大学の社会学部や社会学科では、高校で習う社会科の範囲に限らず、この社会で起きているあらゆることについて考察を深めることができる。社会学とはどのような学問で、どのような研究が行われているのか、中村英代教授(日本大学文理学部社会学科)に聞いた。(文・写真 安永美穂、取材協力 関東社会学会)

実際にインタビューも

――研究対象となる分野は?

社会問題論のゼミ(日本大学提供)

社会のあらゆる分野が対象となるため、日本社会や国際社会の構造について研究することもできますし、「家族」「教育」「福祉」「環境」「産業」「都市」「災害」「メディア」「観光」「芸術」「流行」などのテーマを切り口として、社会への考察を深めることも可能です。私のゼミでは、「格差と貧困」「恋愛と結婚」「男らしさ・女らしさ」「いじめ」「依存症」「自殺」「家族のあり方」といったテーマも取り上げています。

――研究の進め方は?

研究の手法としては、文献を読んで調べる「文献調査」、多くの人の意見を集めて主に量的な分析をする「アンケート調査」、少数の人の考え方を深く掘り下げて質的な分析を行う「インタビュー調査」の3種類があり、複数の調査を組み合わせることもあります。インタビュー調査には、現地調査を行うフィールドワークも含まれます。

社会の闇にも迫る

――学生はどのような研究に取り組んでいるのでしょうか?

ある学生は卒業論文で「アイドルファンは実際にどのような生活をしているのか」というテーマを取り上げました。熱心なアイドルファンに、コンサートやグッズなどにいくら使っているのか、そのお金はどのように工面しているかのインタビュー調査を実施し、考察を深めていきました。

こうした事例もあります。普通の大学生だったある女性は、あるアイドルのファンになり、コンサートに通うお金を稼ぐために時給の高い夜間のアルバイトを始めたそうです。でも、やがてアルバイト代だけでは足りなくなり、大学を退学。自分が望んでいたのとは違う仕事に就いて働かざるを得なくなったといいます。

この女性の話は、アイドルをビジネスととらえてお金の流れに着目して論じることもできますし、「なぜそこまでハマってしまうのか」という心理分析も含めた個人のライフストーリーとして追うこともできます。アイドルの世界は華やかに見えるけれど、それを支えているファンの中には人生が変わってしまった人もいる。現代社会の光も闇も見ることで、社会の現実に迫ろうというのが社会学の研究なのです。

中村英代教授(日本大学文理学部社会学科 教授)

 

なかむら・ひでよ 東京都出身。お茶の水女子大学文教育学部卒。お茶の水女子大学大学院人間文化研究科博士後期課程単位取得満期退学。博士(社会科学)。専門は臨床社会学、社会問題論、ジェンダー論。専門社会調査士・社会福祉士。