強豪がひしめく神奈川において、今夏の全国高校総体(インターハイ)県予選で初優勝し、3年ぶりに全国の舞台に立った横浜創英(神奈川)サッカー部。パスワークの練習を徹底し、実力を上げてきた。1人で局面を打開できるような突出した選手がいないからこそ、丁寧にボールをつなぐサッカーがチームの土台になっている。
(文・写真 小野哲史)

素早い判断力が必要

横浜創英のサッカーは、丁寧にパスをつないで相手を崩すスタイル。多くの強豪校が採用する堅守速攻とは対極的な戦い方といえる。DF福田崚太(3年)は「ボールキープを大事にするサッカーに引かれて、横浜創英への進学を決めた」と話す。

練習時間の多くは、パス回しやゲーム形式に費やされる。取材日に行った「5対3」は、約15メートル四方のエリア内で、3人対3人でボールを奪い合うメニューだが、残りの2人は常にボールを持っている方の3人に加わる。

正確なボールコントロールはもちろん、素早い判断力が欠かせない。練習中、選手から何度も「切り替えて!」という声が出ていた。主将の市原亮太(3年)は、日々の積み重ねで自身の成長を実感しているという。「毎日意識していることもあって、強く正確なパスが身につきました。頭を使うサッカーなので、やっていて楽しいです」

プレーを楽しむ

パスサッカーの質を高めるため、シュート練習は時々行うものの、合宿などを除いて技術練習や体力強化のためのトレーニングに時間を割くことはほとんどない。全体での朝練習はないため、自分に足りないものがあれば、朝や自主練の時間に各自で取り組み、課題を克服する。

今夏のインターハイでは、全国大会初勝利を飾ったが、2回戦はPK戦の末に敗れた。ただ、「全国でも自分たちのパスサッカーは通用する」(福田)と手応えをつかんだのも確かだった。

「川崎フロンターレやバルセロナのようなリズム良くつなぐ攻撃的なサッカーが理想。難しいけれど、みんなイメージは持っていると思います」と市原。憧れのチームが行う、自分たちが楽しめて観客を引きつけるサッカーを追い求める。

 

5人対3人のパス回し
狭いエリアなのでゆっくりボールを持つ時間はない。敵のマークをかいくぐり素早くパスを出す

 

2人一組で対面パス
目指すパスサッカーの土台となる、最も基本的な練習

 

キーパーもパス練習
試合ではゴールキーパーから攻撃を組み立てる場面も多い。正確な足技が不可欠だ

人として成長を

宮沢崇史監督

 

パスサッカーを求める原点には、楽しくサッカーをやりたいという思いがあります。子どもたちはボールに触りたいからサッカーを始めたはずで、守備をしたくて始めたわけではありません。長い時間、ボールを保持できれば、守備に追われる機会が減りますし、体格や身体能力の差が関係なくなるというメリットも生まれるのです。

サッカーを通じて、いろいろなことに気づける大人になってほしいと思います。用具の片づけをマネジャー任せにするなど、今の生徒はまだまだできていないことが多い。サッカーだけでなく、人としても成長していく必要があるでしょうね。

 
 

 TEAM DATA  2002年創部。部員111人(3年生37人、2年生29人、1年生42人、マネジャー3人)。13年インターハイ出場。今季はU-18神奈川県リーグ2部で8勝1分。参入戦も制して1部昇格を決めた。主な練習場は横浜創英大学や保土ヶ谷公園ラグビー場など。