全国高校サッカー選手権決勝が1月13日、埼玉スタジアム2002で行われ、静岡学園(静岡)が前年度王者の青森山田(青森)に3-2の逆転勝利で24大会ぶり2度目の優勝を飾った。「サッカーどころ」として知られる静岡県勢久々の優勝の背景には、「切り替え」にこだわるプレースタイルがあった。(文・茂野聡士、写真・幡原裕治)

劇的な逆転勝利 後半の攻勢が前回王者を下した

大会史上最多となる5万6025人の大観衆が集まったひのき舞台は、選手権史に残る劇的な展開になった。

前半は連覇を狙う青森山田が11分、フリーキックから藤原優大(2年)が頭で合わせて先制。そして33分にはJリーグ浦和に加入内定の武田英寿(3年)が獲得したPKを自ら決め、2点のリードを奪った。

前半、2点のリードを奪った青森山田

しかしここから静岡学園が反発力を見せる。

前半終了間際にDFながら得点力に優れる中谷颯辰(3年)が1点を返し、後半に入ってさらに攻勢をかける。16分に加納大(2年)が「得意な形」と語る巧みなターンからの同点ゴール、そして40分にはセットプレーから再び中谷がヘディングシュートを決め、大逆転劇を実現した。

怒涛の反撃で点を重ねた静岡学園

攻守の切り替えを極める「相手が嫌がるプレースタイルで」

技術に自信を持つ静岡学園のドリブルやパスが、青森山田の経験値を上回る形になった。

大きなポイントとなったのは「攻守の切り替え」。ここ近年のサッカーの流行は、ボールを奪った後、すぐ奪い返すこと。そうすると相手の守備陣形が整っていないうちに、相手ゴールから近い位置で攻め直せるからだ。

静岡学園はそれを徹底し、今年度の高校世代ナンバーワンの実力である青森山田相手に主導権を握った。

攻守の切り替えに軸を置いてきた

切り替えの大切さに気付いたタイミングがあるという。DF田邉秀斗(2年)、MF松村優太(3年)、FW岩本悠輝(3年)と各ポジションの主力は異口同音に「夏に開催されたカップ戦で、昌平(埼玉)と対戦したのがきっかけでした」と口にした。

Jリーグ鹿島に加入内定の松村は当時をこのように振り返る。

「(昌平は)自分たちとスタイルは同じで技術を生かそうとするチームでしたが、積極的にボールを奪い返しにきた。その結果、自分たちはボールを全然支配できなかった。ただそこで『これを今後の自分たちがやれれば、凄く対戦相手は嫌がるんじゃないかな』と思ったんです」

昌平戦で気づきを得た

夏前の高校総体県予選決勝でも苦い記憶がある。

清水桜が丘相手に2-3で敗戦。ここで「守備の甘さが出て負けた」(松村)という課題が露呈した。

だからこそ攻撃だけでなく、攻撃が終わった瞬間のディフェンスを共通で認識する必要性を誰もが感じたのだ。

攻撃が終わった瞬間の守備を大切に

守備崩す攻撃力光る 試合重ねるごとに進化

5得点で大会得点王に輝いた岩本は、日々のトレーニングで「一人ひとりが意識することで、みんなの切り替えが早くなった」と大きく意識が変わったことを実感。

ハーフコートの中での11対11のメニューでは狭いスペースの中で素早くボールを奪い、その後はドリブルなどで守備を崩す攻撃力を、川口修監督の下でつけていった。

勝利が決まり抱き合い喜び合う

内容で圧倒された1つの練習試合からヒントを得て、自分たちの良さを最大限発揮する。

新たなスタイルは県予選でも機能し、5年ぶりとなる全国の舞台に辿り着いた。そして迎えた選手権。「今大会の中でも『徐々に守備が速くなっている』と監督から言われていました。それは自分たちも実感できていました」(岩本)と日ごとに自信をつけ、最終的に5試合で19得点2失点と攻守両面でハイレベルなサッカーを実現した。

チームを引っ張った松村

テクニックに加えて「切り替え」という規律も備えれば、もっと上手く、強くなれる――静岡学園の誰もがそんな意欲を持ったからこそ、日本一へと駆け上がれた。

日本一に歓喜
【チームデータ】
1965年創部。部員数257人(3年生74人、2年生97人、1年生86人)。95年度大会での前回優勝は鹿児島実(鹿児島)との同校優勝で、単独優勝は初。「キングカズ」こと三浦知良(横浜FC)や大島僚太(川崎)ら数多くのプロ選手を輩出。
静岡学園のメンバー