。彼女にしか作れない、心のこもったお弁当でしたね。

今回、教室では見られない生徒たちの素顔を知ることができました。こんな家族に囲まれているんだなあ、とか、こんなことを大切に思っているんだ、とか。生徒の内面が伝わってきました。

反省点もあるんです。初めての応募だったので、280人分の作品を集めて、データをすべてスキャンしてから郵送するまでで手一杯だったんですよね。予想もしていなかった文部科学大臣賞をいただいて、もうびっくり。後になって、皆で振り返りの時間を持つべきだったなと気づきましたが、ちょっと遅かった。プロジェクターで作品を見ながら、クラスで共有したかったです。それに、お弁当に向く食材と向かない食材の話もせずにぽんと課題を投げてしまったから、そこも反省点。ポテトサラダがいっぱい登場して、指導していないのがばれちゃった、なんて思いました。

高女の生徒たちは、恵まれた環境にいる子が多く、親のありがたみに気づくのは少し時間がかかるのかもしれません。でも、今回受賞した2人を、地元のラジオ局や新聞社が取材してくれた時、2人とも親への感謝の言葉を口にしていたのが嬉しかったですね。自分で作ったからこそ、素直に出てきた言葉だと思います。 

 高崎女子高等学校の受賞作品を紹介! 

【優秀賞】 奥田 羊歩 さん  「花屋を目指すいとこ」へ 「常に前進」弁当

 

花屋を開くことを目指し、今はフラワー装飾技能士の資格を取るため勉強しているいとこへのエールです。お弁当全体で花壇を表現するためパンは全粒粉、彩りと栄養のためにレタスとトマトも入れました。いとこの一番好きな花はガーベラで、その花言葉「常に前進」もいとこが教えてくれました。それ以外にも、お弁当を作るにあたって色々な花言葉を調べ、デイジーの「希望」やムスカリの「明るい未来」などを知りました。花のこと以外にも、昔から一緒に遊んだり出かけたりとお世話になってきたので、感謝と応援の気持ちを込め、それらの花をいとこの好きなサンドイッチにして渡しました。いとこはどの花も当ててくれ、「ありがとう」と言ってくれました。

【優秀賞】 萩原 実和 さん  「弟」へ 「ハートいっぱい」弁当

 

小学4年生の弟には発達障がいがあり、少しの感覚でも過敏に反応します。特に弟は玉ねぎが大嫌いで、どんなに細かく刻んでも取り除いて食べていません。今回作ったお弁当では、弟に玉ねぎが入っていることに気づかれないようにするために、ケチャップライスの作り方を色々と考えました。そして最終的に、みじん切りにしレンジで加熱した玉ねぎを米と共にピラフの要領で炊き上げました。コンソメも一緒に炊いたので玉ねぎ特有の風味も緩和することができました。弟も、玉ねぎの存在に気づかずに、おいしいと完食してくれました。少食で可愛いもの好きな弟に食べることの楽しさを知ってもらおうと不器用なりに努力したので嬉しかったです。

お弁当甲子園の応募概要はこちらからご確認ください

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